Butterfly Effect
魔法や魔物が存在する世界ミンストレア。
その世界に存在する五つの大陸の一つアプロスにラフレンツェアという王国がある。
この国の城は別名"天空城"と呼ばれ、その名の通り城が天高い場所に浮遊しており遠くからでも存在を確認することができる。
国同士の争いや魔物の脅威があり、さらに大陸の中心に存在する国でありなが謎の多い国でもある。
それは、国全体が不可侵の森と呼ばれる侵入しようとしてもいつのまにか外に出てしまう森に囲まれており、さらに遥か昔から鎖国をし外部との接触を断っているためである。
その為他国は貿易や侵略の際大きく迂回するはめになり、幾度となくラフレンツェア王国に侵攻しようと試みたが森が邪魔をし断念している。
一応侵入口だと思われる場所も存在するが、そこには一度に何千もの兵を退ける門番がいるため森よりも危険である。
そのような謎の多い国の一室で一人の人物が何かを覗いていた。
艶のある純白の髪をボブカット。アクセントに後ろ髪の真ん中のみ腰まで伸ばし、服装は赤い軍服にも見える修道服を着ている。男にも女にもみえる中性的な顔立ちをしているその人物は、この国の王リベルテ・スターウィッシュその人であった。
「さて……、どうしましょうかね」
特に困った様子でもなくそのようにつぶやく。
「早めに潰そうか……。それとも熟してからか」
恐ろしい発言をしながらも慈愛に満ちた顔でそれを覗く。
それとはリベルテの"遠視"という能力であり、どんなに遠くに離れていても指定したものなら何でもディスプレイにして覗くことができるものである。
「どちらにせよ、外にでますか」
「あら?主様が外出なさるなんて珍しい」
コロコロと笑う"それ"は真っ黒な人型の霧に赤い目と真っ赤な口がついた異様な容姿をしていた。
「引き籠るのも飽きてきましたし……、何やらそれぞれの国で変なことをしているようなので冷やかしにでもいこうかと思いましてね」
「あらそうなのですか。いつの時代も知恵ある物は愚かなことしかしませんわね」
そう言うとまたコロコロと笑った。
「そういう事でしたらこの迷宮の管理はワタクシめにお任せください」
「はい、よろしく頼みます」
そう、この城も不可侵の森も迷宮の一部なのである。
これは、リベルテの"クラフト"という能力で自分の思い通りになんでも作成することができる。森に侵入できないのも不可侵という設定になっている為であった。
能力はスキルと呼ばれ、後天性で手に入ることはなく、極稀に所持して生まれてくることから神の祝福と考えられている。スキルにはレベルが存在し高レベル程強力であるが、生涯固定であるため高レベルのスキル保持者は国のお抱えになることも珍しくない。
また、魔法も存在するがこちらは、一属性持ちが百人に一人、二属性持ちは魔法が使える者の中で更に五百人に一人で三属性持ちになると数百年に一人となる。そして、属性魔法にはレベルがあり上がるにつれて強力な魔法が使えるようになる。属性は、火・水・風・土の基本属性に加えて光と闇が存在する。
保有魔力は多少の誤差はあるが皆一律でスキル程敷居は高くない。
ちなみにスキル等の所持者をどうやって見分けるかというと、証明カードと呼ばれるものがあり、生まれた際にこの世界の神より贈られる物ということになっており、出てこいと念じれば手元にすぐ出てくる。名前、年齢、出身地、保有スキル、魔法属性、賞罰等が記載され偽装は不可能である。そのおかげで街中での犯罪は少ないが、犯罪を犯すと街にいられないので盗賊はそこそこ多い。
これらが人類にとっての常識である。
「ふふ、主様のカードを見たら皆きっと驚きますわ」
「スキルと魔法属性くらいは隠ぺいしますが色々自重しない予定です」
出身国だけでも充分驚かれると思われるが、正体を知られることも今回の外出の目的であった。
「では、ようやくワタクシ達も表舞台にデビューってことですわね」
「この迷宮の開放自体はもう少し先になりますけどね」
はしゃいでいる"ソレ"を窘めるように言った。
「そうですかぁ……」
「でも箱庭の方は今から使おうかと思います」
「あら?」
箱庭とはリベルテがクラフトで製作した世界そのものである。住人も住んでいて皆リベルテに忠誠を誓っていた。しかし、それを今から何に使うのか"それ"には理解できなかった。
「この世界を我が物にしたいのはこの世界の住人だけじゃないみたいですよ?」
「他世界からの侵略ですかぁ……」
ミンストレアは他の次元とは少々違う作りになっているのだが、自称神にとってはそれが何よりも魅力的に感じるらしい。
度々使者を派遣して情報を得ようとしていたのだが、帰還することもなく連絡も途絶えてしまっていたのでついに痺れをきたしてしまったようだ。
「自分を神と自称するなんてまた随分と哀れな生き物ですわね。恥ずかしくないのでしょうか?」
「他の種族を圧倒する程の力をもってしまったんだ、勘違いするのも仕方がないよ」
神と自称する存在のクセに、暴力をもって余所の次元を制圧しようと画策している存在に"ソレ"は心底呆れてしまった。
「それでおバカさんを処分する為に箱庭を?」
「いえ、今回も黒幕さんには手をだしません。何れ本人が他の方達を連れて直接侵攻してくると思いますからその時にまとめて処分しようと思います」
「あらまぁ、可哀想に」
自分の主が意外とサドッ気があることを知っている"それ"はまだ見ぬ侵略者を憐れんだ。
「ではあの子達に説明してきます」
「美味しい紅茶とクッキーの用意をしてお待ちしておりますわ主様」
黒い霧は恭しくお辞儀をするとまたコロコロと笑った。そして哀れな傀儡達を嗤った。
――気付くと御堂充は真っ白な空間にいた。周りを見渡すと自分の他にも結構な人数いるようであったが、皆普通ではありえないような恰好をしていた。そして、自分達がどうしてここにきたのかようやく思い出したのであった。
御堂充は人生に飽いていた。朝起き学校に行き、勉学に励み友とくだらない話で盛り上がる。そんな普通のことが自分にとっては普通でなくどこか異質に感じていた。そして周りの人間が気持ち悪い存在に思えた。
そんなときに出会ったのが、新技術を用いた全く新しいゲーム機のVRMMOマジックアンドソード通称MASだった。軽い気持ちでプレイしてみたのだがログインした瞬間直感した。ここが俺の居場所なんだと。
それからと言うもの、充は学校にも行かずMASにドップリハマリて瞬く間にトッププレイヤーとなった。
そんなある日、いつものように親の小言を無視してMASにログインすると、直接頭に響くような声が聞こえてきた。
「私の声が聞こえるでしょうか。私は今同時に多数の方に話しかけています」
「なんだ……イベントかこれ?」
突然の声に充は何か突発的なイベントなのかと考えた。
「イベントと呼ばれるものではありませんよ?私は地球であなた達に神と呼ばれている存在です」
「!?」
心を読まれたかの様な発言に充はドキっとしたが、周りをみると皆同じような反応をしていた。
「ここは神である私がとあるコトをしてもらうため、人間に強力してもらい共同で創った世界なのです」
「まじかよ……」
「ありえねぇ」
周りでそのようなつぶやきが聞こえた。充自身もいきなり神だのなんだの言われても理解できなかった。
「とあるコトとは、あなた達の住む世界とは違う世界に行ってもらいその世界を調査してほしいのです」
「異世界!」
「え?マジ!異世界トリップってやつか!」
その言葉を聞いて周りがまた騒ぎだす。充もその手の小説は読んだことがある、自分も興味があるがひとつ不安があった。
「もちろん何もせずに送るつもりはあわりません。この世界のあなた達の能力で送らせていただきます」
「チートきたぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「ウソじゃないよな?今さらウソとか言っても許さんぞ!」
自分が聞きたかったことを神が当然のように言い、充は歓喜した。元のくだらない世界と別れ、この充の努力の結晶と言えるキャラで別の世界へ行けるのだ喜ばないはずがない。
「行きたいと思う方だけ行きたいと強く願ってください。その方達だけ送ります」
「行くぜぇ!」
「こういうのずっと待ってたんだ!」
周りの者も皆行くだろうと充は考えた。なぜなら、皆平日の朝方にも関わらずログインしている生粋のプレイヤー達なのだから。
「皆さん良く来てくれました」
回想をしているとそんな声が聞こえた。声の方を向くとそこには金髪の美しい女性が立っていた。
「初めまして、私はあなた達の住む次元の神です」
皆がその姿に見とれて固まっていると、その人物は先ほどの神と名乗る人物その人であると語った。
「先ほどもお願いした通りあなた達には別の世界に行ってもらいます。しかし、特になにかしてもらいたい訳ではなく自由に行動してもらってかまいません。ただその様子を見させては貰いますけど」
神自ら好きに行動して良いというお達しを受け、皆思い思いの妄想を膨らませた。充もまだ見ぬ、しかし成功した自分の未来を想像し頬を緩ませた。
「では皆さんを人里の近くに飛ばします。よい旅を」
そう言うと充達のいる地面が一瞬輝き、そこにいた全員が消えてしまった。
「過ぎたる力を与えたのです今度こそうまくいくでしょう」
だれもいなくなった場所で自称神はそうつぶやいた。
――神と名乗る女性によって異世界につれてこられた者の一人である林恵は混乱していた。
「うぶっ、あぶゅ」
人里近くに飛ばすと言われていたのに来てみれば海中だった。他にもこの場所に飛ばされた者達が多くいたらしく皆一様に混乱していた。
「ミナサン、エンロハルバルゴクロウサマデス」
片言の日本語が聞こえた瞬間、背筋が凍る程の悪寒を感じだ。そして声の方を振り向くと悪寒の理由がすぐに理解できた。
「やぁぁぁぁぁぼっぐゅゲボュ」
悲鳴を上げた瞬間口のなかに海水が浸入してしまい思わずむせてしまった。
(やばいやばいやばいやばい)
恵だけではないだろう……。声の主を見たもの全員が絶望の色に染まってしまった。
「ミナサンウンガナイデスガ、トクニアナタタチハウンガワルイ」
それは辛うじて女性とわかる二体の何かであった。一体は、首から上のない巨大な女性の裸体がマントを羽織るように同じく巨大なクラゲに包まれ、裸体も人間とは思えない不規則な嫌悪感を抱くような動きをしていた。
そしてその隣には、クラゲのような頭髪の憎悪を浮かべた巨大な青白い生首があった。
「カイチュウデハロクニハンゲキモデキナイデショウ。カワイソウニ」
憎悪に満ちた顔で憐みの言葉を紡ぐそれに、全員歯をガチガチさせながら震えていた。
「マア、コロスコトニハカワリハアリマセンケドネ」
そう言うと彼女達の宴が始まった。まず体だけの個体が動いた。近くにいた男をクラゲの口腕で絡め取るとそのまま女性の生殖器らしき場所に運んで行く、そしてその生殖器らしき所が開くとそこには無数の歯が並んでいた。そして……、ゴリックチュ。不快な音を立てながらうまい棒の様に食した。
……。
全員何が起こっているのか理解できなかったが、だんだん理解が追いついていき……。
「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ」」」
「いやだ!いやだ!しにたくない」
全員がパニックに陥った。逃げようにも装備が邪魔をしてうまく泳げない者。慌てて海水を飲んでしまい溺れている者。ただただ呆然としている者。
そして……。
「これは夢これは夢これは夢これは夢これは夢これは夢これは夢これハユメコレハユメ……。アハ」
現実を受け止めきれず壊れる者。皆が成功を確信し夢想した地はただの地獄であった。
「ミナサンモウホトンドアリマセンガ、ノコリノヨセイヲタノシンデクダサイ」
顔だけのソレは髪の様な口腕を逃げまどう者達に突き刺し体液のみを啜っていく。皮と骨だけになった嘗て人だった物は物悲しげに海面を漂っていた。
「学校サボった罰が当たったのかなぁ」
そんな場違いなことをつぶやく恵はどこか遠くを見るように惚けていた。気付くと体だけのソレに絡め取られ口へと運ばれていた。そして口がくぱぁと開くと……。
「あ……、シャーペンの芯切れてたんだっけ買ってこなく」
グチャ……クチュプチュ。
「イマノガサイゴデスカ。アッケナイモノデスネ」
食事が終わると二体のそれは海中の奥底まで沈んでいった。
――天空城にて、先ほどの惨劇を紅茶を飲みながら見学していた二人。
「たかが海に放り出された程度であのザマとは……。送り込んできたおバカさんはこちらを相当なめてますわね」
「送り出したところを見ると、逆に力を与えすぎたと向こうは考えてるようですよ?」
「あの程度の力でですか……。随分とおめでたい頭ですこと」
百歩譲って海中での戦闘は一方的でも致し方ないが、他の場所に転移された者も皆反撃するどころか泣き叫び命乞いをするだけであった。
「命を賭けた戦いなんてしたことないだろうし仕方ありませんよ」
リベルテは優しく微笑むと最後のグループの映像に目を移した。
――充は絶望していた。目の前の惨劇に。自分の無力さに。
充が転移した場所は大きな教会らしき所であった。他にも数名程いたようで皆教会内部を探索していた。
「あれ、あんたミッツか?トッププレイヤーをお眼にかかれるなんてついてるな」
「あぁそうだ」
充はMASではミッツという名でプレイしており、トッププレイヤーということもあり顔が知られていた。
「だめだ……、どこの扉も閉ざされて破壊も不可能みたいだ」
「まったくどうなってんだよ」
他の転移者も集まってきて周囲の状況を確認しあった。
そして分かった現在の状況は、ここに飛ばされたのは全部で八人。武器やスキルも普通に使えたが、それを使っても扉や窓は開かなかったという。
「なんなんだここ?」
「神様ももっと考えて転移してほしいよな」
「ん?お、おいなんだありゃ!?」
「なんだよありゃ……」
他愛のない話をしていると、教会の最奥にある祭壇付近が漆黒の闇に包まれた。
「ようこそ煉獄へ。歓迎します罪深き愚者達よ」
闇から現れたのは、司祭のような服を着た女性だった。しかし、黒い二対の翼に腕が六本、慈愛に満ちた顔をし、黒で塗りつぶされた目から真っ黒な液体を流してなければだが……。
「なんだよあいつ!」
「聞かれてもわかるわけねぇだろ」
「なんかやばそうだぞ!!」
「……」
混乱が広がるなか、充は静かに戦闘態勢に入った。
「お前ら落ち着け。俺達は弱者じゃない……。ゲームの能力を持ってこっちにきたんだぞ」
充自身も多少は混乱していたものの、自分は弱者ではなくトッププレイヤーであるMASの能力を持った最強の存在なのだと意識し恐怖に打ち勝ったのだ。
「そうだった……」
「俺達すげぇつえーんだったな」
「これはチュートリアルみたいなもんだろ」
「さすがトッププレイヤーだな……。助かったぜ」
皆自分が強者だと言う事を思いだし冷静になる。
「懺悔は終わりましたか?私も暇ではないので早く終わらせたいのですが」
「うるせぇ!死ぬのはてめぇだボケ」
「チュートリアルの雑魚のクセしてよくしゃべるぜ」
「俺の輝かしいハーレム人生の糧となりな」
強者と認識するや否や、先ほどの恐怖はどこ行ったんだと思うような発言をしだした。
「別に私はあなた方を殺めにきたわけではなく勧誘にきただけなのですがね……」
「うるせぇ!今さら命乞いか」
「てめぇごときが俺達をどうこうできると思ってんのか?」
「コイツを片づけてとっとと外に出るぞ」
全員武器を持ち目の前の敵を睨みつける。この中の誰もが勝利を確信して疑わなかった。
「話が通じないとは……、所詮愚か者といったところですかね。まぁいいでしょう相手をしましょう。では信徒の皆さん後はお願いします」
その発言と同時に閉まっていた全ての扉が開放された。そして入ってきた者達をみて絶句した。
「おい……、ウソだろ」
「なんだよ、どういう事だよ!」
「俺達チートなんじゃないのかよ」
「クソッ……」
充も思わず悪態をついた。信徒と呼ばれた者達は、嘗てMASで見かけたりパーティーを組んだことのあったり同じギルドであったりした者達。つまり、異世界に連れてこられた者達であった。
しかし、皆嘗てとは違っていた……。壊れた武器を持ち、破損した装備で所々露出させ幽鬼のように歩いていた。なにより……、濁った眼から真っ赤液体を流していたのだ。
「彼らは今罪を洗い流しているのです。あなた方もすぐ仲間にして差し上げます」
司祭のようなソレは、慈愛に満ちた顔で充達を見る。
「ふざけんな!」
「クソッやってやらぁ!」
「全員ぶっ殺してやる!」
そうして戦いの火ぶたが切って落とされた。
充達は嘗ての仲間だった者を剣で切りつけ、魔法で焼き払った。腕が飛ぶ。首が飛ぶ。血しぶきが飛ぶ。焦げた臭い。生臭い匂い。
「死ね死ね死ね」
「生き残るのは俺達だ!」
切りつける毎に血や油で切れ味が落ちてくる。それがこれがゲーム等ではないと充達を再認識させる。
そして、異変に気付いた。
「おい……、あいつさっき俺が首ふっ飛ばしたはずだぞ」
「なんで消し炭にしたやつがピンピンしてんだよ……」
「なんなんだよ……、なんなんだよあいつら!!」
先ほどから倒しても倒しても減ることがない敵を観察すると、倒したはずの相手が起き上がり傷も瞬時に完治していたのであった。
「まぁ不死ですからね。では信徒の皆さんそろそろ本気だしてください」
「はぁ!?」
「どういう事だよ!」
生き残った者達は皆、信徒達をゾンビの様な者と考えていたようであった。
「彼らは物ではありませんよ?思考もあるし知恵もあります。それに信徒になる前の能力だって普通に使えます」
「「「な!?」」」
プレイヤーとしての能力を普通に使える。その発言に全員絶望した。不死というだけで厄介であるのに、能力も同程度もはや勝ち目はないだろう。そして……。
「くふふ。あなた達もすぐ私達の仲間にしてあげる」
「こっちはいいぞ、全てが美しく見える」
「もう手加減は終わりだよ」
「バラバラのぐちゃぐちゃでも元に戻せるから大丈夫」
しゃべりだす信徒達。そう、充達は遊ばれていたのであった。
「腕がぁぁぁぁ」
「俺の俺の足……」
「ひぃぃぃぃぃ」
力量は同じ数は圧倒的となればもうそれは戦闘と言えるものではなかった。
一人また一人と倒れ、そして起き上がり信徒となる。やがてトッププレイヤー呼ばれた充も押し寄せる信徒の波の一部となった。
「ようこそ楽園へ。歓迎します罪なき信徒達よ」
充が目を開けるとそこは楽園であった。
――最後の生存者の末路を見届けディスプレイを消す。
「彼らも住人になれて嬉しそうですね」
「ワタクシなら信徒になるなんて御免ですわ」
彼らが楽園と呼ぶものは、傍から見ると地獄その物。魂を生涯縛りつけられ、醜いものが美しく、美しいものが醜悪なおぞましいものに見えてしまう。誰がどう考えてもお断りだ。
「彼らを送ってきた人が信徒達からみる楽園を覗いたらきっと次の行動に移すでしょうね」
「身を滅ぼすとも知らずに哀れですわね」
自分から嬉々として、断頭台に上がっているとも知らずにいる哀れな道化をエグゼキューターは慈愛を持って待ち構えているのであった。
「それと並行して他国を周ってきますね」
リベルテにとっては他国のことも自称神様のことも小さな波紋にすぎないのである。
なぜならリベルテ自身が大きな波紋であり、小さな波紋は飲み込めばいいだけのことなのだから。