まおうさまを愛玩日記
「まおうさまの愛玩日記」の側近サイドストーリーです。
あわせて読んでもらえると嬉しいです。
*11/13、ラスト追加修正しました♪
あいらぶ坊っちゃま
今日も魔王陛下こと坊っちゃまは麗しい。生まれついても魔界の王。唯一無二にして絶対の王。
私は坊っちゃまが魔王として君臨されたそのときから、ずっとお側で仕えている。
坊っちゃまは美しい黒髪、全てを見通す黒雲の瞳を持ち、我々僕を導いてくださる。
玉座にいらっしゃっる姿はまさに魔王!
生まれついて間もないため、王座もマントも少しばかり大きく見える。マントごと、ちょこんと座られるその姿のなんと愛らし……こほん、威厳に溢れ、魔界の発展を約束されたかのようだ。
あいらぶ坊っちゃま
今日、魔王城へ賊の侵入を許してしまった。人間界で勇者と崇められているようだが、魔界では所詮人間のこわっぱに過ぎぬ。
しかし奴らはどうしたのか、ほんのわずかの部下だけ倒し、城の最奥部へ侵入してしまったのだ。
最奥部とは玉座の間である。私が気づいて駆けつけた時には、すでに坊っちゃまと奴らが相対していた。
勇者であろう小僧が「成敗!」などとのたまわり、坊っちゃまに斬りかかった。その後のことを私は忘れない。坊っちゃまは少し顔を顰めたかと思うと、その膨大なる魔力をわずかばかり開放し、奴らを文字通り吹き飛ばしたのだ。勝負は一瞬だった。
ひとまず奴らを地下牢へ放り込むこととし、私は坊っちゃまに言い尽くせぬ賛辞を捧げた。そのときの坊っちゃまの顔を私は忘れない。拙い腕で絵にあらわそうとしたが、できなかった。瞳を少しばかり潤わせた、なんと愛らし……ごほん、麗しい姿か!
思い出すだけで胸がいっぱいになる。私は坊っちゃまの僕になれ、本当に幸せ者だ。
あいらぶ坊っちゃま
坊っちゃまは許してくださったが、私は自分を許せなかった。二度と賊の侵入できぬよう、城の周りの警備を強めることにした。魔界中からゴーレム、ドラゴンをスカウトした。もちろん坊っちゃまへの忠誠の度合いが第一である。より強大な力を持つドラゴンは、坊っちゃまの移動手段とし、魔界平定への足掛かりとした。この魔界で未だ坊っちゃまへ忠誠を誓わぬ愚か者どもが!近いうちに奴らを殲滅してやる。
あるとき、坊っちゃまが玉座に腰掛けながら「ひえるとたいへんだ」と呟いておられた。もしや寒いのだろうか?坊っちゃまは膨大な魔力を持っておられても、まだお体は小さい。私は少し考えた末、地下の火山を噴火させることにした。少しばかり生態系が変わるが、坊っちゃまとは比べものにならない。
坊っちゃまは魔王城を囲むその景色に満足してくださったよう。毎夜寝る前にご覧になられる。そして寝顔はまるでこの世のものとは思えぬ愛らし、げふん、麗しさだ。
時折、ランプを消して差し上げる。手元が見えないため、翌朝坊っちゃまは私を呼ばれるのだ。ほんの些細なことではあるが、朝からお仕えできる幸せを享受したく、わざとランプを消しているのは秘密である。
あいらぶ坊っちゃま
地下牢に幽閉した勇者とやら、人間界では一国の王子であったらしい。人間界に送り込んだ部下共が次々と殺され、名のある騎士が魔界へ侵入しようとしているとの情報が入った。人間のくせに坊っちゃまに歯向かうなど片腹痛い!私は単身その国に攻め入り、魔族の恐怖を思い知らせた。
最後にその国の王女を人質に取り上げた。人間は弱いが数が多い。片っ端から殲滅してもよいのだが、面倒なのだ。魔王城の地下牢に放り込むつもりでいたが、坊っちゃまが姿の見えない私を案じ、城の入口で待ってくださったのだ!なんということだ!お優しい坊っちゃまに心配をかけるなどなんという失態!それどころか、坊っちゃまは人間の王女にいたく関心を持たれ、ペットにすると仰った。人間を坊っちゃまの側に置くなどとんでもないのだが、私も一人の魔族、魔王である坊っちゃまの言葉には逆らえない。私は泣く泣く、小娘に部屋を与えた。
隙をみて殺してやる!小娘なぞに私の坊っちゃまを渡してなるものか!
あいらぶ坊っちゃま
小娘を攫ってから幾月か経ったが、私はなかなか始末できずにいた。それというのも坊っちゃまが小娘に付きっきりで世話をしているからである。
坊っちゃまのお手を煩わせるなどとんでもない、どうか別の者に任せてはと何度も申し上げたのだが、坊っちゃまが「わがはいのしゅぎはまげぬ」と仰るため、私はそれ以上何も申し上げられなかった。
坊っちゃまの満足気な表情があまりにも可愛、げふん、神々しくて、私は出血死するかと思ったぐらいだ。
それほど坊っちゃまに甲斐甲斐しくされている小娘であるが、先日不敬を働いたようだった。詳しくはわからないのだが、坊っちゃまの差し出したものを拒否したとかなんとか。
小娘なぞどうでもよい。
重要なのはその後だ。
坊っちゃまは大変落ち込まれ、大泣きされた。それはもう世界が壊れるぐらいの大泣きである。
膨大な魔力がコントロールを失い、暴れた。魔界中に雷が落ち、一面火の海と化した。幸いゴーレムもドラゴンも火山流の近くに置くため、火に強いものばかりスカウトしていたのだが、それでも地が割れ、火が吹き、雷が覆う様はまさに地獄絵図であった。
なんとか坊っちゃまをお慰めできないかと、私は色々試した。お小さい頃好まれていた雪獣の毛皮に寝かせてみたり、貴重な魔石をまぶした菓子を差し上げたり、果ては私が歌まで歌ったのだ。
その内坊っちゃまは辺りの景色に気づかれ、目を輝かせた。ご自分が生み出された景色に感動しているようだった。
ひと安心した私は、今こそまさに魔界平定の好機と閃いた。右往左往するばかりで役立たずの部下共を一喝し、即席軍をまとめあげ、各地の反乱者共を始末した。思ったよりも時間がかかったが、全ては坊っちゃまのため。
我らが魔王陛下の御為なのだ!
あいらぶ坊っちゃま
いや、もう坊っちゃまと呼べないくらい立派になられた。
この日のため、私は冠も魔石や骨で飾った衣装もおどろどろしい絨毯も全て用意したのだ。
陛下は私が用意した、衣装を身にまとい、絨毯を歩き、冠を戴き、真に魔界平定した魔王となられたのだ。
このときの感動を私は永遠に忘れないだろう。
よちよち歩きだった陛下が、しっかりした足取りで歩かれる。そして玉座におられるその姿、まるでこの世のものとは思えぬ麗しさ。
ああ…………
ぽてぽてと歩くその様、辺りを見渡すあどけないその表情!
全てが、全てが私を魅了する!!
あいらぶ坊っちゃま
坊っちゃまにお仕えして幾星霜経つ。坊っちゃまの様々な活躍を記録してきたこの日記も残り頁数が少なくなってきた。
近頃の坊っちゃまは、私をはじめ、部下共によく声をかけてくださるようになった。些細な挨拶はもちろん、魔界発展に尽力する部下の働きぶりを褒められることもある。私にはとっておきの言葉もいただいた。
「わがはい、たいせつなものがわかったのだ。かんしゃせねば。おまえにはいつも、たすけてもらっている」
と……!!!!
なんと、なんということか。
坊っちゃまに大切な者と認められるとは、なんと身に余る光栄か!
私は坊っちゃまに生涯お仕えしよう。そして、魔界だけでなく、人間界も坊っちゃまの手中に収めてみせるのだ!
*****
読んでいただき、ありがとうございます。
感想・評価いただけると嬉しいです(o^^o)