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私が傍観者な妹になった理由  作者: 夏澄
きみの写真編
47/63

41・振る

 私の心を反映したかのようなうす曇りの今日。時折晴れ間を見せたかと思うとすぐに翳って太陽は消えてしまい、雨が降るのかと予感させながらもなかなか降らない……どっちなんだよという天気についつい苛立ちは募っていった今日。


「なんか那智機嫌悪い?」


 あまり空気を読むことをしてくれないハルちゃんにまで機嫌の良し悪しを聞かれる始末に、私は天気同様あいまいな表情で「そんなことないよ」と本日三度目の返事をした。

 こんな天気の微妙な日に日直になんかなってしまったことくらいなんとも思ってないよ? 日が悪いなんて思ってないって。

 ついでに相方の男子が部活だと言ってさっさと教室を出て行ってしまったことにしたって、べつに恨んでなんかないよ? そんな小さなことで恨んだりなんかしたりしないもん。……後で覚えていろよ片瀬。はっ。いかん、いかん。つい逃亡した日直男子への本音が。


 私は殴り書きのように、本日の日誌を埋めていった。

「今日の欠席は若狭くんだけ、と」

 そういえば若狭くんの妹は大丈夫だったのかな。昨日の今日で若狭くんが休みを取っていることに、放課後の今になって少し心配になってきた。――明日、若狭くんが登校してきたらこっそりと妹のことを聞いてみようかな。

 こっそりになってしまうのは、妹のことで授業をボイコットすることになってしまったことに若狭くんなりに気まずい思いをしているのではと思ってのことだ。

 うちのクラスにはあまりいないだろうけど、私のせいで若狭くんシスコン疑惑が浮上したら可哀想じゃん。私も自分のブラコン説が諸所に蔓延していることに多少みじめな思いをしてきたので、気持ちは分かる。

 いくら兄弟姉妹を大切に思っていても、ブラコンだのシスコンだの噂が立ったら関係性に亀裂が入ることもあるだろう。

 日誌には今日の感想欄なんてものがあるのだけれど、「なんてことない普通の一日でした」と書いて日誌を締めくくった。


「これで終了っと。じゃあ日誌出してくるから」

「はいはーい。待ってるね」


 手をひらひらと振って送り出してくれるハルちゃんとは、この後一緒にカラオケに行く約束をしている。私の気晴らしに付き合ってくれるそうだ。

 まあまあの確立で空気を読んでくれないハルちゃんだが、大事なポイントはちゃんと抑えてくれるのだ。大好き、ハルちゃん。




 私の機嫌の悪さは、原因を辿ると今朝のある出来事に起因する。

 私たちより早くに出勤する両親を送り出し、最近では恒例となった無言の朝食タイムを終えたときのことだった。

 お兄ちゃんが鞄を取りに二階へ上がり、私もそろそろ行くかと席を立ちかけたとき、居間にある電話が着信を告げた。


「はい、桂木です」

 名乗った後、電話の向こう側は沈黙していてなんの音もしていなかった。

 不思議に思い、もしかしてイタズラ電話だろうかと「もしもし」と再度こちらから声を出した。これで応答がなければ受話器を置くつもりだった。

「……あぁ、あなた恭平の妹になった子ね。知らない女の子の声がしたから、誰かと思ったわ。いくらあの子だって、朝から彼女を家に入れるわけもないものね。ねぇ、恭平はまだそこにいる? いるなら少し話がしたいんだけど」

 艶のある声だった。大人の色気を感じる。でも、どこか人を下に見る口調に少しだけむっとした。

 そもそも電話を掛けてきたのなら、そっちから名乗るべきなんじゃないだろうか。それくらいの社会常識は高校生だって持ち合わせている。

「どちら様ですか?」

 よく分からない他人の電話を取り次ぐつもりはなかった。変な押し売りだったり勧誘だったりしたら困るもの。そんな電話を取り次いだ私のおつむがバカにされるんだからね。

「ふふっ。そちらのお母様はよく教育されてらっしゃるのね。でもね、こっちも朝の時間帯で時間がないの。電話を代わってくれる気があるのなら早くしてちょうだい。私は恭平の――」

 相手の女性が名乗ろうとしたとき、持っていた受話器を後ろから奪われた。


「あなたに僕への用件があっても、僕にはありませんから。関わるつもりもないです。もう掛けてこないでください」

 早口でまくし立てられた声は、冷静に見えて怒気のこもったものだった。冷たい目にぞくりと肌が粟立った。

「お兄ちゃん。今の……誰?」

 お兄ちゃんがここまで露わに怒りを示す相手って誰なのだろう。気になって聞いた。

 聞かなければよかったと思ったのはこのすぐ後のことだ。お兄ちゃんの変化に驚いて、いつものスルースキルを発揮できなかったのは私の敗因だ。


「那智には関係ないよ」


 へえ、私には関係ないってさ。

 ねぇ、じゃあいつもみたいに人をはぐらかすような笑みを浮かべてみなよ。笑って踏み込むなって態度をとれば、「あはは、そうだよねぇ」って、那智だって簡単に引き下がったのに。――お兄ちゃん、気づいてる? 今、笑ってないよ?

 ぷっつんきた。今まで関わってくるなって顔してたから無視してたけど、言葉にまでされるともう我慢できない。

 冬吾先輩には以前、言葉は交わせるうちに交わしたほうがいいというアドバイスをもらったけど、こんなあからさまにお前には関係ないって言われたら言葉の交わしようがないじゃない。

 どうすればいいのかとか、何を言うべきなのかとかという計算は吹き飛んでいた。


「あっそ。そうだよね、お兄ちゃんのことは那智には関係ないことだよね」


 つい文句が口をついて出た。

 言った後ではっとしたけど、後の祭りだった。

「もういい。今日は先に行ってるから」

 お兄ちゃんが私を止めようとする空気を感じたけど、無視してそのまま玄関を飛び出した。

 あぁ、はっきりと無視してしまった……。良かったのかな。後で冷気が吹き荒れないかな。なんてことも思った。

 けど、私のことを表面上でしか好きじゃない人なのだからべつに平気かと思うとまた腹が立って、ぱんと両手を頬に打ちつけて乱暴に玄関の扉を閉めた。打ち付けた頬が痛くてちょっと涙が出てきた。




 そんなことを思い返してはどんよりとした重たい空気を纏う私にハルちゃんが気を利かせてくれたのだ。――早く日誌を提出して帰らないと。


 職員室へ向かう途中、窓から下を向いたときにお兄ちゃんの後ろ姿が見えて足が止まる。

 こちらを振り返らない背中が遠い。

 今朝から放課後まで、お兄ちゃんからの接触はなかった。昼頃、もしかしたら来るかなと緊張していたことも、無意味にドキドキしただけで終わってしまった。

 これまで喧嘩という喧嘩をしたことのない私たちだが、今朝のあれはプチ喧嘩と言ってもいいんじゃないだろうか。

 なんのフォローもないことが、表面上だけの兄妹であることを証明しているように感じた。

 お兄ちゃんが先を歩いていた愛梨ちゃんを振り向かせる。わずかな角度で見えた笑う顔に、私にはもうあれすら見せなくなるんじゃないだろうかという思いにかられる。

 焦りのようなものを感じ、私は首を振ってその思いを振り払った。


 職員室の前には、それぞれの教員へ提出するノートやプリント類の一時保管場所としてスチール製の棚が設けられている。

 私は担任のスペースにあたる部分に持ってきた日誌をぽんと置いて、はあっと息を吐いた。

「あっ。ナッチーだぁ。日誌? 今日は日直だったんだ。ボクもだよ。偶然だねぇ」

「げっ。晃太先輩」

 明るい声にびくっと肩が上がった。

 晃太先輩が瞳をきらめかせて横に寄ってくる。

「ナッチー、すごいね。声だけで分かった?」

「ええ、まあ」

 その一人でものっけから明るいのは晃太先輩しかいないでしょうよ。

 頷くと「えっ、ホントに!? すっごーい!」と飛び上がる。本当に暑苦しいくらい明るいですね。そのテンション、今は疲れるんですけど。

「ナッチーはすぐに分かるのにね。なんでみんなは分からないんだろうねぇ」

 晃太先輩が絶妙に可愛らしい角度で首をかしげる。その明るい顔にテンションがだだ下がりの私は反発心がむくりと立ち上がるのを抑えることができなかった。

「ちゃんと見ていれば分かります」

 むっとした声で言った。――誰だって、見ようとすれば分かることだよ。

 海道兄弟はとてもそっくりだけど、だからといって同じ人間なわけじゃないのだ。それぞれが持つ特徴だって、数え上げればきりがない。髪質とか目の色とか食べ物の好みとか、雰囲気とか……。

「ねぇ、それって愛? ボクのことが大好きってこと?」

 ええい、しつこい。犬みたいにじゃれてくるのが鬱陶しく感じる。今日一日で溜まったうっ憤に苛立ちが増していく……。


 みんなが分からないのは、多分――、

「みんな楽しいことに流されたいんですよ。双子がそっくりなのが楽しいんです。見分けがついたら面白くないから、気が付かないでいるんです。だってそのほうが楽しいから……って、ごめんなさい」

 くりくりとした湖面の瞳が丸く見開かれていくことに動揺して謝った。前もこうして晃太先輩を傷つけかけたことを思い出した。

「ごめんなさい。そういうつもりじゃなくて」

 じゃあ、どういうつもりだったのだろうか。――私、溜まったうっ憤を晃太先輩に晴らそうとした?

 気づいて、自分の醜さに口元を覆った。こんなこと一番嫌いだったはずなのに……。自分で自分が気持ち悪い。

 目の前がぐるぐるし始めて、体のほうまで気持ち悪さがこみ上げてくる。やばい、吐きそう。


「あっ。やっぱりー? うすうす気づいてはいたんだけど、でもそれってみんなボクのことが楽しくて大好きってことだよね。うんうん、ボクってすごーい! って、ナッチーもそう思わない?」


 下を向いていた私の顔に合わせて、晃太先輩が顔を覗き込ませてくる。その顔に気持ち悪さがすうっと引いていくのを感じた。

 にんまりと笑って同意を求めてくる顔はこちらを気遣う顔をしていた。酷いことを言ったのに、すぐにそんな顔ができるのってすごい。

「メンタル強いですね、晃太先輩」

 つられて笑うと満足げに「それがボクの偉大なところさ」と頭を突きつけてくる。

 撫でてくれといわんばかりの態度に、どうすればいいのか困った。

 いったん手を上げたのはいいものの、こんな私が触れていいのかと戸惑っていると、「えいっ」と頭のほうから触れてきた。


「ボクに悪いと思うんならさ、この後のナッチーの時間をボクにちょうだいよ」


 それで謝罪になるのならばそうしたかったけど、残念ながら私にはハルちゃんという先約がある。

「そっかぁ……残念だなぁ」

 元気に提案したものが却下されて落ち込む素振りを見せる姿に、しゅんと垂れ下がる尻尾の幻覚を見た。

 目をごしごしと擦ってみると、一秒で復活を遂げた晃太先輩のにっこり笑顔が目に入ってきた。気分の持ち直しが早いよ。ある意味尊敬する。


「じゃあみんなで一緒に行こう。プランはボクに任せてね。さあ行こう。それ行こう。ことが決まったら即行動、だよ」


 いやいや、まだ決まってないって。その提案に賛同も否定もまだしてないし、「行きます」なんて一言も言ってないってば。

 けれど、そんな私を気にすることもなく晃太先輩はるんるんとスキップをしながら私の手をひっぱって1Aの教室へと向かっていった。

 晃太先輩の空気の読まなさは、天然じゃなくて実は計算なんじゃないんだろうかという疑問が天の啓示のように降ってくる。そうだよ、これ絶対に天然じゃない! わざとだぁっ。


 私のむなしい抵抗は無駄に終わり、晃太先輩の提案に可愛いワンコ系の先輩も大好物なハルちゃんは当然乗っかった。

「私が先輩のお誘いを断るわけないじゃないですかぁ」

 ハルちゃんまでるんるんしていた。こら、ハートが飛び交ってるって。

 さりげなくハルちゃんが晃太先輩の横に並び、晃太先輩を間に挟んで私たちは校門を出た。「今日は女同士で」なんて言っていたのはどこに行ったの?

「美形は別腹なのよ、那智。分かるでしょ?」

 分からないよ。そんなこと言ったって同意しないからね。今度彼氏にちくってやる。でもこれで「私の最愛は彼氏!」とか言っているのだから、どれだけハルちゃんが彼氏のことを好きなのかは分かるもの。

 ハルちゃんは美形観賞ができれば幸せで、たまに係わることができればラッキーなのだそうだ。人生楽しそうで何よりだと思った。




 カラオケに行く予定だったものは一応採用されたが、時間は一時間で晃太先輩によって止められた。

「ナッチー、楽しいね」

 硬質な音を立ててくすんだ白いボールが飛んでいく。

 その後、連れて来られたのがカラオケ店のすぐ裏にあるこのバッティングセンターだった。


 十五球三百円のこのバッティングセンター。

 球を打つ側だけ屋根が設置されていて、ボールが飛んでいく方向は緑色のネットが張られているというシンプルな造りだ。

 バットは金属製でみんないい音を立てながら打っている。自前のバットを持ち込んでくる人もいるのだと晃太先輩が教えてくれた。

 でも木製のバットはダメなのだそうだ。そう注意書きにも書いてあった。万一バットが折れて他の人に怪我を負わせないようにだって。折れるほどの打撃力を持つ人がいるってことだろう。すごいというより恐ろしい。ブルブル。


「よっし、当たりぃ」

「お、すごーいハルるん。また当たりだよ」

 ハルちゃんが見事なバッティングセンスを発揮してボールを二塁打の的に当てる。ちなみに「ハルるん」は海道兄弟がハルちゃんにつけたあだ名だ。とてもウキウキ&そわそわするあだ名だと思うのは私だけだろうか。

「ボクも負けてらんないよね」

 やって来たボールがきれいに弧を描いて飛んでいく。

 軽い調子でボールを当てにかかる二人が憎い。

 ハルちゃんも晃太先輩もどんどんボールを打って的に命中させている中、私一人だけ空振りが続いていた。

 ちょっとでも当たればいいのだが、空振りは力の抜け場がなくてとても疲れるということを身をもって知った。正直腕が痛い。


「ほらほら、もっと腰を落として。足は肩より広めに。背筋伸ばして!」

 ハルちゃんが横で色々と指導してくれるのだけど、あれこれ言われるとますます体が固くなって、こっちに襲い掛かってくるボールに目が回った。

 ハルちゃんの指導は厳しい。まるで野球のコーチみたいだ。言ったら、「小学生の頃はベースボールやってたんだ」と照れながら教えてくれた。

 中学から止めたのは、日焼けするのが嫌になったからだそうだ。ハルちゃんがバットを構える姿は、そんな理由で止めるのはもったいないというくらいきれいなフォームだった。

「えいっ」

 教えてもらったことを確認しながら打つも、まったくボールに当たる気配のない私にハルちゃんが「もうっ」と頬を膨らませる。

「だから、こうだって」

 ハルちゃんがまたボールを高く飛ばす。

 打ったボールはさっきよりも高く高く上って、ホームランの的に吸い込まれていった。

「よし、もういっちょ」

 立て続けにキィンと硬い音が鳴り、その度にボールは高く舞い上がった。


 結局、連続三回のホームランとなり、「景品の交換に行ってこよ」とハルちゃんがるんるんでスキップしていくのを私は羨ましい思いで見送った。

「ナッチー、力抜いて。何も考えなくていいんだよ。思いっきり振れば当たるから」

 言って晃太先輩がバットを構える。

「ボクね、何も考えたくないときとかにここに来るんだ。何にも考えずにバットを振ってたら自然に当たって、いいボールが飛んでいく。そしたら頭がすっきりしていい気分になるんだ」

 速い球が晃太先輩の横を目掛けて飛んでくる。先輩がにっと笑ってバットを振ると、硬い音がしてボールは緑色のネットを揺らして落ちた。晃太先輩の体には力が入っているように見えなかった。


 通い慣れた感があるなとは感じてはいたが、言葉通りに受け取るとしたら、晃太先輩はけっこうな常連なんじゃないかと思った。だって、ハルちゃんほどじゃないにしてもよく飛んでいる。

「晃太先輩も悩んだりすることってあるんですね……」

 悩み。それはいつも明るい晃太先輩には似合わない単語だと思った。

「失礼な。ボクだって悩むことくらいあるんですよぉ」

 いつの間にか私のスペースに入ってきた先輩が投球ボタンを「えいっ」と押す。

 私は「うわっ」と飛んできたボールに向かってバットを振り下ろした。テンテンとボールが地面を数度跳ねて転がっていく。

「ほら、当たった」

「ピッチャーゴロがいいところですよ」

「でも当たったんだからいいじゃない。ほら、次々打って」

 晃太先輩に言われるまま、球が尽きるまでバットを振っていく。

 球がバットに当たっては地面に落ちを繰り返したが、それ以降空振りは一度も起こらなかった。


「あぁ、楽しかった」

 私と晃太先輩の球が切れ、ハルちゃんが景品を交換に行ったところで今日のところは帰ることになった。

 ハルちゃんのほうに彼氏から「近くにいるよ」という連絡が入ったためだ。あぁ、ハルちゃんのリア充め。羨ましくなんかないんだからね。

 ホームランを連発してるんるんなところにラブラブ彼氏からの連絡を受けて、ハルちゃんは機嫌良く、もらった景品の一つを晃太先輩にあげていた。

 景品は黒と白の色違いの傘が二本。開くと眼帯ウサ吉の顔が全面に押し出されていて、そこにビニール製の耳が二本ぴょこんと飛び出している可愛らしいデザインの傘だった。

 一瞬「私にはくれないのかい、ハルちゃん」とジェラシーに感じたがこれならくれなくてよかったとほっと胸を撫で下ろした。

 黒い傘のほうをもらった晃太先輩はなんともいえない顔をしていた。

 でも私が持つよりも、愛嬌のある可愛い晃太先輩が持つほうが似合っているような気がした。

 先輩なら男子高校生といえども持つことを許されるんじゃないだろうか。「すごく似合いますよ」と褒めたら、嬉しそうに「ナッチーが言うならいっか」とまんざらでもない顔をして笑っていた。




「元気出たでしょ」

 ハルちゃんが彼氏との待ち合わせ場所を確認している後ろで晃太先輩が言う。

「考えても考えても何もいいことがないときはね、いっそ何も考えなきゃいいんだよ」

 これがボクの秘策だよ、と晃太先輩は片目を閉じて笑った。

 私が何かしら気分の落ち込みを感じていたことは、晃太先輩にはお見通しだったみたいだ。

 こういった人の心を察知できる部分は、星太先輩と通じる部分があるのだと、改めて二人は似ているんだなと感じた。

「ぜんぜんボールは飛びませんでしたけどね」

 皮肉めいて言うと、「でも当たると気持ちいいでしょ」とさらりとかわされた。

 晃太先輩らしい柔軟さを感じて、私は「まぁ、それは否定しません」とほどよく熱を持った腕をさすった。





今回は晃太先輩との話でした。

ハルちゃんとのからみもちょこっと入れてみました。

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