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4・双子とアメと私

もう少し双子のターン。

 

 出会いの場面を思い返しているうちに、二人はコメディアンのような動きを見せていた。


「ダメだよ。晃太ってば、すぐ調子に乗るんだから」

 星太先輩がわたわたと口を押さえにかかり、晃太先輩はモゴモゴとして目を白黒させている。これは演技なんだろうか、それとも本気なんだろうか。ちょっと悩む。

「むぐぐ、だずげて、ナッチー」

(声が出せるなら演技か。ここは彼らのファンみたいにきゃっきゃと喜ぶべきところかな? でも、私のぶりっ子は対お兄ちゃん仕様だから、わざわざそんなことしてあげるなんて面倒くさいし……)

 根っ子の部分では冷めている私としては、彼らの姿にどう対応すべきか迷うところである。

 思案してじっと見ていた私に気付いた星太先輩が、

「ううっ。ここまで聞いちゃ気になるよね?」

 と気遣いを見せてくれる。ダメだと止めながらも結局は話したいのか、とも思ったが、どうせ朝のHRでは知ることになるので断りを入れた。

「いえ、いいですよ。どうせ後でみんなの前で教えてくれるんですよね?」

 別に特別対応とか必要ないし、彼らのファンでもないので、ただの後輩としてはこれが無難な対応だと思われた。


「それより、先輩たちはさっきからここにいたんですよね? 入ってくるとき、誰か見ませんでした?」

 私が愛梨ちゃんの教科書を拾ってからここに来るまでは数分のこと。

 もしかしたら二人が教科書を落とした犯人を知らないか、と思って試しに聞いてみた。先輩達が教室に来る前には逃亡している可能性もあったが、教室を出る犯人の後ろ姿くらいは見ているかもしれない。

 この二人が犯人ということはまずないだろう。

(だって愛梨ちゃんはこの二人のお気に入りだし)

 あの入学時の出来事以来、餌付けされた二人はちょくちょくこの教室にやってきては愛梨ちゃんを構いまくっているのだ。愛梨ちゃんも二人によく手作りのお菓子を作ってはプレゼントしている。そんな二人が愛梨ちゃんを悲しませるようなことなどできはしないだろう。


「えー、教えてあげてもいいけど……」

 晃太先輩が小首を傾げて私を見る。高二にもなってそんな仕草が似合うのは、この海道兄弟くらいのものだろう。

「「何かお菓子をくれたら教えてあげる!」」

 二人声を揃えて私に手を差し出してきた。

(この万年腹ペコ魔人どもめ!)

 謝礼として人のお菓子をねだったりするところが、ファンの人からは愛玩動物的に見えて可愛いらしい。だが、私としては大事な食糧を奪われるのだ。

(ちっ。はた迷惑な)

 あいにく今日はアメしか持ち合わせていない。だが、重要証言を得られるかもしれないので、鞄の中から非常食用のアメを取り出して二人に渡した。


 向かって右が晃太先輩、左が星太先輩。

「はい、晃太先輩にはレモン味。星太先輩にはイチゴ味」

 大事な非常食を奪われたことが悔しかった私は、右の晃太先輩にイチゴ味を、左の星太先輩にレモン味を渡して名前はわざと間違えてやった。

 そっくりなようでいて、実は微妙に好みが違う二人。晃太先輩はイチゴ味が、星太先輩はレモン味が好きだったりする。

 よくお菓子をもらう二人が大声で感想を述べるていることから知り得た情報だが、好きな味くらいは渡してあげるのが人情だ。

(細かい気遣いのできる私って素晴らしい。エッヘン)


「「もーっ、間違ってるよナッチー」」


「ボクが晃太で」

「ボクが星太でしょ」

 そう言いつつも、二人は受け取ったアメを交換することもなく口に放り込んだ。

「もぐもぐ。あのねぇ。ボクたちがこの教室に来たのはナッチーの少し前なんだけど」

「もぐもぐ。そうそう。知らない女の子が二人、教室から出て行くのを見たよ」

 二人が知らないということはこのクラスの人間ではないらしい。そして彼らの取り巻きでもない。

 彼らは少しでも自分たちに関わりを持った人間には漏れなくあだ名を付けている。そして付けたあだ名と顔は忘れない。これは女子に対しても男子に対しても平等である。愛くるしい外見とは裏腹に、こういったところは賢いと思う。

 なんせ彼らに関わる人間といえば、その数は決して少なくはないのだ。ファンだってそうだし、このクラスのように委員会の仕事で関わりを持った人間に対してもだ。(二人はあのオリエンテーリングの数時間のうちに、このクラスの人間のあだ名と顔を一致させて覚えていた)

 少しでも関わった人間はみんな覚えている。そのたくさんの名前と顔が一致する、というのは結構な記憶力が必要となるだろう。


(じゃあ、犯人はお兄ちゃんのファンかな?)

 委員長のファンではないだろう。彼を慕うのは文科系の女の子で、気も優しいし、こんなイヤガラセなんてしでかすタイプの子はいなかったように思う。

「その子たちの顔は見ました?」

「ごめんね、ナッチー。遠目だったからちょっと分かんない。でも知らない子」

「階段を上がってすぐだったからね。でも学年は分かるよ。上履きが赤色だったから」

 うちの学園は学年ごとに上履きの色が違う。一年は赤色、二年は黄色、三年は青色だ。だから、私と海道兄弟が履いている上履きの色も、私が赤色で彼らが黄色で色が違う。


「「だから教室にいた子は一年生!」」


 どうよ、と胸を張る双子。そのお尻に犬の尻尾でも付いていたらぶんぶんと振っていそうだ。

「「褒めて、褒めてー!」」

(二人のおかげで、容姿まではわからなくても学年は分かったから多少の参考にはなったし……ここまで期待された目で見られたら仕方ないか)

「少しの時間でよく見てましたね。スゴイです」

 両手でそれぞれの頭をヨシヨシと撫でてあげた。

 すると目をキラキラさせて二人が飛びかかってきたので、スッと後ろへ下がって避けたら

「「ナッチー、ヒドいー!」」

 と声を揃えて抗議された。


「でも何でそんなこと聞いてきたの?」

 よよよと床に倒れる双子の片割れ、星太先輩が聞いてきた。

「あ、いえ、私が一番乗りと聞いたので。いつもだったら私って二番目か三番目に来てたから、誰も来てなかったのが不思議で」

 ウソだ。

 朝の早い時間帯に来る私は、大抵教室に一番乗りで到着する。

(まあ、どうせ学年も違うこの双子に私のついたウソがばれることもないだろう)

 そう思ってついたウソだった。


(お兄ちゃんのファンならファンで面倒くさいことになりそうだな……)

 うーん、と首を捻っていると、双子が揃って首を傾げて私を見てきた。

「「ところでさ、ナッチー」」

「はい? 何ですか?」

「「どうして今日は片方しかリボンを付けていないの?」」

 そう指摘されて確認のため髪に触れてみると、確かに左側にはリボンがあったが、右側にはなかった。

「うそっ……あっ、もしかしたらさっき木の上に登ったとき?」

「朝から木登り?」

「ナッチーって意外と」

「「お茶目さんだねー」」

(うっさいわ。お茶目さん言うな。この真性お茶目さんどもが!)

 ものすごい頭を引っぱたきたかったが、私は彼らの後輩なのでぐっと我慢した。


(戻って探しに行こう。まだHRまで時間あるし……)

 鞄を自分の机に置くと、私は教室を出た。

 出掛けに二人が尋ねてくる。

「「あれ、ナッチーどこ行くの?」」

「リボンを探してきます」

「わざわざリボン探しに行くの?」

「もう一本を外しちゃえばいいじゃん」

 そうしても良かったが、私はリボンを探しに行くと決めたのだ。


「「ボクらと一緒に遊ぼうよー」」


(うん、行く。絶対行く。この人達の相手をするよりよっぽど有意義だと思う)

「いいえ。完璧に可愛い那智には、リボンは必須アイテムなんです!」

 そう言って扉を開けて教室を出た。

 本当の理由は違う。

 私にとっては、リボンどうこうより、それを兄に付けてもらったということの方が重要なのだ。兄に付けてもらったものを外すということは、兄の信頼を裏切るということに等しいのだ。

 もし、リボンを付けていない姿を見られでもしたら、兄の後ろにブリザードが吹く。

「僕の付けてあげたものが気に入らないみたいだね?」

 そう口に出しては言わないけれど、絶対そうなる。それが二~三日続くと思ったら、面倒でも今リボンを探しに行く方がよっぽど良い。

(だからお兄ちゃんの相手って面倒。本当に神経使うんだよね。もし見つからなかったら、すぐにお兄ちゃんのところに行って「那智、リボンなくしちゃったの」って泣きつこう。見咎められる前に先手をうっておかなければ! リボンは風に飛ばされた、とでも言えばいいか)


 行きがけに、階段を上がってくる愛梨ちゃんとすれ違う。

「あ、那智ちゃん。どこ行くの?」

「うん、ちょっと探し物」

「手伝おっか?」

「一人で大丈夫」

 本来なら教室に双子が待ち構えているので、お兄ちゃんの恋路のためにも邪魔をしたいところだが、今はリボンの捜索の方が重要だった。

「じゃあ、先に教室に行ってるね。急いで転んだりしないよう気をつけてね」

「うん、ありがとう」

 愛梨ちゃんに別れを告げて下へ向かった。




[双子side]


「ねえ、星太。ナッチー、わざと名前間違えてたね」

「ね、ボク晃太ってちゃんと呼んでたし」

「立ち位置も変えてなかったもんね」

「でも、味は間違えてなかったね」

「「ナッチーってさ、……」」


「変な子」(晃太)

「面白い子」(星太)


 私がいなくなってすぐの教室では、こんなやり取りが行われていたらしい。


 ※ ※ ※


 愛梨ちゃんの教科書を拾ったポイントへ向かうと、リボンはやはり木の枝に引っかかっていた。

「うー、取れない」

 何とかリボンの端に指は届いたのだが、枝にからまって取れなかった。ぐいぐい引っ張っても、逆にリボンが裂けてしまいそうだ。これは私の身長では、脚立を持ってくるかしないと取れそうにない。

(もう一度登るか)

 そう意気込んでいると、


  カシャッ


 カメラのシャッターが切られる音がして、私に声が掛けられた。

「よお、人工物。何してんだ?」

(私を「人工物」と呼ぶこの声は……)

 私は恐る恐る振り返った。

 そこにはそこそこ値の張りそうな一眼レフを構えたイケメンが立っていた。ゆるくパーマのかかった赤茶色の髪、にんまりと笑う形の良い唇、制服は軽く着崩していてそれでいておしゃれに見えるのだからイケメンってお得だ。

 この人の名前は土屋 冬吾(とうご)。私より二歳年上の高校三年生。

 カメラを趣味とし、その実力は実際様々な賞に入選を果たしているほど。

 この人も例に漏れず女子によくモテて、そして愛梨ちゃんの傍をちょろちょろとするお邪魔虫の一人。

 愛想が良くて、誰にでも良い顔をするのはお兄ちゃんと同じだが、これはまたタイプが違う八方美人だ。

 男友達も多いが、女友達もたくさんいらっしゃるという、いわゆる女好き。

「げっ、チャラ男」

「チャラ男言うな。冬吾って呼べ。またキスされたいか?」

 そしてキス魔。

 こいつは出会ってそうそう私にキスしてきた(ただし頬)変態なのだ。

「うげっ。近付かないでください!」

 徐々に詰めてくる冬吾先輩を両手でガードして顔を守った。


 出会いといえば、この人との出会いも入学式だったなと思い返す。


 だが今は、「とりあえず近付いてくんな! この変態が!」そう叫びだしたくてたまらなかった。




今度はチャラ男(笑)

次回は冬吾との出会いの場面です。

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