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賢者の息子と呼ばれても  作者: 夜夢
第五章
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第四十九節:講義と噂話と……

 “姫君のお忍び”が王城を中心とした関係各所によって着々と進められていた一方で、“セオミギア大神殿学院”の内部では“姫君のお忍び”に関する様々な噂が生徒達の間で囁き合われていた。

 それは、彼等彼女等が詳しい内容を知らないが故に、様々な憶測が駆け巡っていた。


 先日、大神殿前に“姫君の箱馬車”に有名所の生徒数名が乗り込んだ情景は、幾人もの生徒によって目撃されている。そして、“姫君”に何らかの案内役を仰せ付かったらしいということも、セレシア姫やレイアと同じ組の生徒から情報は流れて来ている。

 だからこそ、“虹の一族”に連なる姉弟達が姫君――セレシア殿下が行う“何事”かに同行することは確定的な事実として語られていた。


 とは言え、セレシア姫は王族、レイアは剣呑な雰囲気を漂わせる人物であり、フォルンは謹厳実直な優等生である。噂の渦中である三人に事情を問い詰めるだけの度胸を持ち合わせる者等はいなかった。


 ただ、そんな噂を苦々しい思いで耳にしている者達も一定の数は存在していたのだった。



  *  †  *



「さて、種族による魔法の適正は、この辺りにしましょうか……」


 黒板への板書を一通り終え、白墨を置いた講師――ラティルは生徒達の方へと振り返りながら、彼等に向けて言葉を紡いだ。そして、生徒達が板書の内容を書き写す(いとま)を与える為に一旦口を閉ざす。


 数拍ばかりの時を開け、生徒達の殆どが顔を上げた頃合を見計らい、ラティルは言葉を再開する。


「それでは、性差における魔法の適正に関して話をしてみましょう。

 一般的に、魔法の適正は女性の方が男性に比べて優れていると言われています。実際に平均的な魔力保有量を比べた場合、男性のよりも女性の方が大きい傾向にあるとされています。

 とは言え、こうした男女による差異は、個人差を越える類のものではありません。古今東西において、優れた魔法の使い手は男女問わず現れていることからも判ることでしょう。

 こうした点は、身体的な能力と同様だと言えるかも知れませんね……

 一方で、男性のみ、或いは女性のみが使用可能な呪文が存在すると言われていますね。

 ですが、これは正確には“性別によって習得の難度が大きく異なる呪文が存在する”と言うべきでしょうね……」


 ラティルは、その要点となる部分を板書しながら、講義の内容を語って行く。


「さて、こうした男女の性差が生じる原因は、体内の性決定要素が魔力保持や魔力操作を行う諸器官の成長を阻害する効果に、男性要素と女性要素で差異がある為だと考えられています。

 この様に考えられる理由の一つとして、男性と女性以外の性別――両性や無性における魔法適正の差異が挙げられます。

 多くの亜人種において両性が生まれる頻度はそう高くない為、比較対象が少ないこともあって現状では定説とは言い切れませんが……

 両性――即ち、男性・女性の両方の特質を有する者に関しては、女性よりも保有魔力量や魔法適正がやや高い傾向にあると言われています。これは男性要素と女性要素の魔法適正に関する抑制効果が干渉し合って効果を弱めているのではないかとも言われていますね。

 対して、無性――即ち、男性・女性の両方の性的特徴を持たない者に関しては、明確に他の性別と比して保有魔力量や魔法適正が段違いに高いとされていますね……

 無性体の例から、性決定要素に魔法適正に関する阻害効果があると推測されている訳です。

 この仮説を逆手に取った事例として、古代紀の“ユロシア魔導帝国”や“チュルク精霊王国”の宦官術師がありますね……」


 ラティルの講義がそこまで進んだ所で、講義時間終了の鐘の音が響き渡る。


「……おや、もう時間ですね。それでは、今日はここまでとしましょう」


 そう言うと、彼女は教壇に並べられた資料を纏めて講義室を後にしたのだった。



  *  *  *



 担任でもある講師――ラティルが立ち去り、休み時間となった講義室はざわめきで道始める。それは、生徒達が受ける次の時間の講義が同じこの講義室で行われることも理由の一つとなっていたであろう。


 しかし、それよりも大きな原因があることを、多くの生徒は認識していた。



 その理由とは、中等部二年生の間を席巻していた“姫君の宣言”に関する噂が、遂に一年生の間にも流布して来たと言うことであった。

 既に“姫君の宣言”から数日の時が経過しており、噂が伝播すること自体は不自然なことではない。とは言え、本来は雲上人として仰ぎ見られる御方の一人に関する噂と言うこともあって、生徒達の間に浮付いた空気をいや増す効果を与えている様であった。



 ともあれ、そんな何処か浮付いた噂が、ようやくケルティス達の許にまで辿り着いていたのだった。


「……何か凄いことになってるみたいですね……」


「……本当に……」


 幾分かざわつきの増した感がある講義室を見回しながら、ニケイラより呟きが漏れる。そんな呟きに、カロネアからの声が返される。


 講義室に集う生徒達は、各々が噂を囁き合い、時に彼等(ケルティス達)へと視線を投げかけて来るのだ。ケルティス達四人として見れば、そんな視線を意識せざるを得ない。


「……厄介な話だな。やはり、あの時の姫君は本気だったと言うことか……」


「……そうみたいです……ここ暫く、レイアさんが頭を抱えてみたいですし……」


「あのレイアさんが頭を抱えたって……」


 口々に言葉を交わす少年少女達は、やがて彼等の視線は一人の少女へと集まって行った。


「やっぱり、あのこと……だよね?」


「そう考えるのが、自然だな……」


「……そうですよね……」


「……そう、なりますね……」


 集まった視線の先となる青き髪の少女は、幾分憮然と呟いた後で溜息を漏らした。



 姫君――セレシア姫が何を行おうとしていることに関して、未だ生徒達の間では詳細は知られていない様ではあったが、“姫君の茶会”に出席していたケルティス達にはその内容は容易に推測出来た。

と言うか、彼等の内の幾人かが、姫君が行おうとする事柄の関係者となっているのだ。



 ともあれ、憮然とした様子を見せるカロネアに向けて、心配そうにニケイラが声をかける。


「あの、大丈夫ですか、カロネアさん……?」


「……大丈夫と言うと……?」


 鸚鵡返しにカロネアは問い返しの言葉を紡ぐ。そんな彼女に向けてニケイラが改めて問いの言葉を重ね直す。


「あの、カロネアさんのお婆様が驚かれなかったのかなって……

 もし、私の家に姫様が来られるなんて話したら、家中が吃驚仰天して大騒ぎになっちゃうんじゃないかって思うんですけど……?」


 赤毛の少女が紡いだ言葉を聞き、青髪の少女はクスリと微笑みを浮かべた後で、返答の言葉を紡いだ。


「そうですね……私の祖母にこのことを話した時には、さして驚いた様子もありませんでしたね。

 むしろ、「物好きな姫様のいたのものよ……」って呆れ混じりに仰ってましたからね……」


「えぇっ?……それって、何か凄いですね」


「流石は、“碧玉の聖娼”なだけはある、と言うべきか……」


 カロネアの返答に仰天するニケイラに対し、妙に納得気にヘルヴィスは呟く。そんな眼鏡の少年の様子に、少女達からの物問いた気な視線が走る。

 彼女等の視線に気付いて、彼より返答の言葉が紡がれる。


「考えてもみろ。家を出奔した曰く有り気で、成人もしていない貴族の子女を、養ってやろうと言う人間の胆が太くない訳がないだろう?」


「……あぁ……」

「……それは……」

「……確かに……」


 ヘルヴィスより紡がれた台詞を耳にして、他の三人は納得の声を異口同音に漏らすことになった。



 そうして講義室の一隅で三人の呟きが漏れたのと時を同じくして、次の講義の開始を報せる鐘が鳴り響く。

 そして、鐘の音の余韻が消え切らぬ内に、この時間の講義を務める講師が、講義室の扉を開いてやって来たのだった。



 長らくお待たせしてすみませんでした。

 切りが良いので、若干短めではありますが、ここまでとさせて頂きます。

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