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賢者の息子と呼ばれても  作者: 夜夢
第四章:公表と驚嘆と……
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第四十一節:姉弟と姫君と……

 今回は若干短めとなっております。

 さて、ケルティスの告白で彼の友人達が思考を一瞬停止させていた時と相前後する頃、そこから幾分離れた場所にある別の食堂にて“虹の一族”に数えられる姉弟――レイアとフォルンは昼食の膳を突いていた。そんな中、姉弟が囲む卓に薄い影が射した。


「「……ん……?」」


 不意に射した影に、二人は影の射した方へと首を巡らせる。そして、そこに立っていた人物を目にして、二人は驚きに目を丸くする。


「……ゲッ……!」

「……え……?」


 驚きと他の感情が入り混じって、二人は顔を歪めた。そんな姉弟の姿を目にして、影の主は穏やかで優雅な微笑みを浮かべていた。



  *  *  *



 さて、再び時と所は移り変わる。


 その日の授業が一応の終わり、放課後の時間となった頃、一年灰組の教室では居心地の悪い想いを抱きながら、ケルティスは下校の準備を進めていた。

 自身の正体――特に、その年齢を告白したお蔭で、友人達は昼食後も何処か呆けた様な、或いは上の空と言った様子を見せており、少しばかり声をかけることが憚れる所だった。更に言えば、同級生(クラスメイト)から注がれる奇異の――より正確には畏怖の視線は未だ衰える様子を見せていない。


 そんな針の莚の様な状況の中、ケルティスは黙々と教本や帳面に文具と言った物を纏め、席を立とうと顔を上げた。その時、教室の中にどよめきが上がった。


「…………?」


 不意に上がったどよめきに、不思議に思ったケルティスは顔を上げる。そんな“虹髪”の少年の目に映ったのは、自らと同じ“虹髪”を持つ者が教室へと入って来た所であった。


「……レイアさん、と、フォルンさん……?」


 思わず彼等の名を呟いた彼の視界に、“虹髪”の姉弟に先導されて第三の人物が教室へと入って来た姿が映った。


 その人物とは、艶やかな白金色に輝く長髪と透き通る様な白皙の美少女であった。その纏う衣服は学院生徒のそれであり、どうやらレイアやフォルンと同じく中等部二年生だと窺えた。

 彼女は教室内を徐ろに見回し、その視線が一点で止まる。その視線と交わったケルティスは、銀色に煌く彼女の瞳と真正面から見詰め合うことになった。

 そうして遠目からの対面をしたケルティスは、相対する少女に何処か既視感を覚えていた。


 しかし、そんな感慨を抱いたケルティスの姿に頓着した様子も見せず、白金色の髪の少女は真っ直ぐにケルティスを目指し、優雅な所作でその歩みを進め始めた。



 程なくして、彼女はケルティスの眼前に立ち、そんな彼女の後を慌てて追いかけた“虹髪”の姉弟――レイアとフォルンも到着する。

 そして彼女は、追い付いた二人に振り返って、鈴を転がす様な声音で言葉を紡ぐ。


「それでは、レイア、フォルン……約束通り、(わたくし)に、この子を紹介してくださるかしら……?」


 その言葉に、渋面と言った様子でレイアが呟きを漏らす。


「…………別に、あたし等は約束なんかしてねぇってのに……」

「……姉さん、そう言う言い方は良くないよ……」


 姉の呟きを聞き咎めたフォルンが小声で注意を促すが、その言葉に普段の強さが鳴りを潜めたものとなっていた。どうやら彼も、内心では姉の意見に同意する所がある様に見受けられる。


 ともあれ、優雅な所作ながら、有無を言わさぬ雰囲気を含んだ彼女の視線に屈したのか、レイアは深い溜息を一度吐いた後で、ケルティスの方へと向き直る。


「あ~……その、なんだ……

 同級生(クラスメイト)がお前に会ってみたいって言うから、案内して来たんだ。紹介するよ……この人は、セレシア=ユロシア……中等部二年金組の生徒だ。

 それで、こいつがケルティス=コアトリア……一応、あたし等の叔父になる奴だ」


 ほぼ一息でケルティスへ対面する少女を紹介する言葉を紡ぎ上げたレイアは、最後に少女――セレシアに向けてケルティスを簡潔に紹介する。そこには誰も口を挟む余地を与えぬ様にと言う意図が垣間見えた。

 そんな年上の姪(レイア)の台詞に、ケルティスと周囲の生徒達の一部は驚きで目を見張る。


「……=ユロシア、って……もしかして……」


 そんな驚嘆するケルティスに向けて、セレシアは改めて言葉を紡ぎ、優雅な淑女の例を見せる。


「お初に御目にかかります。セレシア=ユロシア=オン・セオミギアと申します」


 彼女の名乗りを聞き、ケルティスは自身の推測が間違いなかったことを思い知った。



  *  †  *



 “ユロシア”と言う単語は、この大陸(北方大陸)の呼称やこの地域(北方大陸西部)の呼称……そして、古代紀に大いに繁栄を誇った国家の国号として用いられている。

 だが、それ以外にも広く知られた事柄を指してもいる。その一つが、家名としての“ユロシア”である。


 “ユロシア家”とは、史上初の人間の国家――“ユロシア魔法王国”を建国し、“セオミギア大神殿”を建立した偉大なる魔術師にして聖者たる賢王――ウィルザルド=ユロシアを初代とする家系である。前述した内容から窺い知れる様に、この“ユロシア家”は、“ユロシア魔法王国”及び“ユロシア魔導帝国”の歴代国王及び皇帝を輩出した家柄である。

 より正確に表現するならば、ウィルザルドの子弟六人によって成立した“セオミギア=ユロシア家”・“ルネミギア=ユロシア家”・“ミドミギア=ユロシア家”・“オセミギア=ユロシア家”・“ノサミギア=ユロシア家”・“フェスミギア=ユロシア家”の六家の総称が“ユロシア家”であり、古代紀の“ユロシア魔法王国”及び“ユロシア魔導帝国”において皇族たる“選王公爵”、或いは“選帝公爵”の爵位を持つ嫡流の一族のみが名乗ることを許された家名であった。


 とは言え、古代紀が遥か昔となった現在、この六家の殆どが嫡流の血は絶え、“ユロシア”の家名を名乗る家系は一つしか残っていない。そして、その唯一残った“ユロシア家”こそが“セオミギア=ユロシア家”……この国――“神殿都市”セオミギア王国の王族の家系であった。



 そして、家名の後に続く“オン・セオミギア”と言う称号は、“セオミギアの君主たる者の子女”を意味していた。

 即ち、彼女は“この国(セオミギア王国)の王女”であることを示していた。



  *  †  *



 突如として登場した王女――セレシア姫の存在に、一年灰組の教室の中は暫し硬直した時間が流れた。

 だが、その沈黙は、この呪縛に捕らわれぬ者によって破られた。


「……姫様、素直に名乗るなって……周りを見てみろよ。名前を聞いた奴等が硬まってるじゃねぇか……」


「そうなの?…………そう、みたいね……」


 幾分か憮然とした様子で突っ込みを入れたレイアの台詞に、一瞬キョトンとした顔をして見せた後、指摘された通りに教室をぐるりと見回したセレシア姫は気まずそうな面持ちで呟きを返した。

 そうした目前やり取りを目にしたお蔭で、幾分か気を取り直したケルティスは何とか問いの言葉を紡ぎ出した。


「……あの……王女殿下が、何故、こんな所に……?」


「正しくは、王孫女に当たりますけれどね……

 先程、レイアが申していたでしょう……貴方に会ってみたくて訪れたのですよ。

 でも、貴方達を驚かせてしまったようですね……」


 呆然と立ち竦むケルティスに、セレシア姫は僅かに苦笑の色を滲ませた微笑みを浮かべて答えの言葉を返したのだった。


 そんな微苦笑を浮かべる姫君と相対していたケルティスの傍らに、二つの人影が進み出た。その人影に気付き、振り仰いだケルティスの視界には、少し硬い表情をした赤毛の少女(ニケイラ)青髪の少女(カロネア)の姿が映し出されていた。


「……ニケイラさん……それに、カロネアさん……?」


 驚き目を見張ったケルティスの傍らで、恭しい態度でカロネアが口を開いた。


「セレシア殿下、畏れながらお尋ね致します。

 何故、ケルティスにお会いになろうとなさったのでしょうか……?」


「……何故、とは……?」


「……昨今、学院に広まった“噂”をお耳になさった故で御座いましたら……」


 そう口にするカロネアの瞳には、殺気に似た剣呑さが秘められている様に窺えた。

 鮮やかな青髪を持つオセ系らしき少女――カロネアの物言いに、セレシア姫は目を丸くして、傍らに控えるレイアへと振り返る。


「……“噂”、とは……何のことですか……?」


 その問いかけに、レイアは面立ちを渋面に歪めた上で、答えを返した。


「……最近、一年辺りで評判になってる……此奴(コイツ)――ケルティスが“化物”だって言う、“噂”だ……」


 レイアの言葉に姫君は微かに眉を顰め、次の瞬間には朗らかな微笑みを浮かべ直して言葉を紡いだ。


「なるほど……そんな噂が……

 心配せずとも、今日こちらに来たのは、その“噂”故ではありませんよ。前々からティアス猊下の御縁者とは会ってみたいと思っていたのですよ」


「……父の縁者と、ですか……?」


 姫君の言葉に、ケルティスは首を傾げて鸚鵡返しに言葉を返した。


「えぇ、そう……我が祖父――イルアード陛下は、折に触れてティアス猊下のことを気にしていたからかも知れませんね……」


 そう言って微笑んだ姫君の姿に、ケルティスと彼の周囲を囲む友人達は何処か呆けた表情で見詰め返すこととなる。そんな彼等を目にしてセレシア姫は再度言葉を紡ぎ上げた。


「……それでは、今はこの辺りでお暇させて貰いましょう。お話の続きは、またの機会に致しましょう」


 そう口にして、彼女はその身を翻して一年灰組の教室を後にしたのだった。


「あ!……それじゃあな……!」

「じゃあね、ケルティス君……」


 身を翻す姫君の姿を目にして、“虹髪”の姉弟は慌てた様子でケルティス達への挨拶もそぞろな内に彼女の後を追ったのだった。



 そんな姫君一行を、ケルティスや一年灰組の生徒は呆然と見送ることになったのだった。



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