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賢者の息子と呼ばれても  作者: 夜夢
第二章:最初の授業で……
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第十六節:薄暮の空間で……

 扉を開いたラティルは、生徒達を中へ入るように促す。

 そんな講師に促される様にして、生徒達は開かれた扉を通って部屋の中へと入って行った。

 部屋の中は数十人に及ぶ生徒達を十二分に収めるに足る広さを有する空間を持っていた。



 生徒一同が部屋に入った所で、ラティルは入り口の扉を閉ざした。


「「「…………!」」」


 扉を閉ざされた部屋の中は、光は一切なく、さりとて闇に包まれることのない不可思議な空間となっていた。

 その部屋には窓一つなく、灯火の類も一切が点されていない。しかし、部屋の中の様子は、生徒達の目に朧げな様子ながら映し出されていた。


 その不可思議な空間は……言わば、“薄暮の空間”と呼ぶべきものであった。



 互いの姿を輪郭として見て取り、互いの表情も朧げなものとしか感じられない室内の様子に生徒達は戸惑いの余りざわめき始める。


 それはケルティス達三人も例外ではなかった。


「……何なの?……ここって……?」


「……不思議な場所ですね……」


「……“光の精霊力”や“闇の精霊力”の働きが感じられませんね……」


 そうした会話がそこかしこで湧き起っていた。

 しかし、程なくして部屋の様子に慣れ始める。そうすると、部屋の持つこの不可思議な特性等について隣り合う者達と囁きを交し合う。


 結果として、部屋に満ちるざわめきは鎮まる様子を見せなかった。



 そんな部屋の様子に慣れ始めた生徒達は、光のない部屋の中に煌々とした光源が存在することに気付く。


 その光源とは二つ……より正確には、三つ存在した。その光源とは、二つは生徒達の頭幾分高い位置で輝く小さな二点であり、一つは生徒達の中に埋もれる様にして輝くやや大きな一つであった。

 それら三つは、何れも虹色――黄金・白銀・黒紫・赤紅・紺青・緑碧・透白の七色が複雑に絡み合った色彩の光を放っていた。


 間もなくして、生徒達は光源の正体に気付くこととなる。それは、小さき二つの光点とは、講師ラティル=コアトリアの光彩(虹色の瞳)であり、生徒の中に埋もれた残る一つは、ケルティス=コアトリアの頭髪(虹色の髪)であった。



  *  *  *



 その虹色の髪と瞳に、驚きの視線を集めて行く生徒達に向けて、ラティルは言葉を紡ぎ始める。


「はい、ここが先程から言っていた魔力の検査を行う部屋になります。

 気付いている人もいるかも知れませんけれど、説明をさせて貰いますね。

 この部屋には、“光の精霊力”と“闇の精霊力”の影響を排除する様に呪陣が配置されています」


 その言葉に、一部の生徒達が部屋の周囲へと視線を巡らせた。


 視線を走らせた生徒の一人であったケルティスは、薄らと目に映る部屋の四方の壁面に魔法陣が描かれていることに気付いた。ケルティスが詳しく見直せば、確かに精霊の力を抑制する効果の配列となっていることが見て取れた。

 そして、視線を床面に移すと、壁面と異なる性質の呪陣円が描かれていた。


 それだけの事柄を彼が見て取った頃、ラティルより再び言葉が紡がれる。


「さて、私の瞳やケルティス君の髪に映る“虹色”は、“聖蛇”エルコアトルの祝福によって高められた魔力の影響で染められた物です。その為に、“光”と“闇”の力が殆ど働かないこの部屋では、物質を染め上げる様な強い魔力が輝いて見えるのです。

 それで、この性質を利用して貴方達の魔力の強弱を測定することになります」


 そう言うと、彼女は生徒達を壁際に下がらせ、自身は部屋の中央――呪陣円(魔法陣)の中央へと移動する。

 そして、呪陣の中央に到着した彼女は、すっと右手を掲げ、虚空を指し示す様に人差し指を伸ばす。


『我が内に潜みし魔力に命ず……我が指先に光を灯せ』


 彼女は普段喋る言葉――ユロシア語ではなく、古代紀(第二紀)に用いられていたと言う古語――古代ユロシア語によって紡がれた言葉だった。



 その言葉が紡がれて間を置かずして、彼女の指先に驚くべき変化が現れた。


 彼女が指差す先……人差し指の爪先より拳一つ分も離れていない“薄暮の空間”の一点が急に輝き出したのだ。


「「「…………!」」」


 その光景に一部の者を除いた多くの生徒達が声なき声を漏らした。そんな一同が目を凝らして見れば、光はやや緑味が強い“虹色”の輝きを放ち、彼女の右腕や顔の右側をその光で照らし出している。


 暫し自らが生じさせた光を見詰めていたラティルは、部屋の隅に控える生徒達の方へと首を巡らし、少年少女達へと言葉を紡いだ。


「今見せたのが、この床に描かれた陣図円(魔法陣)の効果です。

 この陣図円(魔法陣)は、この陣に立った者の内在魔力と合言葉(コマンド・ワード)に反応して“光”を放つ性質が付与されています。

 これから、皆さんには一人ずつこの陣に立って、合言葉(コマンド・ワード)を唱えて貰います。魔法の素質を有していれば、光が灯りますから、それで魔法を修得できるかが判ります。」



「…………?」


 陣図円(魔法陣)の説明を始めた彼女に対し、壁際でそれを傾聴する生徒達の中で怪訝な表情を見せる者がいた。彼女の縁者(義弟)たる少年――ケルティスだった。


 怪訝な面持ちを見せる少年の様子に、その傍らにいた少女達より声がかけられる。


「如何しました、ケルティスさん……?」

「……何か、気なることでも……?」


「……い、いえ……何でもありません……」


 そんな彼女達の問いに、少年は短い言葉を返す。そして、少年少女達は再び講師の説明に耳を傾ける。



 ケルティスが見せた怪訝な様子を気付かぬのか、気にしないのか、講師であるラティルの説明は続く。


「……とは言え、先程も言いましたが、万人が何らかの魔法を修得できる訳ではありません。正確な統計が取られている訳ではありませんが、現代の人間で何らかの魔法の素質を保有するのは四割弱程度であると言われています。魔法の適性が高いと言われる私達――ユロシア人でも六割から七割程度の人間に適性があると言われています。逆に言えば、ユロシア人であっても三割弱の人間は魔法の適性がないとも言えます。

 ですから、適性が見受けられない場合でも気に病むことはありませんし、この授業を受けるか等の相談にも乗りますよ」


 そう言った後、陣図円(魔法陣)から出たラティルは、陣の傍らに立つ。そして、その手に持った出席簿を開く。


「それでは、一人ずつ前に出て陣へ入って下さい。まずは、金組の……」


 そうして、彼女は出席簿の上段に記載されている生徒の名前を呼んだのだった。



 ラティルの声に応じて、名を呼ばれた生徒が魔法陣の中央へと進み、先程ラティルが唱えた合言葉(コマンド・ワード)を拙いながらも口に出す。


『わ……我が、内に、潜みし、魔力に命ず……我が、指先に、光を灯せ……』


 拙いながらも唱え上げた生徒の指先に、指の第二関節程度を照らす微かな光が生じる。


「……あ……」


 先程ラティルが見せた光に比べて余りにも微かな光に、魔法陣に立つ生徒から落胆の声が漏れる。しかし、そんな少年に向かってラティルより声がかけられる。


「……気にする必要はありませんよ……魔法の習得を行っていないのなら、この程度の光でもおかしくありませんから……

 きちんと魔力光を生じさせることが出来たのですから、貴方には魔法の素質がちゃんとあると言うことですよ」


「…………は、はい……ありがとうございます」


 微笑んで語るラティルの言葉に、魔法陣に立つ少年は気を取り直して生徒達が並ぶ壁際の方へと下がって行った。



 そして、彼女の呼びかけに応じて、順次生徒達が一人ずつ魔法陣へと進み出る。

 多くの生徒達は、最初に呼ばれた生徒と同様に指先をほんの少し照らす程度の光を放つのが精一杯の様子だった。


 生徒達の中には、光を一切放つことの出来ない生徒もいたが、それも最終的には片手で数えられる程度の数でしかなかった。とは言え、光を生じさせることが出来ず悄然と下がる生徒にラティルは慰めの言葉をかけ、励ましの言葉を投げかけたのだった。


 ともあれ、そうして生徒達の適性検査は進んで行った。



  *  *  *



 そんな中の序盤の内に、デュナン=ディケンタルの名が呼ばれていた。



「……一年金組、デュナン=ディケンタル君……」


「……おう……」


 鷹揚と言うより、やや尊大に感じる態度で答えた金髪の少年は、胸を逸らし、肩を怒らせて進み出た。

 そして、魔法陣の中心へと立った少年は、声を張り上げて合言葉(コマンド・ワード)を口にする。


『我が内に潜みし魔力に命ず!……我が指先に光を灯せ!』


 その言葉に応じて、彼の指先に光が生じた。


「「「…………おおぉ……!」」」


 その輝きに、部屋にいる者達からざわめきが漏れる。


 何故なら、彼の生じさせた光が他の生徒達と違いを見せたからだ。それは――彼が生じさせた光が、他の生徒より大きな輝きを示していた。彼の指先から生じた赤味がかった金色の光は、彼の手首の辺りまでを煌々と照らし出していた。


「……やったぞ……!」


 講師ラティルに及ばぬものの、今までの生徒の中で最も大きな輝きを生み出したことに、デュナンは思わず笑みを漏らした。そんな少年に向けて講師たるラティルより声がかかる。


「……凄いですね、デュナン君……

 貴方は、事前に何か魔法の修練を行っていましたか?」


 その問いかけに、僅かに眉を顰めて少年は答える。


「……何も習っていない!……それが何だと言うんだ……」


 やや苛立たしく返された声を聞き、ラティルの顔が感心した様に軽く頷きを見せる。


「そうですか……何らかの魔法を修得している訳でもないのに、これ程の輝きを示すと言うことは、貴方には高い魔法の適性があると言うことになりますね……」


 彼女から告げられた言葉に、苛立ちの浮かんだ少年の顔は、見る間に喜色へと塗り替わる。

 その喜色の色合いが充分に顔に現れた後、誇る様に……或いは、嘲る様に……少年は胸を張り、鼻を鳴らして壁際に並ぶ生徒達を睥睨する。


 そして、ニヤリと口元を歪めながら、生徒達の並ぶ壁際へと下がって行った。



 そんな彼の様子を目にして、ニケイラが「感じが悪い」と険のある口調で呟きを漏らした。



  *  *  *



 金組の生徒から始まった検査も順次進んで行き、他の(クラス)の生徒へと移り変わる。そうして、この適性検査も終盤に差し掛かった頃、一年灰組の面々の名が呼ばれるようになった。



 やがて、出席簿順に行けば、ケルティスが呼ばれる番になった。


「…………」


 その時、ラティルは出席簿を暫し睨み付け、一時瞑目した後でケルティスの次の席次の者の名前を呼び出したのだった。



「……あれ……?」

「……何故、ケルティスさんを呼ばなかったのでしょうか?」


 ケルティスの名が飛ばされたことに、ニケイラとカロネアは、声を潜めつつも疑問を口にする。そんな二人に囁く様な声で、ケルティスが言葉を紡ぐ。


「……多分……ラティルさんは、僕に適性があることを承知しているからじゃないのかな……?」



 そんな少年少女の会話が進む内に、彼女等の方に向けてラティルより声がかかった。


「それでは……一年灰組、カロネア=フェイドルさん」


「……はい……」


 ラティルの呼び声に、青き髪の美少女は落ち着いた声で返答を述べた後、優雅な足取りで魔法陣の許へと歩を進めた。



 魔法陣の中央に立った少女――カロネアは、講師であるラティルがして見せた様に、すっと右腕を掲げ、示されていた合言葉(コマンド・ワード)を口にした。


『我が内に潜みし魔力に命ず……我が指先に光を灯せ』


 その言葉に応じて、少女の指先より光が発せられる。


「「「……おおぉ……!」」」


「「「……な、なんだって……!」」」


「「「…………凄い……」」」


 その光を見た生徒達から、驚愕と感嘆の入り混じった声が次々と溢れ出した。


 彼女の指先に点された光は、青色と紫色が絡み合う様な色合いを示し、彼女の手首から前腕までを照らし出していたのだった。



 予定より発表が遅れて申し訳ありません。次回は早めに発表する予定となっておりますので、楽しみにして頂ければ幸いです。


 ご感想・ご意見・ご指摘等々ありましたら頂けると幸いです。


 誤字を訂正いたしました(1/18)

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