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四つ星ねこレストラン

掲載日:2026/10/16


 森の奥の 奥の奥 

 

 そのまた奥の さらに奥


 一歩 一歩 また一歩 人からどんどん離れてく


 一歩 一歩 また一歩 音がだんだん消えていく


 一歩 一歩 また一歩 光がすぅっと消えていく


 一歩 一歩 また一歩


 生命《いのち》の火が──


「消してはいけませんよ」


 消えたはずの 声がする


 ここは 森の奥の奥 


 人がいない 奥の奥


「大丈夫ですか?」


 私は一人になりたいの そう伝えるはずだった


 歌い始める 腹の中


「あなたのような正直な方、私は好きですよ」


 こんなところで 聞きたくない


 好きだという 暖かい言葉


「よければ、私についてきてください」


 姿の見えない声の主 声を頼りについていく


 一歩 一歩 また一歩


 一歩 一歩 また一歩


「着きましたよ」


 ここは 森の奥の奥 


 人が住めない 奥の奥


「ゆっくりしていってくださいね」


 奥の奥のはずなのに ポツンと建ってる家一つ


 木で作られた 家一つ


「明かりをつけます。目を閉じてください」


 言われるがままに 目を閉じる


 闇が広がる瞼裏《まぶたうら》 光がうっすら灯《とも》ってく


「少しずつ、目を開けてください」


 言われるがままに 目を開ける


 木でできた家具が 並んでる


 小さな小さな 木のお家


「ここですよ、ここ。あなたの下です」


 言われるがままに 下を向く


 そこにいたのは──


「おや、喋る猫を見るのは初めてですか?」


「さぁ、席についてください。お腹が空いているのでしょう?」


「今夜は特別に、私がご馳走しますよ」


「猫が料理を作るのは、変だと思ってますか?」


「ご安心ください。猫は猫でも、料理ができる猫ですから」


 不思議な不思議な 家一つ


 不思議な不思議な 猫一人


「歩き疲れたでしょう。水でも飲んで、ゆっくりしててください」


 自分がゆらゆら 動いてる


 ゆらゆらゆらゆら 動いてる


 かき消すために 流し込む


「とても美味しいでしょう?」


「どこでとってきたかは、企業秘密です」


「さぁ、作っていきますね」


 トントン コトコト サッサッ ジュー


 トントン コトコト サッサッ ジュー


「よく聞こえるでしょう、食材たちの音が」


「静かな森だからこそですよ」


「うるさい都会じゃ、こうはできません」


 トントン コトコト サッサッ ジュー


 トントン コトコト サッサッ ジュー


 音がお腹を刺激する お腹が合わせて歌い出す


 トントン コトコト サッサッ ジュー


 トントン コトコト サッサッ ジュー


「さぁ、できましたよ」


「遠慮せずいっぱい食べてください」


「あぁ、ご安心ください」


「私の毛は食材ではありませんので、入ってませんよ」


 言われるがままに 流し込む


 身体の中へと 流し込む


 肉が 心が 脳みそが もっと寄越せと叫び出す


 寄越せ寄越せと 暴れ出す


「お気に召していただけたようで、嬉しいです」


「どうぞ、こちらをお使いください」


 スッと出された ハンカチーフ


 私は頬に 手を当てる


「あなたは、生きています」


「生きていても、いいんです」


 不思議な不思議な 木のお家


 不思議な不思議な 猫一人


 涙が涙が 止まらない


 涙が涙が 溢れ出す


「おかわりもいっぱいありますから、遠慮せず食べてください」


「これはなにでできた料理か、ですか?」


「申し訳ございません。食材は伝えないことにしているのです」


「あなたが口にしてるそれが『牛の肉』だったら、安心しますか?」


「『ゴキブリを炒めたもの』だったら、吐き出しますか?」


「私たち『猫の肉』だったら、可哀想に思いますか?」


「あなたたち人間は、知りすぎです。考えすぎです」


「たまには、感じたままに生きてもいいじゃないですか」


「難しく、色々と考えなくていいんです」


「難しく考えずに、行きましょう」


「難しく考えずに、生きましょう」


「この料理が、なんの食材でできているかなんて、考えなくていい」


「この料理は、誰が作ったのかなんて、考えなくていいんです」


「美味しい」


「それだけで、いいんですよ」






 森の奥の 奥の奥 


 そのまた奥の さらに奥


 小さな小さな 木のお家 


 ポツンと建ってる 家一つ


 静かな静かな 森の中 


 小さな猫が こんにちは


 森に迷ったら ここに来よう 


 道に迷ったら ここに来よう


 心が落ち着く 森の中 


 心が安らぐ 猫の声


 一歩 一歩 また一歩 人にどんどん近づいてく


 一歩 一歩 また一歩 音がだんだん聞こえてくる


 一歩 一歩 また一歩 光がすぅっと見えてくる


 一歩 一歩 また一歩 



 生命の火が、灯ってく



 一歩 一歩 また一歩


 一歩 一歩 また一歩

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