名門学園の音楽発表会が150kmの魔球とボコボコのホルンにより無事崩壊した件について
ここは名門、聖エトワール魔法公爵学園の大講堂。
今日は年に一度の音楽発表会だ。
客席にはお上品な貴族の令嬢や、厳格な教師陣がずらりと並んでいる。
プログラム第4番。
ステージに上がったのは、学園一の変人として名高い少年、アレンだった。
「あいつの楽器……おかしくね?」
最前列に腰掛ける生徒会長が、隣に座る副会長に囁く。
「えぇ。ハープでもフルートでもなく……あっ、ホルンでしょうか?」
「原形を留めていないがな。馬車の下敷きにでもなったのだろうか」
アレンは、ぐにゃぐにゃに変形してもはや単なる鈍器と化したホルンを、野球のバットのように肩に担いだ。
そしてマイクの前に立ち、ダルそうに口を開く。
「えー、今から始めまーす」
すると、観客席から一人の男が立ち上がり、舞台の上に上がる。
「相方のジョンでーす」
歓声と戸惑いが入り混じった声が上がる。
「おい待て、何が始まるんだ。音楽発表会だぞここは」
客席の生徒会長の額から冷汗が伝う。
アレンはホルンを分解し、一本の棒に様にする。
「は?」
生徒会長の戸惑いをよそに、アレンは叫ぶ。
「ジョン!来い!」
「おうよ!新曲『プレイボール』だ!」
ジョンがその右手から放った推定150kmのストレート。
「ピッチャー第一球投げたー!!じゃなくて!!音楽をしろよ!!なんでステージの上でガチのバッティングが始まってんだよ!!」
生徒会長のツッコミが響く中、アレンはボコボコのホルンを豪快に振り抜いた。
キィィィィィィィン!!!!!
講堂全体に、鼓膜が裂けるような金属音が炸裂する。
「ぎゃあああああああ!」
どこかの令嬢の悲鳴が聞こえる。
打たれたボールは、凄まじい魔力を帯びて客席の天井へ直撃。
ドガァン! と派手な音を立てて天井のシャンデリアが粉砕される。
観客たちがパニックに陥る。
まさに阿鼻叫喚の地獄絵図。
「天井が死んだ!!防御結界を張れ!!」
ステージの上の二人は、客席の阿鼻叫喚などどこ吹く風。完全に二人の世界だった。
青春の悲鳴が講堂に響き渡る。
「アレン、次は変化球だ。感情を揺さぶるぞ」
「おし、かかってこい」
ジョンが放った速度の緩急に、アレンは体勢を崩されながらも、ボコボコのホルンを片手で合わせる。
カツン、、、
「あ、ゴロ。じゃなくて!!」
「おい!その音で”わびさび”を表現しようとするな!音楽の授業をナメるな!」
音楽教室の雄叫びが聞こえたような気がした。
アレンはボテボテの打球を見送りながら、ボコボコのホルンを口元に当て、
「……プー」
と、情けない音を一度だけ鳴らした。
「吹いた!!! 吹けるんだそれ!!!」
「ラスト一級!魂を震わせろ!」
ジョンが魔力を最大出力でボールに注ぎ込む。
「これが俺の!漆黒の翼だぁぁぁぁぁぁ!」
「おおおおお!!」
アレンがボコボコのホルンを渾身の力でフルスイング。
ゴォォォォォォォォォォン!!!!!
凄まじい衝撃波。打球は講堂のパイプオルガンへ直撃し、パイプオルガンが「ドミソーーー!!!」と爆音で鳴り響きながら大破した。
「ホームラン!!! じゃなくて大損害だよ!!!!」
学長は泡を吹いて倒れかけ、教頭がそれを介抱している。
ステージの上で、アレンとジョンは無言でガッチリと握手を交わした。
二人の背後では、粉砕されたパイプオルガンから煙が上がっている。
アレンはマイクに向かって、ボソッと言った。
「……あざした」
講堂から、まばらな拍手が上がる。
そしてそれはやがて、講堂全体を飲み込む大拍手となる。
「……素晴らしい。あれが、前衛的スポーツ音楽」
「ちょっ、生徒会長!?いつの間にかなんで飲み込まれてるんですか!?」
こうして、高貴(?)な音楽発表会は幕を閉じた。




