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作者: 泉田清
掲載日:2025/12/25

 何年かに一度の日。「前回」が何年前だったか、二年か三年だと思う。

 ドアを開ける。寒い朝。休みにこんな早く部屋を出る、そのせいでいっそう肌寒く思える。裸の指先がガサガサする。いつもハンドクリームを買い忘れてしまう。

 「前回」はちゃんと手袋をしていたのに。「前回」もこうやって朝の通勤ラッシュに紛れていった。道行く車たちはセカセカしている。私は悠々とアクセルを踏んだ。暖房で車内が暖まってきた。

 

 「ひき逃げの疑いで逮捕されました」。カーラジオから物騒なニュースが聞こえてくる。県内で起きた事件。八十代の女性を撥ね逃走したが、二日後に三十代の男が逮捕された。逮捕されるまで男は何を考えていたのだろう。容疑を概ね認めているという。

 地域で「裏通り」と呼ばれる、県道から外れた、水路沿いの道路を走った。信号機がないので車通りが少ない。進んでいくと大きな寺院がある。この寺院で何年か前に強盗未遂事件があった。犯人は未だ捕まってない。今でも周辺では、コンビニやドラッグストアで情報提供を呼び掛けるビラが貼られている。黒の上下スエットスーツ姿の、細身の男の不鮮明な写真が載っている。

 噂では、不法侵入した犯人が寺院内で住職と鉢合わせた、危害を加えようとしたところ住職に説き伏せられ、その場を立ち去ったとの事である。いかにも眉唾物だ。が、どうしても想像力を掻き立てられてしまう。一体どんなやり取りが犯人と住職の間にあったというのか。犯人は今でも人知れず、住職の説法を反芻しているだろう。こんな田舎町でも事件が起きるものだと、感心せずにはいられなかった。


 田圃道に来ると、朝日が目に飛び込んできて目頭がズキズキ痛む。昨夜は酒を飲んだ、チューハイ350mlのみですぐ寝た、決して飲酒のせいではない。後で知ったことだが、車の整備不良で捕まると点数が1引かれる。それが酒気帯び運転だと1+13の合計14点引かれ、さらに免停90日となる。全く恐ろしいことだ。

 田圃道沿いに大規模なビニールハウス群があった。道路沿いのハウスの上にシロサギが止まっている。足をピンと伸ばして立つ様は何だか可笑しい。風見鶏にしてはあまりに不格好すぎる。しかし眼差しは真剣そのもので、私の行く先を見つめていた。田圃の真ん中にあるその交差点は「魔の交差点」と呼ばれているのだ。


 「見通しが良すぎてお互いに譲らないんだよな」。地元の旧友が「魔の交差点」をそう評した。実際に交通事故が多く、前後がアスファルトが赤く塗られている。何とも物々しい。

 私の前を白いミニバンが先行していた。朝のせいか向かいからも何台か来ていたし、横切る車も何台かある。田圃道の通勤ラッシュ。「魔の交差点」にミニバンが侵入する。左から白い軽自動車が横切ろうとした。「両者はぶつかるかもしれない」そう思った途端、ガン、小さな音と共に2台は衝突した。ミニバンのバンパーは全て剥がれ、半回転した軽自動車の前方はすっかり潰れてしまった。車内で聞いた音に反し、衝突事故の破壊力に目を見張った。

 周りの車たちが呆気にとられる中、一早く交差点を去ろうとしたら、白いミニバンがゾンビのように、ヨロヨロとこちらに近づいてくる。冗談じゃない。私はこの件に何の関わりもない。急いでいるのだ。私は誰よりも早くそこから立ち去った。その後ずっと気分が悪かった。


 免許センターに到着した。運転免許証の更新にやって来たのだ。思いのほか懐かしさを覚えたが「前回」が三年前だとわかり納得した。

 30分の教習で「もし事故を起こしてしまったら」という項があった、起こした者には様々な義務が生じる。しかし現場の周りにいる人間がどうすべきかはどこにも書かれていない。少しホッとした。ビール350mlのアルコールは5時間で分解される、体調によっては半日残ることもある、これにはドキリとさせられた。教習前にアルコールチェックがあったら危なかったかもしれない。

 何にせよだ。ゴールド免許である!更新の列に並び始めて、手続して、視力検査をして、写真を撮って、教習を受けて、全工程が一時間で済んだ。これが優良運転者の特権なのだ。


 免許証の更新が終え、マイカーに戻る。新しい免許証を眺める。何だか浮かない顔の写真が載っている。いかにも疚しいことを抱えているような顔の。金色の線上に記された、有効期限5年、の文字だけが輝いていた。 

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