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LV5

高瀬刑事の葬儀は、零士の想像をはるかに超えていた。

零士は蓮と並んで会場に入ったが、すぐに胸の奥がざわついた。

 会場は都心の寺院。外には黒い車列が並び、会場周辺には制服警察官と私服警備員が目立たぬように配置されていた。

 一般の刑事の葬儀にしては、あまりにも厳戒態勢だ。

受付があり、そこでは手荷物検査が行われていた。

どう見てもチンピラ風で怪しい零士と蓮は下から上までなめ回すようにチェックされた。

「チッ 何も持ってねーよ もういいだろ」零士が言う。

係員「お前みたいな(もん)をよー面倒みとったわタカさん。こんなゴミ屑かわいがってもしゃあないのに、ほら、はよ行け」


「ああ!?」


「零士やめとけ、キレたら思うつぼや、それにしてもあのおっさん何もんやったんや・・・」蓮がつぶやく。


 零士は辺りを見回した。

 参列者の顔ぶれが、どう見ても普通ではない。裏社会に少しは精通してる自負はある。

 雰囲気でなんとなくわかる。 どれも一般人ではない。

 政治家らしい背広姿、財界風の恰幅のいい男、外国人と見える一団。

 その誰もが沈黙を守り、互いに視線を合わせようとしない。

 まるで、ここが「裏の縮図」であることを互いに了解しているかのようだった。


 零士たちの並ぶ列の少し前に、若い女の姿があった。

 地味な黒いワンピース、無造作にまとめた髪。

 記者証を鞄の奥に隠し、献花を手にして静かに頭を下げている。


 高橋由梨――新聞記者。

 彼女にとって高瀬刑事は、何度も取材で助けてもらった恩人だった。

 同時に、なぜここまで厳戒態勢なのかという職業的好奇心が疼いていた。

 会場の隅でメモを取ろうとすれば、すぐに警備員が近寄ってくる。

 「今日はご遠慮ください」

 制止されても、由梨の観察眼は働き続けていた。


 献花を終えて列を離れる時、由梨は後方に立つ二人の若者に目を留めた。

 片方は野犬のごとく行きかう人を睨み散らかしている青年、もう片方は落ち着いた雰囲気の刺青男。

 零士と蓮。

 (何あの子、近寄ったら噛みつかれそう……)

 由梨はほんの一瞬、彼らを「気になる存在」として心に刻んだ。

 (()()()の少年たちの面倒もよく見てたよな、高瀬さん……)



 零士の耳に、小さな囁きが入る。

 「……コンコードが動いた」

 「また一人、消されたか」


 意味は分からない。ただ、その響きが胸の奥に刺さった。


 葬儀は淡々と進み、零士は焼香の順番を待ちながら周囲を見回した。

 その時――視線が止まった。

 参列者の列の中に、あの黒スーツの男がいた。

 先日、零士を完膚なきまでに叩きのめしたSP。


 血が逆流するような怒りが込み上げ、拳が震えた。

 (見つけたぜあの野郎……!)


 葬儀が終わり、会場を出るSPを零士は目で追った。

 蓮が「やめとけ」と袖を引いたが、零士は振り払った。

 男は黒い車に向かう途中、脇道に入った。

 零士はその背を追い、建物の陰で身構える。


 呼吸を整え、飛び出した。

 「このや……!」


 だが拳が振り下ろされる直前、腕を掴まれ、背中から地面に叩きつけられた。

 呼吸が止まる。視界の上に立っていたのは、無言の男。


 黒いスーツの男は振り返り一瞥したが、フッと笑って足早に去っていった。


 零士を止めた男。鋭い眼差し、冷徹な佇まい。

 「てめえ!!」零士は反射的に立ち上がり、連打を繰り出した。

 しかし、そのすべてが空を切った。

 相手は軽く体をずらすだけで、零士の攻撃はかすりもしない。


 「ふざけんなよ……!」

 零士は歯を食いしばった。だが次の瞬間、視界が反転し、背中を再び地面に叩きつけられる。


 零士の力では、まるで歯が立たなかった。


 「そこまでにしとき」


 声がした。落ち着いた声だった。

 振り返ると、ひとりの女が歩み寄ってきた。

 地味なワンピースタイプの喪服。化粧気のない顔、落ち着いた身なり。

 「!? あんたは!」

 真理子――だが、そこに立っていたのは華やかな女ではなく、食堂の女将だった。

 しかし零士にはすぐにわかった。

 「あんたはあの時の!」

 ルミナス前の喧嘩で手も足も出なかった女。


 「ようわかったな。めったにバレへんねんけど。褒めたるわ」

 女はニコッとして零士の喪服のスーツの胸ポケットに、ひとつの紙片を差し込んだ

 「いつでもええからここにおいで」


 零士はすかさず紙を取り出し目を落とす。

 紙には暗号のような文字列と、座標めいた数字が記されていた。

 だが今の彼には読み解けない。

 「何・・?」


 女と無言の男は背を向け、景色に溶けるように去っていった。


 零士は地面に手をつき、荒い息を吐いた。

 無意識に手が震えている。

 「……なんなんだ、あいつら……」


 零士は胸ポケットの紙片を握りしめ、震える手を見つめた。


 ――力が欲しい。


 零士は今まで漠然としていた感情の一つをようやく言語化できた。

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