二又猫のお礼
「いやあ、ありがとうございました。おかげで助かりましたよ」
私はその言葉を聞きながら手、というより前足をきれいに揃えてペコリと頭を下げる猫を眺めていた。
それはつい先日腹を空かせていたようなので適当に魚を与えた猫のようだった。
焼き魚を丸々一匹ぺろりと食べたその猫はそのままソファの上で丸くなると寝入ってしまっていたのだが、まさか目を覚ましてお礼を言ってくるとは。
「なにかお礼をしなければなりませんが、こう見えても私、そこそこに位の高い猫又でして。なのである程度貴方様の願いを叶えることくらいは出来ると思いますよ。たとえばほら、身の回りのお世話をする女性とか、もしくは目も眩むような大金とか」
自慢をするように二本の尻尾を振り、そして言葉を続けながら女性に姿を変えたかと思うと今度はその手の中に高額紙幣の詰まったアタッシュケースを出現させる。
「さあさ、お礼ですので遠慮なく願いをおっしゃってください」
猫又のその言葉に私は、それじゃあと遠慮なく願いを口にした。
「いやまあ貴方様がそれで良いなら構いませんけどね? もっとあったんじゃないですか?」
会社から帰った私に猫又はそう言ってくる。だが私にとってはこの願いは何にも代えがたいものだ。
願った通り私は猫又のことを思うままに好きなだけもみくちゃにして好きなだけその毛並みを堪能する。
これをできる権利に比べれば大金も女性も大したことではないのだ。
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