異世界転移はデスゲームですか?
思いつき短編です。
タイトルは物騒ですが、さて……?
どうぞお楽しみください。
「う、うぅ……」
目を開けると、白い天井。
明るいけど、電灯は見当たらない。
まるで天井自体が光ってるみたいだ……。
夢、かな……?
『お目覚めですか? 目面真生』
「!?」
女の人の声!?
起き上がって周りを見渡すが、誰もいない……。
ただ天井も壁も床も真っ白の、体育館くらいの空間……。
何だここ!?
『私は女神です。ここは貴方の住む世界とは違う世界で、貴方をここにお招きしたのは私です』
「はぁ……」
あー、異世界転移の夢かぁ……。
生徒に勧められていくつかアニメは見ただけだったけど、そんなにハマってたのか、僕……。
『ちなみに夢ではありません』
「いでで!?」
ほっぺたが見えない何かにつねられた!?
ゆ、夢じゃないのか……!?
『さて、貴方は私立愛ヶ淵高校二年B組の担任ですわね?』
「え、あ、あぁ、そうだけど……」
『蔵運瞳、魚田愛、風合陽、右印桃、この四名もこの世界に来ています』
「何!?」
女神の言葉に生徒達の顔が脳内を駆け巡る!
蔵運は髪を金色に染めて市販のジャージで登校する困った奴だが、遅刻も早退もしないでちゃんと通う、根はしっかりしている子だ。
魚田は潔癖症の気があり、クラスメイトとの関係もぎこちなかったが、園芸部の畑の収穫を一緒にやって以来、少しずつ会話もできている。
風合は陸上部で記録にこだわり過ぎてノイローゼになりかけていたが、半ば強引に連れて行ったバーベキューの後は少し肩の力が抜けた気がする。
右印は幼い見た目から子どもっぽいと思われるのが嫌でアニメ好きを隠していたが、僕が『建設超神ダイクオン』を観てたと知ってからは隠さなくなったな。
どの子も大事な僕の生徒だ!
何としても守らないと!
「生徒達はどこにいるんですか!?」
『ご安心なさい。彼女達もこの建物の中にいます。説明が済みましたらここに案内しましょう』
「……説明?」
『彼女達は教師である貴方に、ひとかたならぬ思いを抱いています』
「えっ?」
『その思いを果たすために、それぞれが望む力を手に入れました』
「力……?」
『蔵運瞳は土と植物を操る力、魚田愛は水をあらゆる液体に変える力、風合陽は炎と刃物を生み出す力、右印桃は風で物体をどのような形にでも切り刻む力』
「い、異世界チート……!」
そんな物騒な力で叶えたい僕への思いって……!
怒り……?
復讐……!?
た、確かに最近避けられている感はある……!
蔵運には、先生方を説得して校則を変えるまでの間、せめて指定のジャージを着るようにと何度も注意をしたから、ウザいと思われたのかも……。
魚田は汚れる事にも価値がある、と伝えたいがために園芸部の収穫に参加させたけど、半ば強制だったし最初は顔引きつってたもんなぁ……。
風合には記録だけが人生じゃないと教えたくて、親御さんと校長先生の許可の上バーベキューに連れて行ったけど、焼きマシュマロの糖質に怒ってたし……。
右印はアニメ話をクラスでもするようになったけど、僕がお勧めを聞くと『まおちゃんにはダイクオンがお似合いー』ってまともに話してくれない……。
やばい! 僕命狙われてる!?
そう思って見ると、この場所、映画で見たデスゲームの舞台みたいだ!
ど、どうしよう……!?
とにかくこの場所に長くいるのは危険だ……!
「あ、あの! 元の世界に戻るにはどうしたら良いんですか!?」
『貴方には空間転移の能力を授けました。彼女達四人と心を合わせて元の世界に戻りたいと念じる事ができたなら、世界の壁さえ飛び越えられるでしょう』
そ、そうか……。
四人の怒りを解いて、心を合わせれば……!
『それでは彼女達をここに通しますわね』
「……わかりました」
覚悟を決めろ目面真生!
生徒の心を受け止めるのが僕の仕事だろう!
ん!? 壁が扉みたいに開いた!
「……よ」
「く、蔵運! 大丈夫か!? 痛いところとかないか!?」
「……うっせぇ……」
う、蔵運は顔を逸らせながら睨んでくる……!
心配くらいさせてくれよぉ!
「せ、先生……!」
「おぉ、魚田! 大丈夫だったか!?」
「だ、大丈夫でしたので、あ、あまり近寄らないでください……」
……う、魚田は接触苦手だもんな……。
わかっていても辛い……。
「先生! 何ですかこの状況!」
「ふ、風合……。すまない、先生もよくわかっていなくてな……」
「しっかりしてくださいよ! 先生でしょ!?」
か、返す言葉もない……!
不安だもんなぁ……。
「異世界で男はまおちゃん一人かー。あちし達に変な事しないでよねー?」
「するわけないだろ右印! 僕は教師だぞ!?」
「……あっそ」
右印は相変わらず冷たい……。
『ではここを拠点にこの世界を楽しんでください』
女神の声と共に、四人が出てきたのとは反対の壁が開く。
おぉ、青空と草原が見える……。
閉じ込められるのではないのか。
空気が重かったから助かるな……。
「んじゃ、あーしは土と植物操るって力試してみるかな。植物を上手い事できたら服とか作れそうだし」
「わ、私、水を集めてきます! 空気中の水分も使えるそうですが、たくさんあった方が色々使えますし!」
「何はなくとも食料よね! あたしはこの炎の力と刃物を使って狩りしてくるわ!」
「んじゃあちしはハルちんと一緒に行こっかなー。ここ何もないから木でベッドとか色々作りたいしー」
「え、じゃあ僕も」
何か手伝おう、と言う間もなく、
「「「「ここにいて!」」」」
「……はい」
全員の言葉で押し切られてしまった……。
まぁ僕の力は移動だけみたいだから、四人の力とは違って役には立たないんだろうけど……。
とにかく四人から僕に思っている不満を聞き出して解消する!
そして僕は皆で一緒に元の世界に帰るんだ!
(やっべー! 先生と異世界とか! しかも植物操れるとか、綿花から服作れるじゃん! 先生はあーしの校則違反は文句言ったけど、服のセンスは褒めてくれた……。だからぜってー良い服作ってやる!)
(……子どもの頃、泥んこになった時にお母さんに『汚い!』って言われたのがショックで、汚れる事が怖くなった……。でも先生が畑に連れて行ってくれたおかげで吹っ切れた……。恩返ししなくっちゃ!)
(先生が連れて行ってくれたバーベキュー……。美味しかった……。そして大学に行った後に何をするか、全く考えていなかった自分に気付けた……。この刃物と炎の力で、先生の胃袋を掴んでやる!)
(『建設超神ダイクオン』を観て将来建築の仕事がしたいって思った……。でもアニメがきっかけなんて、ふざけてると思われたらって怖かった……。だからまおちゃんには感謝してるんだよね……)
(あぁ! ようやくこの五人を招けたわ! ほのかに恋心を抱く四人と鈍い先生! 教師と生徒の垣根のない異世界共同生活! お互いの気持ちを自覚したところで、この世界が重婚OKって伝えたら……! 楽しみだわぁ!)
読了ありがとうございます。
まぁ真生が選択肢を間違えるとデスゲームにもなりかねないから……(震え声)。
お楽しみいただけましたら幸いです。