第99話 両爬竜戦
『カンナカムイ様!』
雷王竜の下へ竜が集まってきた。
大鷲、鷹、隼、燕の鳥型と、獅子、チーター、ガゼルの四足型の高速移動を得意とする獣竜達だ。
その内の一頭、四枚の翼を持つ大鷲型の衛竜が前に出る。
『遅くなって申し訳ありませぬ』
『よい。余の速度に付いて来られるものなどおらぬからな。それより件の獲物を見つけたぞ。貴様達も他の竜と合流し仕留めろ』
『拝命!』
飛び去る配下のもの達を見ながら、雷王は顎に手を当て一考する。
『ネズミが逃げるとしたら東か西か。あるいは北か。……どこだろうが逃さんがな』
雷王竜は雷となり、天へと登った。しばらく上昇すると進路を塞ぐように霧が出てくる。
『おっと、霧か』
ムーランディア大陸の周囲は霧に包まれており、上空も例外ではない。ただし、上部に限っては、普段は晴れており日の光を通すようになっている。生物が抜け出そうものなら今のように穴を埋めるように出現するのだ。
『厄介なものを作ってくれたものだな』
意味深長に呟き、霧に邪魔されないギリギリに位置取ると、無数の雷獣を作って四方八方へ飛ばした。
『これで貴様は籠の鳥。さぁどう出るリザードマン』
◇
リンドウは、国境下の秘密の地下道を通り西へ向かっていた。
『み〜つけた』
突然の信号と共に壁の至る所からミミズのような手足のない竜がリンドウの前に現れた。
——足無爬竜ジムノフィオナ。徒竜。様々なものを捻る“螺旋魔法”を使う——
『シネェェェ!』
有無をいわさず、螺旋を描きながら突撃する。
『おい、早まるな!』
仲間が止めるもお構いなしにリンドウを抉る——ことができるわけもなく瞬殺された。
『バカで助かるな』
軽口を叩くリンドウだが、体は重い。常に鉛を背負っているような感覚だ。
『ヒヒッ、流石だねぇ』
敵は仲間が死んだにも関わらず、余裕の表情を崩さない。
『オレ達は優しい。ここで死んでおいた方が楽でいいと思うぜ?』
『辞めておこう。雑魚に俺の体は貫けないだろうからな』
『その減らず口、どこまで持つかな?』
次の瞬間、リンドウの背後から不可視の何かが迫る。
『俺の感知からは逃れられないぞ』
見えていたリンドウは、激突寸前でヒラリとかわす。
『ケケケ、やるねぇ』
背景に溶け込んでいた竜が姿を見せる。
避役爬竜レオン。飛び出た目と長い舌が特徴で“体色変化”と変形魔法を使う。竜教幹部の少女ドゥエに懐いている竜と同じ種類だ。リンドウの装備している“新・避役竜鎧”とも同一。
『ケケケ、絶対絶命だなぁ?』
避役爬竜は、リンドウに飛ばしていた長い舌を収納がてら舌舐めずりした。周囲を二種類の竜に完全に囲まれる。
『全員、一定の距離を取れ! 遠距離攻撃で血を消費させるんだ!』
一部のバカを除き、猛毒の血液への対策を練ってきたようだった。
だが。
『甘いな』
リンドウは足を部位変化【鱗変化・竜速型】に変え、跳躍。
『な、早い!』
悪鬼のごとき表情で接敵し、瞬殺。
『ダメだ、距離を取——』
連携を取る間もなく首が飛ぶ。いくら対策を立てようが、雑魚竜が閉鎖空間でリンドウに勝てるはずもないのだ。
『くそっ、撃てぇ撃てぇ!』
それでも、数にものをいわせてブレスの雨を降らせた。
リンドウは、蝶のように華麗にかわし、接近。列になっている敵の手前で横薙ぎに手を振り、付いていた血を浴びせる。それが何頭かの竜にかかった。
『ひぃぎゃあああああ! 血が血がぁ!』
発狂しているが、それはリンドウの血ではなく足無爬竜のものだ。リザードマンの血は危険という情報のおかげで敵をパニックに陥らせたのだ。
血の存在を知られたのならそれを利用すればいい。敵の心理を突く戦いを得意とするリンドウ。弱っていても常勝の男をそう易々と倒せるわけがなかった。
『間抜けで助かる』
慌てている避役爬竜の首を刎ねていく。
そんなことを繰り返して包囲を突破し、雑魚を置き去りに先へ進もうとした時だった。
「チチチチチ」
突如、何かの鳴き声が聞こえて振り返るリンドウ。
道の先から青白く発光する大量のネズミが現れた。雷王竜カンナカムイの作り出した雷獣“雷鼠”だ。
(また嫌な奴が来たな)
血を消費したくないリンドウにとって魔法獣は厄介だ。ということで近くの両爬竜の死体を投げつける。
「チチチ!」
雷鼠は壁や天井を走り回避。
『素直には行かないか』
それでも何頭かに接触し、火中の栗が弾けるような音を立てて死体を丸焦げにしながら消滅。生物に触れれば消えるのはありがたい。
が、死体の盾はすぐに底をつき、雷鼠が眼前に迫る。
(チッ、やるしかないか)
仕方なく、鉤爪に【粘液】で薄めた自身の血を塗布して斬っていく。
「チチィ!」
さすがにリンドウの血には勝てないらしく、攻撃された雷鼠は再生することなく霧散する。だが、数は正義で物量突撃にリンドウは捌き切れなくなる。
(…………!)
後退しながら戦っていると感知に反応。リンドウはニヤリと笑い、反応があった方の壁へ腕を突っ込む。
『ほら、オヤツだ』
ちょうど穴から出現した足無爬竜をぶん投げた。
『な、なんだ! ぎゃああああ!』
突然投げられた竜が黒焦げになっていく。
(これで凌ぐしかないな)
現れた肉盾を片っ端から投げて防御。
そうやって戦力を削りつつ、西へと足を早めた。




