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【完結】竜殺しのリザードマン 〜竜に支配された世界で自分だけ“竜殺し”の力を手に入れて“劣等竜リザードマン”になった男の逆襲物語〜  作者: 一終一(にのまえしゅういち)
第4章 リザードマン殺し編

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第98話 二つの希望

 雷王竜カンナカムイの無慈悲(むじひ)な一撃“雷龍(らいりゅう)”により、平原に大穴が開いていた。


『……(のが)したか』


 (くぼ)みの底に小さな穴が開いていることからそう結論付けた。穴は北に向かって伸びているのが見える。


『上質な獲物ほど燃えるというものよ』


 雷王竜は、まだ諦めていなかった。ネズミ型の雷獣“雷鼠(らいそ)”を穴に向けて放つ。


『貴様が“鍵”ならば逃げ切ってみせろ』


 そう言い放ち、自身の体を雷に変え、雲を()いて天へと昇る。そして轟音(ごうおん)を立てながら雷速で移動した。


 幾許(いくばく)もせずにたどり着いた先は、大陸中央にあるファフニール帝国だ。空から地上を望むと、そこら中に(あるじ)を失い戸惑(とまど)っている両爬(りょうは)竜達がいた。


 雷王竜は、中央に着くと、広範囲信号を飛ばす。


『ファフニールの墓標(ぼひょう)(たたず)む子らよ。余の下に付くか、黒焦げになって死ぬか。選ぶがよい』


 両爬竜達は各々(おのおの)、戸惑っている。


 そんな中、一頭の竜が雷王竜の前に出た。


『おれは腐ってもファフニール様の配下よ! 他の王の下になど付かない!!』


 そう言った直後、黒焦げになって墜落(ついらく)した。


 雷王竜は冷酷な銀眼を残りの下々(しもじも)に向ける。


『貴様達はどうする?』


『もちろん我々の王はカンナカムイ様だけです!』


 こうして両爬竜達は雷王竜の傘下に入った。



 リンドウは、国境の地下を(ねずみ)眷属竜のチューボーを抱えて走っていた。


 この穴はかつて犯罪組織が密輸や密入国に使ったもので、道が植物の根のように広がっており、国の内外(ないがい)(いた)る所に繋がっている。


(まさかネズミに助けられるとはな)


 雷王竜の必殺の一撃により死にかけたが、チューボーが掘った地下へ通じる穴のお陰で命拾いした。しかし、半分残っていた尻尾だけは回避が間に合わずに焼き切れてしまった。


 リンドウは、脇に抱えたチューボーに信号を飛ばす。


『なぜ助けた?』


『ヂューヂュー!』


『お前の主人を殺したのは俺といってもおかしくないぞ』


『ヂューヂュー!』


 知能が低すぎるのか信号を理解できない。だが、それで良かったとも思っていた。情が移ればなにかと面倒になるからだ。


 重い足を懸命に動かして進んでいると、分岐点(ぶんきてん)に到着した。


 リンドウは、チューボーを降ろし、壁に寄り掛かった。息を整え、(わず)かでも体力回復に(つと)める。


(クッ……体が重い。座れば、しばらく立ち上がれないだろうな)


 息を大きく吐き、頭にふと浮かんだ事柄(ことがら)を整理する。


 地下に逃げた後、雷王竜が雷龍を連続で放たなかったのは何故か。ここは迷宮ではないため魔法で簡単に(えぐ)る事ができる。もし、がむしゃらに雷を撃たれていれば死んでいた可能性は高い。


 理由があるとしたら、死体を確認できなくなるからか。はたまた狩りを楽しむためか。あるいは気まぐれか。


 何にせよ、このまま雷王竜が諦めるとは思えない。少しでも遠くへ行かなければ。


 回復もそこそこに歩き出す。


 チューボーをちらりと見ると、つぶらな瞳でこちらをじっと眺めていた。


 こいつも竜だ。いずれ殺さなければならない。だが、恩を(あだ)で返すほどリンドウは人の心を捨てきれていなかった。


『助けてくれたのは感謝する。だが、次に会ったらお前を殺さなければならない。だからこれで今生(こんじょう)の別れだ。決して人を食わずに生きろ』


『ヂューヂュー!』


 何を言っているか分からないが、こちらの言葉の意味は理解したようだった。


 チューボーは、東の道へ進んだ。


『ヂュー……』


 途中、一度だけ振り返ってリンドウを見つめると、名残(なごり)惜しそうに走り去っていった。


 リンドウは、それを見送り、西側の道を進んだ。


 薄暗い道をしばらく歩くと、広い空間にたどり着く。


 そこには、いくつもの壊れた(おり)があり、何頭かの混合竜がいた。混合竜とは、二種類以上の竜血が混ざってできた眷属竜だ。


 ふと、地面に落ちている汚れた赤い外套(がいとう)が視界に入る。真ん中には(わし)の紋章が描かれていた。


(これは、紅鷲(あかわし)の……となると、この混合竜共は……)


 彼ら——“紅鷲団ブラッドイーグル”がファフニール帝国に混合竜をけしかけた時の余りだろう。あの時は北側から攻め入ったので、南側であるこちらの竜は使わずに放棄したのだ。


「ガルル……」


 思考に(ふけ)っていると、牛とワニを足したような顔の混合竜が低く(うな)りながら近付いてきた。


 ——鉱獣(こうじゅう)型牛眷属竜キメラミノタウロス。牛が竜血で変化したもの。二足歩行。左半身が宝石のように輝く鱗で、右半身は(とが)った毛のような鱗で(おお)われている——


(チッ、雑魚と遊んでいる余裕はないというのに)


 機先(きせん)を制すように一足飛びに首を()りにかかる。だが、左肩を突き出され、鉱石鱗に防がれた。


(くっ、思った以上に動けないな……!)


 踏み込みが弱く、速度が出なかった。


「ガルァ!」


 敵の追撃。(かわ)して、砂を蹴り上げて目潰し。


「グワォ!」


 敵が(ひる)んだ隙に、次は確実に首を飛ばした。血を吹き、倒れる竜。


(混合竜……か)


 二種類の鱗に包まれる混合竜を見てリンドウの思考に電撃が走る。


(……もしかしたら、あり得るか? ……賭けだな)


 (わず)かに見えた一筋(ひとすじ)光明(こうみょう)


 リンドウは、西へ向かうことに決めた。


 南西のアマゾ大森林へは向かわない。穴は南西に続いておらず、さらに雷獣が包囲しているとなれば、行っても死ぬだけだからだ。


 西には、一ヶ所だけ逃げ場に心当たりがあった。昔、妻ダリアと、彼女の“妹”と訪れたことがある三人だけが知る秘密の迷宮。そこに賭けるしかない。


 そして、混合竜の特徴から西側に行けばある事が起きる可能性がある。


 細い細い糸のような二つの希望。それを掴み取るため、息を切らしながら足を早める。


 このまま何事もなく無事に逃げ切れることを願うが——。


『み〜つけた』


 願い(むな)しく、周囲に足のないミミズのような竜が続々と姿を現した。


(やはり、易々(やすやす)と逃してはくれないか)


 追われるリンドウに休息はない。

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