第97話 今際の際
リンドウは、雷王竜カンナカムイの猛攻を凌ぎ続ける。雨あられと降る雷をすんでのところで躱していく。
逃げるつもりであったアマゾ大森林の方角には雷獣。他の方角にもそいつらは、獲物が弱るのを窺いながら悠然と構えていた。
それでもリンドウは諦めていなかった。間断なく降り注ぐ雷の猛攻をギリギリ躱しつつ、策を考える。
(諦めるな……勝機は必ず巡ってくるはずだ)
だが、その時。リンドウは無意識に片膝をついた。
(っ……!)
帝王竜ファフニールと戦い、そのまま夜通し走り、さらには雷王竜カンナカムイの攻撃を避け続けたため体力が限界に近づいていた。
『ふむ、貴様は強い。余の攻撃にここまで耐えたものはかつておらぬ。焦れて近づけばやられていたのは余だったかも知れぬな』
白い幾何学模様の中に望む顔に笑みはなく、ただ銀眼から放たれる冷たい視線だけをリンドウに向ける。
『貴様を配下に置きたかったが、手綱を握るには手に余る。さりとて捕縛も叶うまい。ならば冥土の土産だ。余の究極の雷獣で屠ってやろう』
雷王竜の右手から蛇、否、大蛇、否、それよりも遥かに巨大な“雷龍”が顕現した。空を優雅に泳ぐ雷龍の叫びと雷音が混ざり合い、恐怖を駆り立てる。
直撃すればリザードマンの血液があっても防ぎきれないだろう。
(くそっ、動け……!)
懸命に足を動かすが、明らかに鈍重だ。
『逝け』
雷王竜が手を振り下ろすと同時、雷龍がリンドウに迫る。大口を開け、地面ごと飲み込む勢いで加速する。
(血で防御を、いや、この質量、防ぎきれない!)
考えろ、最後の瞬間まで、死ぬわけにはいかないのだ。
だが。
死。その言葉が脳を支配する。
それでもリンドウは、とっさにコバコを遠くへ放り投げた。
(コバコ、生きろ)
せめて相棒だけでも助けようと反射的に投げたのだ。
(フッ、何やってんだか)
いつの間にこんなお人好しになったのかとリンドウは死を覚悟しながら笑った。
(すまない、ダリア)
妻に謝罪し、死を受け入れ、ゆっくりと目を閉じた。
が、その時だった。地面から鼠型の何かが姿を現した。
「ヂューヂュー!」
円蛙爬竜アメフクラのコロの眷属、ハープウェアラットの“チューボー”だ。
(お前は……!)
リンドウは、反射的に穴へ潜ったチューボーを追いかける。
生きねばならない。その思いが足を動かし、穴へ滑り込ませる。
『笑止! 今更尻尾を巻いて逃げるか! だが、遅い!』
雷龍が大口を開けてリンドウに迫る。地面に上下の牙が突き刺さり、そのまま食い抉る。
直後、雷龍は大爆発し、周囲に稲妻を撒き散らせる。
そして、世界が欠けた。
砂煙の晴れた先、隕石が落ちたかのような大穴が開いていた。




