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【完結】竜殺しのリザードマン 〜竜に支配された世界で自分だけ“竜殺し”の力を手に入れて“劣等竜リザードマン”になった男の逆襲物語〜  作者: 一終一(にのまえしゅういち)
第3章 帝王竜ファフニール編

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第92話 世界の中心

 右腕と尻尾を喪失(そうしつ)し、満身創痍(まんしんそうい)のリンドウだったが、コバコの奇襲により(つい)に帝王竜ファフニールを地上へ落とすことに成功した。


『なんて事だ……』

『何者だ、あの劣等竜……?』

『まさか、ファフニール様が負けるのか……?』


 中央塔の最上段で対峙(たいじ)する両者を固唾(かたず)()んで見守る有象無象(うぞうむぞう)の竜と竜教徒達。助けに入るべきなのか、邪魔をしないよう静観すべきなのか、この場の誰もが判断に迷っていた。


 仕方なく、時に身を(ゆだ)ね、石像のように固まって事の成り行きを見るだけ。ただ、全員に共通しているのは繰り広げられる戦いに“魅了(みりょう)”されているということ。


 神話の中の戦いを見ているような高揚(こうよう)畏怖(いふ)。どちらが勝っても世界が動くことはこの場の誰もが理解していた。


 衆目(しゅうもく)の先、左半分の翼がない帝王竜は決着をつけるべく、ゆっくりと体を起こす。


無様(ぶざま)よな。王としての型にこだわり過ぎていた』


 竜の王らしく威風堂々(いふうどうどう)と圧倒するつもりだった。しかしそれが慢心(まんしん)を産み、相手に付け入る隙を与えてしまった。


『……ここからは勝ちに行く』


 そう、勝てばいい。圧倒出来なくとも泥臭くても最後に立っていればいい。


 覚悟を決めた帝王竜の新雪のごとき白い鱗が(いびつ)に変化していく。


 リンドウが(わず)かに目を見開いた。


『……まさか』


 それはリンドウも使っている【鱗変化】だった。


 そう、両爬(りょうは)型の竜を()べるファフニールも両爬の力(ハープタイル)を使えるのである。王に相応(ふさわ)しくない力のためここまで使うことはなかったのだ。


『地上戦なら勝てると思わぬことだ』


 言い終えると同時、一瞬で彼我(ひが)の距離を詰める。


(早い!)


 リンドウは咄嗟(とっさ)に竜殺しの血に包まれた真紅の左腕を出して防御する。


 構わず凶刃(きょうじん)を振るうファフニール。


『チィ!』


 直撃。体と鉤爪(かぎづめ)にダメージはないが、血を削られた。


 距離を取るリンドウ。視線の先、ファフニールの(いびつ)な鱗も竜殺しの血液で削れて無くなっていた。


『ククッ、貴様の血か、我の肉体か、どちらが先に無くなるかな?』


 地上戦なら自分に分があると頭の片隅で考えていたリンドウは(あらた)める。


『泥臭い戦いは嫌いじゃない。勝つのは俺だ』


 両者が同時に動く。まともに喰らえば即死の攻撃で一合(いちごう)二合(にごう)と削り合う。そこには、王のような余裕も、貴族の決闘のような上品さもない。


 あるのは、ただの獣同士の殺し合い。不格好でも、体がどんなに()がれようとも、相手を組み伏せたものが勝ち。


 そんな恥も外聞もない血なまぐさい戦いが続く。


 そこに変化を付けるべく先に動いたのは帝王竜。突如(とつじょ)として差し出した右腕が光り輝く。


 【体色変化】応用、発光だ。それで目を潰すつもりだった。


『その程度で!』


 リンドウは【体色変化】で黒くした【瞬膜(しゅんまく)】で防御。


 ——鳥類や爬虫類などは瞬膜と呼ばれる半透明の(まぶた)を持ち、常に視界を確保したり、目に(ごみ)が入らないように出来る——


『ククッ、そうでなくてはな!』


 目くらましを防いだものの、帝王竜の攻撃は続く。自身の鱗が宙に浮き、リンドウを狙う。


 【鱗手裏剣】+“重力魔法”だ。


『さぁ、付いて来い! リザードマン!』


 両爬の力(ハープタイル)の応用と応用の合戦。奇術の撃ち合いで変化について行けなくなった方が負ける。これはそういう戦いだ。


『言われなくとも——!』


 リンドウは、呼応するように手を思い切り振り、鱗を飛ばして撃ち落とす。


『さぁ、次だ!』


 間髪(かんはつ)()れず、横から【尻尾変化・剣型】により刃のように鋭く変化した尻尾が急襲(きゅうしゅう)


 リンドウが防御態勢を取った瞬間——【尻尾変化・木の葉型】により線から面の攻撃に変わる。まともに当たれば血がごっそり削られるだろう。


(面白い、だが!)


 リンドウは【鱗変化・竜速(りゅうそく)型】を使って足のみを部位変化し、瞬間的に速度を上げて回避した。さらに、爪で敵の尻尾の根元を叩き切る。


『フハハハッ! いいぞ! この痛み! むせ返る血の臭い! 命のやり取り! これこそ我が渇望(かつぼう)していたものだ!』


 ファフニールは、欠損を気にも止めず、口から重力砲を放った。暗黒の光線がリンドウを狙う。


 リンドウは焦るそぶりも見せず【鱗変化・亀甲(きっこう)型】で左腕を六角形の盾にする。そこには【粘液(ねんえき)】と血を混ぜたものが()られていた。


 重力砲が盾に直撃。が、かき消すのではなく()らした。血を粘液で薄めたことにより血の効果が弱まり、魔法無効化処理が間に合わず起こった現象だ。これをする事で血の消費を(おさ)えられる。


 ()れた重力砲が衆愚(しゅうぐ)の竜達に当たり、何頭か消滅させた。有象無象の竜からすれば大惨事(だいさんじ)だが、そんな“些事(さじ)”など戦闘狂と化した二頭には視界の端にも入らない。


 リンドウは敵を見据(みす)えて一気に距離を詰める。


『やるな、だがこれならば!!』


 ファフニールが目を見開くと、突然リンドウに脳をかき混ぜられたような激痛が走る。


 信号技“絶対服従(ぜったいふくじゅう)”。基本的に下位の竜は上位の竜の命令に逆らうことはできない。王竜のそれは強力で、逆らおうとすれば脳に激痛が走るのだ。


(チィ!)


 リンドウは竜の(ことわり)から外れているため完全に支配されることはないが、一瞬だけ動きが止まってしまった。その隙をつくように上部の空間に(ゆが)みが生じていた。直後、銀色の鱗の雨が降り注ぐ。


 【体色変化】の応用で鱗を鏡面(きょうめん)にしたのだ。


(クッ!)


 リンドウは、気付くのが遅れたものの、血液付きの腕を振ってかき消した。


 だが、敵の真の狙いは鏡面鱗(きょうめんうろこ)で視界を(さえぎ)ることだった。裏に隠れていた“眷属竜”の質量爆弾が降り注ぐ。


 窮地(きゅうち)(おちい)るリンドウ。


(負けて、たまるか!)


 ここで負ければ全てが無駄になる。勝ちたい。勝たなければならない。妻ダリアのため、皆のため、コロのため、竜を討ち滅ぼし、英雄にならなければならない。


「グォォォォ!」


 リンドウは、裂帛(れっぱく)咆哮(ほうこう)と共に血の鱗ごと【脱皮】し、それを傘に眷属竜を退(しりぞ)ける。そして、胃から“蟻蟲(ありむし)竜の魔臓(まぞう)爆弾”を吐き出すと手に取って突撃。


 これでは王竜を倒せないだろう。しかし、“リンドウ”には致命傷となる。そうなれば自身は死ぬかも知れないが、竜殺しの血が()き散らされ、帝王竜を討つことができる。


 リンドウが左腕に力を込めると爆弾が発光を始めた。


『クッ! 小賢(こざか)しい!』


 ファフニールは意図に気付き、咄嗟(とっさ)に重力魔法で爆弾を潰しにかかる。


(かかったな……!)


 これは賭けだった。


 相手も相討(あいう)ちでいいと考えていれば、そのまま共倒れだった。だが、敵の勝利への執念(しゅうねん)が爆弾破壊の一手を選ばせた。その一手の遅れがリンドウに隙を与えてしまう。


『これで()ちろ!』


 すれ違い様、ファフニールの左脚を切り飛ばした。敵はバランスを失い、体が(かたむ)く。だが、目は死んでいない。


『我は負けぬ! 絶対! 最強! 無敵の王なのだッッ!』


 咄嗟(とっさ)に振り下ろした右腕で重力波を真下に放つ。すると、中央塔が轟音(ごうおん)を立てて見る見るうちに崩壊していく。


 あらゆる生物の骨と共に落下していく両者。


『さぁ、仕切り直しと行こうか!!』


 帝王竜は、中空で目を血走らせながら牙をむき出しにする。

 

『いや、終わりだ』


 ファフニール帝国の地下には——楽園と呼ばれている大空間がある。ほとんど破壊されていたが、帝王竜の巣がある中央塔の下だけは無事だった。そこには無数のコウモリ。血濡(ちぬ)れのそれらが魔法を突き破り、空へと舞っていく。


『な、ま、さか……!』


 リンドウが罠を仕掛けていない訳はなかった。竜殺しの血液まみれのコウモリ達がファフニールに当たり、穴を開けていく。


「グガァァァァ!」


 あまりの激痛に叫びを上げる。


『こ、この我が負けるというのかっ……!』


 血を吐き、意識が飛びそうになる。


 それを見下す、黄金の瞳。


『お前の敗因は力で支配しようとしたことだ』


 暴力での統治(とうち)は恐怖や(ねた)(そね)みを生み、楽園を生み、コロという反逆者を生んだ。そして最後の最後にその楽園により殺される。なるべくしてなった結末であった。


『お、おのれぇ! 劣等竜なんぞにぃぃ!』


 顔を鬼神の(ごと)(ゆが)ませて呪詛(じゅそ)を吐く。だがしかし、怒りに反して体は動かない。瓦礫(がれき)と共に落ちていく。


 やがて、塔は完全に崩壊し、砂嵐でも起きたかのような塵埃(じんあい)に包まれる。周囲の竜達は、動くことも叫ぶこともせず、時の経過に身を(ゆだ)ねるしかできなかった。


 悠久(ゆうきゅう)とも思える時間が過ぎ、ようやく晴れた煙の中心にはリンドウと息も絶え絶えの帝王竜がいた。


『……我を倒したぐらいでいきがるな。すぐに他の王竜が貴様を殺しに来るだろう。……未来はないぞ』


『望むところだ。どんな竜が来ようとも皆殺しにしてやる』


 覚悟はとうの昔に決めてきた。


『フッ、面白い奴だ……匹夫(ひっぷ)(ゆう)にならんといいがな。……地獄で待っているぞ』


 そう言い終わるとファフニールは笑いながら息を引き取った。


 目を疑うような光景に周囲に隠れていた竜達が騒ぎ出す。


『なんて事だ……帝王竜様がやられるなんて』

『竜を溶かすあの血液は厄介(やっかい)だ。他の王竜様に報告せねば』

『世界が、動くぞ!』


 複数の竜が四方八方に散っていく。混沌とする場にリンドウを今すぐ殺しにかかるほどの気概(きがい)に富んだ竜は居なかった。


(何とか勝てた……か)


 倒れそうになるリンドウをコバコが触手のようになり、巻きついて支える。まだ油断は出来ない。隙を見せれば雑魚竜が襲い掛かってくるかも知れないからだ。


(ここからが始まりだ)


 ようやく大陸を恐怖に(おとしい)れた破滅の六王と呼ばれる内の一頭を倒した。しかし、まだ王竜は五頭もいる。仇敵(きゅうてき)エスカーの問題も解決していない。やることは山積みだ。


(だが、一歩進んだ)


 大きな一歩だ。これで世界が動くのは間違いない。


 これから竜達がどう動くのか予想がつかない。ただ一つ言えるのは、身を隠さなければ殺されてしまうことは間違いないだろう。休んでいる暇はない。


 リンドウは(きし)む体に鞭を打ち、コバコと共に“南西のアマゾ大森林”へ向かった。


 ——こうして、リンドウは誰も成し得なかった王竜討伐を見事達成し、竜勢力に大きな傷跡を残した。


 そして、その日を境に竜殺しのリザードマンの存在は大陸中に伝わり、リンドウは一躍(いちやく)時の竜——“世界の中心”となった。

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