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【完結】竜殺しのリザードマン 〜竜に支配された世界で自分だけ“竜殺し”の力を手に入れて“劣等竜リザードマン”になった男の逆襲物語〜  作者: 一終一(にのまえしゅういち)
第3章 帝王竜ファフニール編

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第91話 路傍の石

 コロの腹をファフニールの重力球が(つらぬ)いた時より、少し時間が(さかのぼ)る。


 竜教教祖ウーノは中央塔の片隅で帝王竜ファフニールと劣等竜リザードマンの戦いを固唾(かたず)()んで見守っていた。


「何をしておるのだ……そんな雑魚竜、早く殺せ!」


 勝てそうで勝てない、負けそうで負けない、そんな状況が繰り返されており心臓に悪い。どうにか手助けして恩を売りたいと思う一方で、余計なことをして殺されるのは避けたいという思いが交互に去来(きょらい)する。


 賭け事をしている時のように、やきもきしているとファフニールの周りに重力槍が顕現(けんげん)した。どうやら状況が動きそうだ。


 両者がぶつかる直前、重力槍が全方位に飛ばされる。


「あ」


 その一文字を発する頃には槍がウーノをかすって中央塔に穴を開けた。


「あ、危なかった……」


 あと半歩でも横に移動していたら死んでいた。


「こ、ここは危険過ぎる。退避せねば」


 と思った矢先、バランスを悪くした中央塔の一部が崩壊(ほうかい)を始める。一瞬だけ(あせ)るが、竜衣(りゅうい)を下に着ていることを思い出し、足に力を込めて跳躍(ちょうやく)しようとする。


 しかし。


「か、体が動かん……!」


 肩を見ると、祭服(さいふく)の下に着ていた竜衣に傷。重力槍がかすった時に欠損(けっそん)していた。


 竜衣は、繊細で(わず)かな傷でも効果が発揮できなくなったりする。でっぷりと太ったウーノの竜衣は伸びきっており、特に壊れやすかったのだ。


 竜の力を使えないウーノなど、ただの肉団子。壊れゆく足場を芋虫のように()っていくしかない。


「う、嘘だ、私がこんなところで死ぬはずが……!」


 いつだって得意の話術と死に対する嗅覚で死線をくぐり抜けて今の地位まで上り詰めた。今回も変わらない。そう思ったのに。


「ああ、神よ! 私に救いを与え(たま)え! 女神の血を分け与え給えぇぇ!」


 その言葉を否定するように無情にも人骨の瓦礫(がれき)の下敷きとなった。



 右腕と尻尾が無くなったリンドウは、塔を駆け降り、腹に大穴の空いたコロの側に近寄る。


『コロ!』


 リンドウが、必死に信号を飛ばすが、コロの目の焦点(しょうてん)は合っていなかった。


『りん、どう……だべか』


 コロの目はかすみ、意識が遠のく。その最中、数々の思い出がよみがえる。楽園で過ごした日々、リンドウとの出会い、ドゥエとの会話、ニーン達との交流。


 最も印象的な出来事は“名前”をつけてくれたことだ。


 有象無象(うぞうむぞう)路傍(ろぼう)の石だった自分にリンドウが名前という色を付けてくれた。他者にとって取るに足らないことであろうそれも、コロにはかけがえのない出来事だ。


 ——ごはん、ありがとね。


 ああ、そうだったのだ。


 コロを助けた彼女、ニーンがなぜ感謝の言葉を述べたのか、今になってようやく理解した。死を受け入れることで煩悩(ぼんのう)も未来への(うれ)いも消え去り、感謝の念だけが残ったのだ。


 だから彼女は最期に“ありがとう”と伝えた。


 ならば自分も述べることはひとつ。


『リンドウ、なまえ……ありがとだべ』


 思いが言葉となり表出(ひょうしゅつ)した。


 そして満足したのか、コロの瞳から光が消えた。


(…………)


 リンドウは、ほんの一握りだけ心が揺らめいた。コロはいずれ殺すつもりだった。だから殺されたところで怒り、悲しむことはない。しかし。


『俺の獲物(えもの)を奪った罪は(つぐな)ってもらうぞ』


 見上げた先、ファフニールは裂かれた腹を押さえながら、リンドウを見下して笑っていた。


『まさかここまで我を追い詰めるとは、貴様を甘く見ていたようだ。だが、もう遊びは終わりだ』


 最後の衛竜キンクーブラの浮遊魔法により、宙に浮いた瓦礫(がれき)に乗るファフニールは、もう降りてくることはないだろう。矜持(きょうじ)などと言っている場合ではないと(さと)ったのだ。


 さらにコロの操っていた眷属とコウモリ達は、命令者を失ったことで戸惑い、分散していた。


 こうなるとリンドウは、何もしなければ一方的に虐殺(ぎゃくさつ)されるのみ。


 だが、まだ最後の策が残っている。条件は(そろ)った。衛竜が帝王竜を助けるこの場面、これを待っていた。


 ファフニールがキンクーブラの真下に位置したその瞬間。


(やれ! コバコ!)


 リンドウの喉元が(ふく)らむと同時、甲高い音が辺りに響いた。


 能力【鳴嚢(めいのう)】。


 ——カエルの雄は喉の袋を(ふく)らませて大きな音を鳴らすことが出来る——


 音の合図とともにキンクーブラの腹が突如(とつじょ)として破裂した。


『な、なに!?』


 慌てるファフニールにリンドウの血を(たずさ)えたコバコが襲いかかる。


(良いぞコバコ、作戦通りだ)


 キンクーブラは毒味をする時、必ず右腕を食べる。それを利用してコロの作った眷属竜の右腕に隙間を作り、コバコを忍ばせておくことで体内に潜入させたのだ。


 ファフニール本体を直接狙わなかったのは、毒殺を警戒しているのでコバコが危険過ぎると考えたからだ。


 それに対してキンクーブラは、蛇型なのもあってか、あまり咀嚼(そしゃく)せずに飲み込んでおり、毒に関して警戒していないように見えた。


 それだけなら、もう一頭の毒味役ハジカミイヲも無関心だったため、こちらにコバコを仕込んでも良かった。


 だが、決定付けたのは、キンクーブラが“浮遊魔法”を使うこと。その後の展開次第では、魔法でファフニールを助ける可能性が高かった。


 竜にとって空は安全地帯。もし、翼が()がれるなどして逃げ場がなくなったら空へ救助するのが自然な流れだろう。


 そして、浮遊魔法使いならば浮かしたものを監視、使用するためにそれらより高く飛ぶことは容易に想像できた。(ゆえ)に毒味役衛竜二頭の内、ハジカミイヲではなくキンクーブラを選んで忍ばせたのだ。


『黒い(つる)か、いや何者だ!?』


 焦るファフニール。踏ん張って飛ぼうにも、浮遊魔法効果の切れた瓦礫(がれき)は落下し続けており、上手く力を伝えられない。


 コバコの凶刃(きょうじん)が迫る。避け切れない。


「ガァァ!」


 リザードマンの血のついたコバコの渾身(こんしん)の一撃により、残り一枚しかなかった翼の左半分がすべて切り落とされた。追撃でファフニールの頭を潰しにかかる。


『ぐぅ! させぬ!』


 しかし、そう何もかも上手く行くわけもなく、体を(ひね)られて回避された。


 ギリギリ致命傷を避けた帝王竜だったが、翼が半分ないため地面に叩きつけられる。自らが作った中央塔に落ちたファフニールの見上げた先、リンドウが黄金の瞳に闘志を宿して見下ろしていた。


『我に土を舐めさせるとは……タダでは済まさんぞ』


『さっさと立て。終わらせてやる』


 戦いは最終局面へ。

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