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【完結】竜殺しのリザードマン 〜竜に支配された世界で自分だけ“竜殺し”の力を手に入れて“劣等竜リザードマン”になった男の逆襲物語〜  作者: 一終一(にのまえしゅういち)
第3章 帝王竜ファフニール編

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第84話 長亀爬竜レザバク戦

 長亀(おさがめ)爬竜レザバクは、ファフニール帝国北東の岩山の下にある大衆浴場で混合竜襲撃に備えていた。


『む、像が汚れておる』


 潔癖(けっぺき)である彼は、浴場中心にある女神像の汚れが気になり、竜教から貰った手拭(てぬぐ)いで急いで()き取る。


『これでよしじゃのぅ……さて、ゴライアス達は上手くやっておれば良いが』


 北西の楽園に差し向けた部下の動向が気になる。相手は衛竜である殺鰐(さつがく)爬竜ギュスタブを殺した手練(てだ)れだ。恐らくゴライアス達では勝てないと思っていた。


 それなら自分で行くべきだったのだが、お気に入りであるここを混合竜から守らねばならないため無理だった。


『仕方ない仕方ない。ホッホッホ』


 ヒゲをさすり、勝手に納得するレザバク。その様子を密かに見つめる視線があった。混合竜に(ふん)したリンドウだ。


(やはりここに来ていたか)


 紅鷲(あかわし)団団員ダイニンからレザバクは潔癖な性格だと聞いていた。潔癖となれば自分の寝床や日課(ルーティーン)を他者に荒らされるのを嫌う。


 体の洗い場となればなおさらだろう。そのため、この場所を混合竜に破壊させないよう(みずか)ら防衛に当たると考えた。さらには王竜のいない今、物事の決定権はレザバク自身にあり、ここへ優先的に来る可能性は高かった。


 リンドウは、読み通りの展開に安堵(あんど)する。胸を()で下ろした、その時。遠くからドンッ、と爆発音がした。


(……コバコの準備が整ったか)


 今のは魔臓(まぞう)爆弾の音だ。


 コバコが超圧縮爆弾を手に入れたのは、中央塔付近からした爆破の合図を聞いて知っていた。それとはまた別の計画が順調に進んだという(しら)せだ。


 リンドウは、(おもむろ)にレザバクの前へ姿を現した。一瞥(いちべつ)されるが、さして驚きもせず信号を飛ばしてきた。


『お主は、混合竜か?』


 少し考えるレザバク。


『いや、あの時の小竜か』


 色や鱗の形などは違うが、輪郭(りんかく)がどことなく似ていたのを気取(けど)る。


『ああ、湯を浴びていいか?』


『断る。お主がギュスタブを殺したんじゃろ?』


『だとしたらどうする?』


 リンドウは、足先に力を入れて石畳にヒビを入れた。それを見てレザバクの眉根(まゆね)がピクリと動く。


『わしの聖域を荒らすな』


 静かな怒りを向ける。最後通牒(つうちょう)だ。次に何かすれば即座に殺しに来るだろう。


 一触即発の雰囲気。だがしかし、それを打ち破るかのごとく発光と轟音(ごうおん)


『なんじゃ!?』


 レザバクは、予想だにしない出来事に驚く。


 断続的に続く地響きで建物全体が(きし)む。やがて、壁全体ににヒビが入り、ついに崩壊した。土砂の混じった汚水(おすい)が大衆浴場へ流れ込む。


『アァァ! き、汚いぃ!』


 潔癖のレザバクには耐えられない光景だ。発狂(はっきょう)したまま、リンドウと共に大洪水に飲み込まれた。


 ()えず流れ続ける水中で両者が対峙(たいじ)する。


『お主の仕業かぁぁぁ……!』


『ああ、ひと泳ぎしたくてな』


 すぐ北側にある滝の流れる(がけ)が崩壊していた。そこから水が流れ込んだのだ。


『長年掛けて作ったわしの聖域を壊しおって……生きては帰さんぞ』


 レザバクが青筋を立てながら信号を飛ばした。


『それはこちらの台詞だ。お前はここで落ちろ』


 リンドウは体を波打たせて泳ぎ、レザバクに接近、爪を振り下ろした。それを難なく受け止める敵。


『ほざけ、水中なら勝てるとでも思うたか?』


 亀型なだけあって水での戦闘は苦手ではないのだ。


(計画通りだ)


 飛べないリンドウにとって地対空が最も嫌う展開。特に衛竜以上の竜に飛ばれたらどうしようもない。なので水中戦に持ち込むべく、コバコに先に爆弾を手に入れたら崖を破壊するよう頼んでおいたのだ。


 相手は亀型なのでそのまま水中戦に乗ってくる可能性は高かった。さらにリンドウは偽の翼を付けているため敵は飛べると思い込んでいるのも良い思考誘導になった。


 ここまでは順調。あとは勝つだけ。


『まさか止められるとはな。亀の癖にやるじゃないか』


『ギュスタブとは違うでのぅ。水での戦い、後悔したか? 今さら泣いても許さんぞい』


 くだらない(楽しい)会話をしながらもリンドウは、思考する。


 水中戦で大事なのは、水の流れを読むこと。


 リンドウは、上流を取っていた。こちら側なら水流で加速して攻撃できる。使用できる力が制限されている中、地形の有利は大きい。決めるなら一撃だ。


 戦術を整え終わり、一切の逡巡(しゅんじゅん)なく突撃する。


『ふん、(いのしし)が』


 レザバクの腹が(ふく)れたかと思うと勢いよくブレスが吐き出された。


 竜巻のような水流ブレスがリンドウに迫る。それをウミイグアナのように優雅(ゆうが)に泳いで回避する。


 敵は、手をかざして固有能力“(はい)魔法”を使用した。水が腐り、ギリギリ見えていた視界を完全に(さえぎ)る。だが。


(とれる!)


 視界を(ふさ)がれたとて、感知に優れるリンドウは別の力で敵を(とら)えていた。鉤爪(かぎづめ)がレザバクの体を(つらぬ)く。そして血を注入しようとした刹那(せつな)


『甘いわ!』


 敵は“脱皮”した。皮の残骸(ざんがい)を盾に防いだのである。


『ふぅ、危なかったのぅ』


 少し出血をしつつも、距離を取るレザバク。位置が入れ替わり、上流へ。


『こちら側は良いのぅ』


 レザバクは、上流から流れてくる木切れなどが甲羅(こうら)に当たっても気にしない。


慢心(まんしん)は身を滅ぼすぞ』


 不利な状況に置かれたリンドウは、敵の背後に“あるもの”が流れてくるのを感知していた。


(ここだ!)


 逆流に若干体が重く感じるも、全力でレザバクに迫る。


『遅い、遅いのぅ!』


 水流ブレスが放たれて体を切られる。


(ちっ、(もろ)い体だ)


 それでも少しずつ近付いていく。ついに後、数歩分の距離まで近付いた時。


『後ろに気をつけたほうがいいぞ』


 と、リンドウが信号を飛ばした。


 レザバクは、くだらない手を、と思ったが、一応視線を背後に送ると——大衆浴場にあった女神像の一部が流れてきていた。


『な』


 自分が大切に磨いて来た女神像に、ほんの一瞬だけ気を取られる。が、そんな場合ではないとすぐに正面を向いた。しかし。


『……いないじゃと!?』


 上下左右どこを見ても存在しない。(あせ)るレザバク。


 (くだん)の男リンドウは——“水上”にいた。敵が目を離した一瞬に水上へ飛び出たのだ。そして足指の間に水かきを出して水面を走る。


 能力【水上歩法】。


 ——バシリスクは、水面を走ることができる——


 助走をつけなくても走れるようになったリンドウは、高速で駆け抜ける。そして感知により獲物の位置を正確に(つか)み、真上から水中の敵へ強襲(きょうしゅう)する。


 レザバクは、水音でリンドウに気付く。


()めるな!』


 (あせ)りはあったもののそこは衛竜、簡単にはやられまいと上にブレスを放とうとする。


 だが、突如(とつじょ)として背中に衝撃が走った。


『ぐっ!』


 気泡(きほう)を吐き出すレザバク。見ると背中から腹まで黒い棒切れが(つらぬ)いていた。その黒い棒切れは——コバコだった。


 崖を爆破した後、洪水に乗ってここまで来たのだ。それを視認して知っていたリンドウは、コバコなら上手くやると信じて真上に注意を引いたのだ。


 そして敵には、背中に甲羅があることで絶対安全という慢心もあった。二つの条件が上手く重なり、良い結果をもたらしたのだ。


『な、これは、どういう……!』


 レザバクは、何が起きたのか分からず反射的に棒を引き抜こうとする。しかし、そのコバコに気を取られている間にリンドウが接近して首に()み付いた。


『があああああああ!!』


 容赦なく歯の間から血を注ぎ込む。


 ——コモドオオトカゲは、歯の間に毒管を持ち、噛んだ時に毒を注入する——


 その応用で血を注入している。ただ、竜全般が眷属作りのために使用出来るので、ほぼ無意味な特性だ。


『う、が』


 レザバクの瞳から光が消える。そして、首周りが溶け、やがて千切れた。


 リンドウは、分離した敵の頭部と体が洪水に流されていくのを見届け、コバコと勝利を分かち合ってその場を後にした。



 中央塔で(くつろ)いでいた衛竜の猛毒蛇(もうどくじゃ)爬竜キンクーブラは、突然の大爆音に飛び起きた。音のした北東方角を望むと、崖が壊れ、大洪水が起きていた。


『何が起きたのです?』


 近くにいるもう一頭の衛竜、山椒(さんしょう)爬竜ハジカミイヲに(たず)ねる。


『わからヌ。突然崖が爆発しタ』


 キンクーブラは、ふと、そちらにはレザバクお気に入りの大浴場があったことを思い出した。


『……ここは任せます』


 嫌な予感がして、塔をハジカミイヲに任せて、北東へ。


 すぐに到着したキンクーブラは、惨状(さんじょう)に顔を(ゆが)めながら浮遊魔法で水を浮かせた。驚異(きょうい)的な魔力で空に湖が出来る。そして、汚泥にまみれた地上を観察する。


『っ……!』


 目に付いたのは頭部が千切れたレザバクの死骸(しがい)


『ギュスタブに続いてレザバクまで……一体何が起きているというのでしょう……?』


 得体の知れない何かが帝国を荒らしている。怖いもの知らずの竜でさえ怖気(おぞけ)が走った。


 キンクーブラは、なるべく高く飛び、土砂や洪水の処理をおこなった。


 そのすぐ後だった。


 “南西のアマゾ大森林で翼のない竜が樹王竜の配下を半壊させた”という情報が入ったのは。

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