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【完結】竜殺しのリザードマン 〜竜に支配された世界で自分だけ“竜殺し”の力を手に入れて“劣等竜リザードマン”になった男の逆襲物語〜  作者: 一終一(にのまえしゅういち)
第3章 帝王竜ファフニール編

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第83話 ゴライアス、コモドドラ、ウパルパ戦

『あわわわわわ、大変だべ』


 帝国北西の隠れ家に居たコロは、大きな物音がしたので外に出ていた。見上げた先には()げ茶色で巨大なカエル型の竜が(たたず)んでいた。


 ——大蛙(だいあ)爬竜ゴライアス。徒竜。自分や触れたものを大きくする巨大化魔法を使う——


 さらに左右の肩にはそれぞれ一頭ずつ竜が座っていた。


 ——(しょう)爬竜コモドドラ。徒竜。深緑の鱗を持ち、トカゲの子供っぽい見た目が特徴。自分や触れたものを小さくする微小化魔法を使う——


 ——(よう)爬竜ウパルパ。徒竜。桃色の体で幼いトカゲ風なのが特徴。見たり触れたりしたものに擬似生命を与え、幼竜化させる幼竜魔法を使う——


 大蛙(だいあ)爬竜ゴライアスは、地団駄を踏み地下を破壊して回っていた。


『あぁ、めんどうだなぁ。オデも混合竜殺してぇ』


 三頭の竜は、長亀(おさがめ)爬竜レザバクの命令でまだ破壊していなかった北西の楽園を潰しに来ていた。


『まーまーいーじゃん。これもアリの巣掘るみたいで楽しいぞー』


 と、(よう)爬竜ウパルパ。


『わ〜い、ありのすありのす! しね〜!』


 と、(しょう)爬竜コモドドラ。


 空いた穴に幼爬竜ウパルパの魔法で作った幼竜を複数体突撃させる。刹那(せつな)、ゴライアスの背後の影にいた幼竜が突然出現した壁に吹き飛ばされた。


『あ! 敵かな敵かな!?』


 コモドドラが目を輝かせて一悶着(ひともんちゃく)あった場所へ目を向ける。他の二頭も同じく。


『あれぇ? 居ないねぇ〜?』


 ゴライアスが足で探るが、獲物は出て来ない。


 コロはその光景を見て、ホッと胸を()で下ろしていた。


『まぁ、こういうのって——逆側に居たりするんだよねぇ!』


 首だけを急に真後ろに向けるウパルパ。


 サッと壁裏に隠れるコロ。


『か、(かん)良すぎだべぇぇ!』


 出来れば向こう側に行って欲しいと、コロが逆側に居る敵にちょっかいを出したが裏目に出てしまった。


『ゴラっち、あっち側潰してみてー』


『うぃ』


 ゴライアスは、幼爬竜ウパルパが指差したコロのいる方へ、のっしのっしと歩き出した。


 コロがもはや戦うしかないと覚悟を決めた瞬間——魔法体の幼竜の首が飛ぶ。


 斬首したのは、混合竜に(ふん)したリンドウだった。さっきまでと同じく左半身が深緑色、右半身は紫水晶のような鱗、瞳も右だけ紫色になったままだ。


『なんだぁ? もう混合竜が来やがったのか』


『ふむ、容姿から察するに爬鉱(はこう)型のようだけど……(めずら)しいねー』


『なんでもいいよぉ〜早くころしちゃお?』


 コモドドラが手に握っていた小石をリンドウに投げる。それが直撃する直前、大岩に変わった。


(……くっ!)


 かろうじて回避。コモドドラは、岩にかけていた微小化魔法を解除して元に戻したのだ。


『ひゅーやるぅ!』


 そう言ったウパルパが腕を(かか)げると、先ほど投げられた大岩が薄桃色の竜に変化した。カメレオンのような長い舌を伸ばしてリンドウを捕縛(ほばく)にかかる。


(そんなことも出来るのか)


 感心しながら攻撃を爪で切り飛ばして着地。間を置かず、ゴライアスの足に切りかかる。だが、敵の体が消えるように収縮して空振りに終わる。


『おわわ、急に元に戻るなよー』


 山のような体が岩くらいに縮み、肩にいた二頭はバランスを崩していた。


(巨大化、小型化、擬似生命を与える魔法か)


 おおよそ敵の能力を把握したリンドウ。敵は割と連携も取れており、戦い慣れているのがわかる。


厄介(やっかい)だな。一頭殺せば一気に(くず)せるだろうが……)


 時間を掛ければ他の竜に見つかってしまう。かといってコロが見ているので竜殺しの血も使い辛い。またいつものように制限の中で戦わなければいけないことに内心頭を抱える。が、そう思いつつも敵を倒す策をしっかり()っていた。


(正面からは攻略に時間を要しそうだ。ならば)


 動き出したリンドウは、ゴライアスにより開けられた穴から地下の楽園に降りる。


『あ、ワザワザ下に降りるなんてバカだー!』

『しょせんはこんごうりゅ〜だね〜!』


 竜は翼があるので飛行して上を取り戦うのが常套(じょうとう)手段。それをせず、下に降りたため肩の二頭はリンドウを馬鹿にしたのだ。飛べないリザードマンは何にせよ下に行かざるを得ないので特に気にしない。


『死んじゃえー!』


 ウパルパが手をかざすと大量の幼竜が地下に降りる。リンドウは、その兵隊を容易になぎ倒していく。


『えい!』


 コモドドラが胸の前で手を叩くと、小さくなって潜んでいた複数の幼竜が元の大きさに戻りリンドウを襲う。


(面倒な)


 (あせ)ることなく(かわ)すが、数が増えればそうはいかなくなるだろう。リンドウは高速で移動し、急いで策を進める。


『ちょこまかとすんじゃねぇ!』


 ゴライアスが勢いよく地下に手を突っ込み、砂でも(すく)うように(まさぐ)る。


『お?』


 瓦礫(がれき)(すく)い上げて明るみになったそこを見ると、小刻みに震える何かがいた。


『そこかぁ!』


 ゴライアスが腕を叩き込む。手応えあり、と、手を引き上げて拳を見ると“蜘蛛(くも)型”の振動する何かが引っ付いていた。


 能力【尻尾変化・蜘蛛型】。


 ——スパイダーテイルドクサリヘビは、尻尾が蜘蛛のようになっており、それで獲物をおびき寄せる——


 その応用で尻尾の鱗の一部を蜘蛛に変化させたのだ。


 振動は【鱗振動】を用いたもので、巨樹(きょじゅ)竜バオバブ戦でも使ったカーペットバイパーの力の応用。体から離しても振動するように成長したのだ。


『なんだなんだぁ?』


 ゴライアス達が周囲を見ると、暗がりに光って振動する蜘蛛型の鱗がそこら中にあった。


 発光して見えるのは【体色変化】で蛍光色(けいこうしょく)にしたから。リンドウが、光茸竜鱗(ひかりたけりゅうりん)をヒントに作った色で、(ほたる)のような(あわ)い光を放つのだ。ちなみに蜘蛛の形にした意味はほぼない。そのまま三角形っぽいのでも良かった。()いて挙げるなら撹乱(かくらん)と尻尾変化の修行だ。


『ああーイライラするぅー!』

『ウパちゃん、なんとかしてよ〜!』


 光と音、ついでに蜘蛛型の形の鱗により情報量が多くなって(あせ)る三頭。連携を取れているといっても所詮(しょせん)は雑魚徒竜(とりゅう)。少し揺さぶってやればボロが出る。


『くそぉ、小賢(こざか)しいマネすんなぁ!』


 ゴライアスは(ごう)を煮やして一歩を踏み出した。瞬間、足場が(くず)れる。元々適当に踏み荒らし過ぎたせいで(もろ)くなっていた天井を、リンドウの鱗の振動により刺激を与えて破壊したのだ。


『あっ』


 ゴライアスは足を取られて転倒しかける。


『バカー!』

『うんこたれ〜!』


 肩の二頭は悪態(あくたい)をつきながら宙に放り出された。急いで羽ばたいて空中で体勢を整えるが、リンドウが(すき)を見逃すわけもなく。


 一瞬で距離を詰め、いつのまにか右手に持っていた小型の(あり)竜爆弾をコモドドラの口に押し込む。


『んぐっ!?』


 そのまま(あご)を蹴り上げると、爆弾は頭部ごと(はじ)け飛んだ。


(まず一匹)


 チビになられて逃げられると厄介(やっかい)な奴をまずは殺した。


『ああ! コモっちをよくもー!』


 体勢を整えたウパルパが手を(かか)げると幼竜が飛びかかる——ことはなかった。


『え、あれ?』


 幼竜は明後日の方向に右往左往とするだけでリンドウに攻撃しない。


(……コロか)


 広い視界の端で饅頭(まんじゅう)みたいな竜が手をかざして魔法を使っているのを(とら)える。


『くそっー! うごけぇぇー!』


 動揺するウパルパの首を容赦(ようしゃ)なく()ねる。


『ああぁ! コモくん、ウパくん!』


 ゴライアスは、肩付近の一悶着(ひともんちゃく)が終わる頃にようやく完全に転倒して地に手を付いた。


『許さんぞぉ!』


 そうは言ってももう遅い。リンドウが大口を開けて腹に噛み付くと、ワニのように【デスロール】を使って回転して食い破っていく。


「グォォォォォォ!」


 敵はあまりの激痛に思わず咆哮(ほうこう)を上げる。そして叫び終わる頃には大穴が空いて絶命していた。


 事が終わり、コロの元へ降り立つ。


『リンドウ、だべよな?』


 さすがにずっと一緒に居るコロには、付け焼き刃の変身だとバレていた。


『さっきは助かった』


『いえいえ、だべ』


 コロは、嬉しそうに口角を上げて喜ぶ。竜なので可愛くないが。


 コロが何かを思い付いたように手を挙げる。


『ドゥエが言ってたべ。上手く行った時は“はいたっち”をするって』


 リンドウは、目を丸くし溜息を吐く。


(くだらないことを教えるな)


 と思いつつも、きっちりハイタッチした。



 とある紅鷲(あかわし)団団員が中央塔の地下にいた。


「ハァハァ……何とかここまでこれたぞ」


 団長の命令で圧縮した蟻蟲竜の魔臓(まぞう)を持ち込んでいた。あとは、ここに仕掛けて脱出するだけ。


「団長すみません、自分も死にます」


 彼には自殺願望があった。だが、自殺すると兵団に迷惑が掛かるので、どうにか事故に見せかけて名誉の死を選べないかずっと考えていたのだ。


 じゃあ、なぜ兵士になったのかというと、自殺は体裁(ていさい)が悪く、家族に迷惑が掛かると思ったので、まだマシそうな戦死にしようと考えたのが理由だ。


 だが皮肉なことに死を恐れない人間というのは強く、剣の技術がグングンと伸びていき団長に名前を覚えられるくらい出世してしまったのだ。


 とはいえそれも今日で終わり。


「ようやく死ねる。さらば地獄!」


 しかし、背囊(はいのう)を探るも爆弾が見当たらない。


「えっ、あれ?」


 辺りを見回すが無い。全身から汗が()き出す。慌てていると、視界の端に動く何かを発見する。通路の先、黒いゴキブリのような何かがそれを持っていた。黒い触手のような腕で爆弾をお手玉しながら団員の様子を(うかが)っている。


「な、な、返せぇぇぇ!」


 捕まえようと一歩踏み出すが、()れた石畳に足を取られて転倒する。


 それを見て笑うような動作をしたゴキブリ——ではなくコバコは通路の奥へ消えていった。


「ああぁ! これじゃあ打ち首だぁ……いや、それもありか?」


 勝手に納得した男は、すぐに立ち直りルンルン気分で団長の元へ戻っていった。

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