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【完結】竜殺しのリザードマン 〜竜に支配された世界で自分だけ“竜殺し”の力を手に入れて“劣等竜リザードマン”になった男の逆襲物語〜  作者: 一終一(にのまえしゅういち)
第3章 帝王竜ファフニール編

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第81話 犯人捜し2・発見

「急げ!」


 聖女ドゥエ率いる竜教信者一行が(あわ)ただしく、とある男の元へ向かっていた。医務室の扉を勢いよく開く。そこには、竜教教祖ウーノにナイフを投げられて肩に傷を負わされた男がいた。


「な、何事でございましょう?」


貴殿(きでん)が通訳マタマタを殺したのは分かっていますぞ。大人しくすれば手荒なマネは致しませんぞ」


 男は驚いた顔をする。


「えぇ!? そんな訳ないですよぉ〜! 怪我(けが)してるのに勘弁してくださいよぉ〜!」


「言い訳は別室で伺うことにしますぞ」


「ひ、ひぇ〜!」


 うだうだと揉めている中、一番後ろにいたコロが振り返る。


『あれ? リンドウどこだべ?』



 神殿の廊下、リンドウはある男の前に立ちはだかった。


 肩をナイフで刺された男は犯人ではない。どうせ(にえ)になるとドゥエからコロ経由で聞いていたので、時間稼ぎのため一時的に犠牲として差し出したのだ。


「おや、竜様。何かご用ですか?」


 目の前の男は——竜教幹部の一人“トレ”だ。宿敵エスカーと会う前、楽園潰しの集団にいた人物だ。


 リンドウは、右腕の甲側を相手に見せる。すると、鱗に見る見るうちに人語が刻まれていく。【体色変化】の応用で字を書けるようになったのだ。


『初めにいっておく。俺は敵ではない』


「……何の話ですか?」


『お前がマタマタを殺したのは知っている』


「? 存じませんが」


『死体と同じ身長なのと、洗濯していた服からお前がやったことは明白だ』


 ここに来る前に訪れた洗濯場に置いていたトレの服には、わずかだが血の跡があったのだ。能力【臭気感知】で嗅いでみるとマタマタの血の匂いと一致したため確定的だ。


「そう言われましても……なんのことだか」


 平然としている。さすがにすぐにはボロを出さないようだ。だが、リンドウには嘘を見破る【蛇眼(じゃがん)】があり、一瞬の動揺から犯人だと分かっていた。


 しかし、ここには証拠がなく、認めない限り平行線だ。当然それを想定していたため、とっておきの切り札を切る。


『――ワッパを知っているか?』


 トレは、瞳にわずかだが動揺を見せる。ワッパとは、リンドウがガーラ大迷宮で助けた十一人の子供達の一人で黒髪くせ毛の少年だ。コバコが体を張って助けた相手でもある。


「……なぜそいつを知っている。何者だ」


 リンドウは、エスカーと会う前にトレと他の教徒が会話しているのを聞いた時、彼がワッパの関係者、というより父親ではないかと当たりをつけていたのだ。


『敵ではないことは確かだ。俺はそいつを助けた。お前と似た黒髪くせ毛でバカっぽい言動の奴だ』


 リンドウは、ワッパの身体的特徴をあげつらった。他にもワッパが話していた剣闘士ドレイクのジョークのことや、紅鷲団(あかわしだん)のことなどそれらしい情報を話した。


 すると、的を射たのかトレの顔に汗が垂れていた。


「まさか本当に? だとしたらその姿は……? 着ぐるみではないだろう?」


『簡単に言えば人の意識のある竜だ』


「そんなバカな……聞いたこともないぞ」


 トレは動揺を隠せない。


『時間がない。要点だけ話すぞ。俺の目的は帝王竜を倒すことだ。そのために今のうちに衛竜を始末しておきたい。お前の持っている情報を出来る限り教えてくれ』


「王竜を……!」


 口元を押さえ、考え込むトレ。やがて意を決して言葉を(つむ)ぐ。


「無茶だ、と言いたいが私も時間がないようだ。……これは賭けだ。キミを信じよう。私の本当の名は“ダイニン”。ワッパの父親でペルロシア王国所属の紅鷲団ブラッドイーグルの団員だ。竜教教徒になりすましてここに潜入していた。目的は竜の生態調査、それと――衛竜または王竜の討伐」


『調査はともかく、討伐は無理だ。人の手にはあまり過ぎる』


「当然そう思うだろうな。だがやるしかないのさ。軍の運用や竜器の製造ってのは金が掛かる。結果の出せない兵団に割く予算はないんだよ」


 竜と戦い続けるにも何かしらの成果が必要というわけだ。人同士揉めている場合ではないのに。


 リンドウは露骨に顔を(ゆが)める。


「まぁそう嫌な顔をするなよ。無策で挑むわけじゃない。“コイツ”を使う」


 ダイニンは(ふところ)から“竜の魔臓(まぞう)”を取り出した。


「大陸北東には蟲竜(むしりゅう)がいてな。その内の一頭、“蟻蟲(ありむし)竜の魔臓”だ。コイツは強い刺激が加わると大爆発を起こす。小中大三種の威力がある。マタマタの顔を焼いたのもこれの“小”だ。コイツを所持していたのを見つかって、止むを得ずその場で殺した。杜撰(ずさん)な処理のせいでキミに見つかってしまったがな」


 ダイニンは(せき)を一つした。


「話が()れたな。コイツ単体では竜退治は難しいだろう。しかし、特殊技術により超圧縮したものなら威力は普通の千倍。王竜の鱗を焼けることも実証済みだ」


 どうなるか未知数過ぎる。使用して倒せるとは思えないし、巣だけ破壊してしまったらどこかへ逃げられる可能性も高い。


 今は、時間を掛ければ掛けるほどリザードマンの正体が判明する確率が高まる。逃げられれば次はない。どうにか阻止しなければならない。


『危険過ぎる。俺に渡せ』


「悪いが私は持っていない。コイツは別のものだ。本物はもうすぐ紅鷲団の誰かが持ってくるはずだ」


『誰が持っている』


「分からない。機密保持のため団長と所持する団員にしか伝えられていないんだ」


『そんな危険物、竜の巣で保管は難しいだろう。誰かが持ち込んで即時使用する気か』


「ああ、作戦はもう始まっている。作戦開始の合図は“衛竜または王竜が紅鷲団狩りに出立(しゅったつ)した時”だ。そして団員達が来る場所は——ファフニール帝国北側すべてだ」



 ファフニール帝国の真北。長亀(おさがめ)爬竜レザバクは、右腕のない竜を皆殺しにしたところだった。


『ふむ、手応えがなさ過ぎるのぅ。こやつらがギュスタブをやれたとは思えん。当てが外れたか』


 というよりもこうなるよう仕向けられたとしか思えない。そこであることを思い出す。


『……そういえば楽園潰しに参加させろと言ってきた小型の竜はどうした?』


 近くにいた子飼いの竜が答える。


『さぁ……北西に向かったのは見ましたが』


『北西……のぅ』


 その時。音蛇(おとじゃ)爬竜ガラガラから広域信号が飛んでくる。


『警告! 警告! 北側一帯より混合竜の大群出現! 至急対処に当たられたし!』


 レザバクは、目まぐるしく変わる事態に若干の(あせ)りを覗かせたのだった。

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