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【完結】竜殺しのリザードマン 〜竜に支配された世界で自分だけ“竜殺し”の力を手に入れて“劣等竜リザードマン”になった男の逆襲物語〜  作者: 一終一(にのまえしゅういち)
第3章 帝王竜ファフニール編

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第79話 コロの人間観察2・食事

 長亀(おさがめ)爬竜レザバクは、同じ衛竜のギュスタブが死んだと聞き、急いで現場へ駆けつけた。崩壊した楽園には、色艶(いろつや)を失った赤黒い首なし死体があった。


『……まさか、ギュスタブがやられるとはのぅ。目撃者はおらんのかの?』


『複数の仲間が赤い角ばった鱗を持つ人間大の竜を見たとのことです』


 ふむ、と白いアゴヒゲをさするレザバク。死体の(かたわ)らには知らない竜の右腕の残骸(ざんがい)があった。


『右腕のない竜を探して連れてくるのじゃ。体色は無視してええ。赤という目立つ色なのが引っかかるからのぅ。おそらく体の色を変えられるはずじゃ。抵抗するなら殺して構わん』


『了解しました』


 数十頭の徒竜と眷属竜が一斉に散開する。竜教信者も追従するように去っていった。


『ファフニール様が戻る前に解決したいのぅ』


 レザバクに焦りはなかった。衛竜が一頭やられたとはいえ、彼にとっては盤上の駒が一つ減ったに過ぎない。下手に狼狽(うろた)え、(こう)を焦れば敵の思う壺。


 それにレザバクは潔癖なところがあり、ガサツなギュスタブが好きではなかった。ゆえに死んでくれてむしろ喜ばしいとさえ思えたのだ。


 それから一刻。機嫌の良かったレザバクは一転、眼前の光景に頭を抱えていた。


『……うぅむ。敵は()れ者ではないようじゃのぅ』


 視線の先には大量の右腕がない竜がいた。


『レザバク様、この腕は赤い鱗の竜にやられました』

『えっ? 俺は黄色の竜だったぞ』

『自分が見たのは青でしたが』


 錯綜(さくそう)する情報。レザバクは得体の知れない敵に少しだけ背筋の凍る感覚を覚えた。



 リンドウはギュスタブを倒した後、入り組んだ地下水道を使い、神出鬼没(しんしゅつきぼつ)に竜の右腕を狩り取って回った。


 敵が右腕を手掛かりに探すことは容易に想像できたからだ。というより、そうなるように仕向けたのである。


 当の本人、リンドウの腕はきちんと存在していた。再生したのではなく、ギュスタブに食わせたのは脱皮した皮に血を混ぜたものだったのだ。噛まれる瞬間に、部位脱皮するという離れ(わざ)をやってのけたのである。


 その後、逃亡時に布を被って右腕が見えないようにしていたため、目撃した竜は腕があるか分からなかったはずだ。つまり、腕がなくて捕まることはない。これでしばらくはレザバクの動きを止められるだろう。


(今の内に通訳殺しの犯人捜しだな)


 ドラテオン神殿で通訳の葉亀(はがめ)爬竜マタマタが殺された事件のことだ。こちらも面倒が起こる前に解決しなければならない。


 リンドウは一度、コロ達のいる北西の隠れ家に戻った。立て掛けただけの汚い扉を開くと、コロが人間達に食事を与えていた。


『ほぅら、ご飯だべよー』


 (おり)の中に生肉を放り込んだ。


 一瞬驚いた女だったが、恐る恐る近付いて肉をつまみ上げる。男は後ろで慌てていた。


「おい、気を付けろ……! 毒だ。血が混ぜられているに違いない!」


「そんなことしなくても、直接噛めばいいんだから、違うと、思うよ。それより生なの、困るね」


 その会話を聞いていたリンドウは、ため息をこぼし、コロに向かって信号を飛ばす。


『人間は基本的に生で食べないぞ。煮たり焼いたりしないと体調を崩して最悪死ぬ』


『むぅ、不便だべなぁ。毒の効かない竜とは大違いだべ』


『仕方ないだろう。人は(もろ)い。爪で引っ掻くだけで死んでしまうくらいにな。……ところで魔法で肉を調理できないか?』


『ムッフッフッ、任せるべ。オイラのブレスなら簡単に丸焦げにできるべ』


『いや、焦がすな。程良く、じっくり焼け』


『はぁ……リンドウ。オイラがそんな器用なこと出来ると思うべ?』


 渾身のしたり顔。不器用を(ほこ)るな。


 ともかく、物は試しで料理してみることになった。


『いくべよ、いくべよー! ひっ、ひっ、ふぅー!』


 骨の串に刺した生肉に向けて()き火くらいの大きさの火を浴びせた。一瞬、地下水道を明るく照らし、出来上がったものは。


丸焦げ(完璧)だべな』


 帰れ。と、リンドウが心の内で(とな)えた。


 (にら)まれたコロは、しょんぼりして失敗作を眷属であるネズミ型の“チューボー”に食べさせた。


「ヂューヂュー!」


『……おお! 美味いべか! そうだべそうだべ! リンドウと人間の感覚がおかしいんだべな!』


 人と竜。一生食が合わないな、と(あき)れ顔になるリンドウであった。


 その後、幾度か試行錯誤(さくご)してちょうど良く焦げ目の付いた肉が出来上がった。それを骨の皿に乗せて水袋と共に(おり)へ差し入れる。


 人間二人は、香ばしい匂いに鼻腔(びこう)をくすぐられ、(つば)をゴクリと飲み込んだ。


「……ふん、俺は(だま)されないぞ」


「じゃあ、私が先に、食べるね」


「お、おいよせ!」


 男の忠告も聞かず、女は骨の串に刺した肉に噛み付いた。


「うん、おいしい。塩だけだと微妙かなと思ったけど、お腹空いてるからかな、おいしい。空腹は最高の調味料、だね」


 優しく微笑む女に、男はドキリとした。


「ふ、ふん。今に竜に変貌(へんぼう)するぞ。あーあ、終わったな。やーい、トカゲ女ー!」


 男は顔を背けて虚勢(きょせい)を張るが、肉の焼ける(かんば)しい香りに、腹が鳴った。


「おにく、私だけじゃ大き過ぎるし、食べるの手伝って欲しいな」


 男はその言葉に目を輝かせる。


「し、仕方ねぇなぁ! これだから女はよぉ〜!」


 とか言って、めちゃくちゃ嬉しそうであった。急いで隣に座ると、(あふ)れる唾を飲み込み、肉を頬張る。


「う、うめぇよぉぉ!」


 男は瞳を(うる)ませて懸命(けんめい)に肉にかぶりついた。


 コロは、達観した仙人のように温厚な笑顔で満足気に見守っていた。


『なぁ、リンドウ。いつ人間繁殖するべ? ご飯も食べたし、準備万端じゃないべ? ドゥエにも聞いたべが、顔を真っ赤にするばかりで教えてくれなかったべ』


 やれやれ、と、リンドウは肩を(すく)めて次の助言を授ける。


『暖かい寝床を用意したらどうだ? 人間は、主に寝具の上で繁殖するらしい。人間は社会的動物であり、体裁(ていさい)や人目を気にしてしまうようだ。だから檻を拡張し、さらに布を被せて外部からの視界を(さえぎ)って、安心できる空間を提供してみるのが良さそうだぞ』


 いかにもらしい言葉を並べ立てた。コロが目を輝かせる。


『す、スゴイベ! さすが歩く人間生き字引(じびき)だべ!』


 チョロい。


『ところでコロ。どうやって竜教の奴らから二人を隠したんだ?』


 楽園潰しの話だ。竜教信者達は地下水道の地図を持っていたはずで容易には隠蔽(いんぺい)できないだろう。


『オイラの魔法、壁を作る力を使ったべ』


 コロが近くの壁に触ると発光して、壁と同じ色の突起(とっき)が生えてきた。


『これで道を(ふさ)いだり、作ったりしたべ』


『便利な魔法だな』


『だべ。他にも日傘や盾にしたり出来るべよ』


 魔法が知れたのは大きい。これでいつでも殺せる。と、リンドウは物騒なことを思った。


『話は変わるが、手伝って欲しいことがある。通訳殺しの犯人捜査だ』


『危険だべ。おそらく相手は相当な手練れだべよ。殺されるべ』


『ああ、だが突き止めないと人間が食われてしまうかも知れないぞ』


『よし、やるべ!』


 チョロくて、早くて、助かる。

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