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【完結】竜殺しのリザードマン 〜竜に支配された世界で自分だけ“竜殺し”の力を手に入れて“劣等竜リザードマン”になった男の逆襲物語〜  作者: 一終一(にのまえしゅういち)
第3章 帝王竜ファフニール編

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第78話 殺鰐爬竜ギュスタブ戦・初見殺し

 リンドウは、宿敵エスカーと別れた後、北側で楽園潰しを行なっていた。


「グギィッ!」


 地下から出て来た竜を一撃で殺していく。眷属竜も徒竜も彼の前では、虫ケラと等しい。ここまで何度も激闘を勝ち抜いて来たのだ。当然と言える。


 最初はぎこちなかったリザードマンの体もすっかり馴染み、人間の頃の癖は完全に抜けていた。両爬(りょうは)の技も基本的なものは全て習得し、応用の段階に移行している。


 王竜を倒すためのピースは確実に(そろ)いつつあった。策も(おぼろ)げながら見えている。


 ちなみに、空気と化した、というより鎧の一部と化した謎生物コバコにも役割がある。とても重要でコバコ以外適任者はいない。


 なので、それまでは(ふところ)でサボって——(いな)、英気を養って貰う。


(珍しく静かだな)


 リンドウは、相棒が余りに大人しいので気まぐれに鎧の胸を叩いてみた。


 返事は返って——


『うぃー』


 来た。


 もちろん喋ることも信号を使うことも出来ないので、触手で空中に文字を書いての返答だ。


 この後すぐにコバコの手が必要になるので、ついでにいくつか打ち合わせをした。事を終えると、イモムシのように寝床に戻っていく。


 穀潰(ごくつぶ)しみたいだな、という言葉は辛うじて()み込んだ。この後に支障が出そうだからである。


(それにしても効率的で助かるな)


 殺したばかりの竜の死体を見下ろす。


 楽園潰しのおかげで、それを建前に竜を合法的に殺せる上、長亀(おさがめ)爬竜レザバクの信頼を得ることもできて一石二鳥だ。


 レザバクは、恐らく帝王竜の最も信頼する右腕であり頭脳(ブレーン)。楽園潰しを主導している辺り間違いない。


 知恵者は減らしておかなければ、こちらの(はかりごと)を看破されたり、防衛策を練られてしまう。そのため、王竜のいない今のうちに始末しておきたい。


 だが、その前にもう一頭の衛竜、殺鰐(さつがく)爬竜ギュスタブを殺しておくつもりだ。コロが言うには、“殺しを好む竜”だそうだ。力を持ちながら合理的行動より自らの欲望を満たす選択をとる奴は、後に面倒になる可能性が高い。


(奴を殺るとしたら真北の一番広い楽園だな)


 そこは元々ルーマ帝国皇帝の城があった場所で地下には霊廟(れいびょう)と、もしもの時に脱出するための地下水道に(つな)がる抜け道がある。


 現皇帝もそこを使って竜から逃れたという。入り組んでいて、もしもの時ギュスタブや他の竜から逃げるにも最適だ。


 当の敵は、北側一帯の右側から左側に向かって順番に楽園を潰している。時間的にも真北で迎え撃つのはちょうどいい。


 リンドウは、駆け足で目的地へ向かった。



 赤い鱗に包まれた巨躯(きょく)の衛竜ギュスタブは帝国北側で暴れていた。


『グッグッグッ! 死ねぇ!』


『ひ、たすけ——』

『うわあああ!』


 大木のような尻尾をなぎ払い、数頭の竜を肉塊(にくかい)に変えた。間髪(かんはつ)()れず、金剛のごとき堅固な爪で首を()いでいく。


『オラオラオラァ! つまんねぇぞぉ!』


 血に染まる大地。あざ笑う悪魔。悪を具現化したような竜によって楽園のもの達は地獄に()ちていく。


『こ、これは』

『どういうことです……! ギュスタブ様!』


 地上では惨劇(さんげき)が行われているとも知らず、地下から無垢(むく)な表情の竜が蟻のように出て来る。


『お、いらっしゃーい!』


「ギャオン!」

「プギャ!」


 二頭の竜を鷲掴(わしづか)みにし、果物でも(しぼ)るように握りつぶした。直後、ギュスタブは体に付着した血を(ぬぐ)いながら首をコキコキと鳴らす。


『ちょいと疲れたなぁ! よっしゃ! 水分補給だ!』


 近くの竜を掴み、頭の上で握りつぶすと大口を開けて垂れてくる血を飲み干した。


『くぅー、運動しながら飲む血は格別だぜぇ!』


『に、逃げろ!』


 それを見て恐れ(おのの)き、逃げ惑う楽園の竜達。


『おいおい、もっと遊ぼうぜぇ!!』


 ギュスタブは歯をむき出しに笑うと(ほお)を膨らませ、熱線のブレスを放った。


 飛んでいる竜が炭に変わっていく。一部外れた熱線が竜巣(りゅうそう)の塔の端に当たって崩壊した。


『ギュスタブ様、あまり派手にやりますと巣が壊れてしまいます!』


『うるせぇ!』


 忠告してきた竜の頭がデコピンで弾け飛んだ。


『ひえぇ!』


 近くにいた竜が腰を抜かした。


『オレに逆らう奴は反乱分子、オレに殺される奴も反乱分子だ! グガガガガ!』


 自由と強欲の竜ギュスタブ。一度暴れ出した彼を止めることは王竜以外叶わない。


 しばらく破壊の限りを尽くすと、辺りは竜巻でも通り過ぎたかのように残骸が散乱していた。


『ふん、もう終わりかよ。おい、次はどこだ?』


『ま、真北に位置する水道です』


 今すぐ離れたい子飼いの竜だったが、下手に動けば殺されかねないため、刺激しないようカカシになるしかなかった。


『おっしゃ行くぜぇ!』


 暴風を巻き起こしながら高速で真北へ。途中、竜教信者や無関係の竜もお構いなく殺した。ギュスタブ(いわ)く、オレの通り道にいる奴が悪い、である。


 たどり着いた先、楽園から出ていた竜が震えながら見上げていた。


『ぎ、ギュスタブ様! どうかお許しを! これからは改心し、ファフニール様に尽くしますゆえ、どうかどうか!』


『いいや、お前らは皆殺しだ。が、オレを殺せば助かるかもなぁ!?』


『だ、ダメだ! みんな逃げろ!』


 地下に逃げ込む竜達。


『そいつぁ、愚策(ぐさく)だぜ』


 ギュスタブの手が赤く煮えたぎった溶岩に変わっていく。


 溶岩魔法。溶岩といっても魔法で出来ているため一般に想像するものよりも強力だ。少なくとも徒竜の体を軽く焼き尽くすくらいには。


『出てこねぇと溶けちまうぜぇ!?』


 地下に注ぎ込まれたそれが轟音(ごうおん)を立てながら、火山の噴火のごとく地面から噴き出し、ついでに竜の無残な亡骸(なきがら)表出(ひょうしゅつ)させていく。


『どうせ殺されるのならば!』


 地上にいた一部の竜が決死の覚悟で突撃する。


 ニヤリと笑うギュスタブ。


『そうだ来いッッ! お前達が生き残るにはオレを殺すしかねぇんだよッッ!!』


 そんな覚悟も無意味とでもいうようにハエを叩き潰すがごとく竜を殺していく。


『グゥーガッガッ! 命を()むのって、たぁーのしぃー!』


 (あご)が外れそうなほど大口で笑いながら、十数頭の虫ケラを殺し終わった——その時だった。的確に目を狙って、鋭利(えいり)飛針(とばり)型の竜鱗(りゅうりん)が飛んでくる。


『ふんっ!』


 鼻息一つで難なく跳ね返し、飛んできた下方向に視線を移す。そこには、(とが)った赤い鱗を持つ竜——リンドウがいた。


女々(めめ)しいんだよ! チマチマと攻撃すんじゃねぇ!』


 青筋を立てるギュスタブは、リンドウが先ほど会ったチビ竜と気づいていない。鱗だけでなく爪の形も変え、瞳の色も赤く変化させているため簡単には見抜けないのだ。


『死んどけ』


 ギュスタブは、唾でも吐くように熱線を飛ばす。だが、それをリンドウは蝶のように華麗にかわした。そして、かかって来い、と指で挑発する。


 (あお)られたギュスタブは眉を上げる。


『面白ぇ! 遊んでやるよ!』


 急降下。隕石(いんせき)が落下したかのように爆音を上げ、リンドウごと地面が崩壊した。


 光が差し込む地下の旧霊廟(れいびょう)に落ちた二頭が対峙(たいじ)する。


『へぇ、完全に()りに行ったのに無傷とはなぁ! 少しは楽しませてくれそうじゃねぇか!!』


 尻尾をバシバシ叩きつけて喜ぶ。


 その浮ついた隙を突くようにリンドウが先に動いた。壁や天井、柱を足場に縦横無尽に移動して撹乱(かくらん)する。


『おおー早い早い。あんよが上手でちゅねぇー』


 そう言いながら目は完全に獲物を(とら)えていた。伊達(だて)に衛竜な訳ではない。


 背後を取ったリンドウは、右腕を振り上げる。


(あめ)ぇ!』


 動きを見切っていたギュスタブは、素早く振り向き、大口を開ける。


 そして、リンドウの右腕を噛み砕いた——が、瞬間、“竜殺しの血液”を浴びたギュスタブの頭が“消失”した。


 胴体(どうたい)だけになった肉塊(にくかい)は、重力に逆らうことなくゆっくり倒れ、轟音(ごうおん)を立てながら砂煙を巻き上げた。


 リザードマンの血は、竜が浴びれば一瞬で魔法を無効化し、体を溶かす“初見殺し”のものだ。それがたとえ衛竜だろうが、王竜だろうが効果は変わらない。こういう接近戦を好み、好戦的な敵には効果が絶大なのだ。


(こんな奴ばかりだと楽なんだがな)


 ちゃっかり返り血で鎧が溶けるのを防いだコバコと共にヤレヤレと肩を(すく)める。


 二匹は旧墓場に横たわる死骸を見下して鼻を鳴らし、増援が来る前に地下水道の奥へと消えた。

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