第75話 雑魚狩り2・アナコン&ゲッコー戦
ヤドクを倒して息つく間もなく、巨蛇爬竜アナコンが横の壁を突き破って襲い掛かってきていた。
リンドウを丸呑みすべく大口を開ける。そのまま呑み込み、壁に激突。と思いきや。
『あれぇ? 食ったと思ったのに。オマエ早いなぁ』
アナコンが不思議そうな顔をして壁から頭を抜く。
感知に優れるリンドウを不意打ちするのは難しい。スキップでもするように容易く躱したのだ。
『早いな。カエルよりは』
『んお? 煽りってやつか。そういうのは俺にはきかねぇぞぉ』
愉快そうに体を左右に踊らせるアナコン。
(雑魚そうだな。なら少し実験に付き合ってもらおうか)
リンドウは、身を隠すように壁の裏に回った。
『鬼ごっこかぁ? そんな腹減りそうなこと付き合ってやんねぇぞぉ』
アナコンのまだら模様の鱗に無数の穴が開く。大きく息を吸うと、体の穴も呼応するように吸い込み出す。
アナコン固有の力“吸引魔法”だ。自身や触れた物に穴を開け、吸い込ませる。
壁や石床を引き寄せ、食べながらリンドウの逃げた方へ向かう。角を曲がった先に獲物は立っていた。
『げへへ、どうだ俺の魔法で立っているのもやっとだろう』
『ああ、だが俺とは相性が悪かったな』
リンドウは、吸い寄せられて飛来する瓦礫を避けながら踏ん張る。
「キィィ!」
その時、一匹のコウモリがアナコンの方へ吸引されていく。
『お? オヤツはっけーん』
大口を開けて丸呑みしようとした刹那——コウモリの腹が溶けて血の雨が降る。
「!? ぐ、グガァァ!!」
血を浴びたアナコンの体が溶けていく。
リンドウが前々から進めていた対王竜用の策“眷属作り”を利用した。翼がない劣等竜とはいえ、彼も竜なので眷属が作れるかもしれないと考えたのだ。
だが、竜にとって猛毒の血液を使えば、眷属になった時点で体が溶けてしまう。故に今は時限性の血液爆弾としてしか使えない。この溶けるという問題を解決できれば王竜討伐に大きく近付くのは間違いないだろう。
「キィィ!」
リンドウの周りでコウモリの腹が次々と破れていく。一匹だけでなく、複数に仕掛けておいたのだ。
(やはり、眷属化まで個体差があるか。これでは罠としても微妙だな。王竜と戦う前に完成できればいいが……)
リンドウは、溶けたアナコンだったものを一瞥し、水道の奥へと走っていった。
◇
地下水道の奥、東から狩りをしていた家守爬竜ゲッコーは、楽園の竜をあらかた始末してアナコンやヤドク隊の帰りを待っていた。
そこに一頭のヤドクが焦燥した顔で現れた。
『報告! 全てのヤドク隊の反応が消えました! さらにアナコンの反応も消失!』
ゲッコーは平然として、口角を上げる。
『へぇ、少しは腕の立つ徒竜がいるようだな。数は?』
『わかりませ——』
言い終わる前に首が飛んだ。奥から深緑の鱗に水宝玉色の瞳を持つ竜が現れる。
『……まさかてめぇ単独でこいつらを殺ったのか? なにもんだ?』
『ただの竜狩りだ』
『……“孤竜”ってとこか。まぁ、珍しくもねぇな』
孤竜とは、王竜の配下に就かず自由に行動する竜の総称だ。往々にして共食いや竜殺しを行いがちの問題児的個体である。
ゲッコーは身構える。
『悪いが俺はその辺の雑魚とは違うぜ?』
刃魔法により、体が刃状に変化した。
『死になっ!』
そのまま間髪を容れず飛びかかる。
『あれ……?』
凶刃がリンドウを仕留めると思われたが、ゲッコーの予想に反して自身の体が上下に両断された。
『うっそだろ……?』
まさか何でも切断する自分の体を逆に切られるとは思っていなかった。上半身が宙に舞い、血を撒き散らして視界が回る。
『悪いがその辺の雑魚と遊んでいる暇はない』
リンドウは、“自身”の血のついた鉤爪を拭う。竜殺しの血液の前では身体変化の魔法など無意味。
下に叩きつけられたゲッコーは恨めしそうに睨み、そのまま絶命した。
一息ついたリンドウは、足下のとある竜の首を目にする。
(こいつは……)
コロと初めて楽園に訪れた際に会ったビヨンビヨン首を伸び縮みさせていた鼈爬竜スポポンだ。
(バカそうだったからな、死ぬとは思っていた)
呆れながらも一つの策を思い付いていた。どうせなら利用させて貰おう。
リンドウは、その竜頭を持って衛竜である長亀爬竜レザバクのもとへ向かった。




