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【完結】竜殺しのリザードマン 〜竜に支配された世界で自分だけ“竜殺し”の力を手に入れて“劣等竜リザードマン”になった男の逆襲物語〜  作者: 一終一(にのまえしゅういち)
第3章 帝王竜ファフニール編

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第71話 井守爬竜ニュウトと家守爬竜ゲッコー

 ファフニール帝国北西の地下水道。コロに捕らえられた二人の人間のうちの男は、結局(おり)を壊せず隅で肩を落としていた。


「ちきしょう……なんで俺がこんな目に」


「だいじょうぶ、きっと助かるよ……」


 女は(はげ)ますように男の背中を()でてあげていた。隙間から吹き込む冷たい風が二人の身に染みる。せめて服でもあれば気持ちが楽になるのに、と叶わぬ願いに思いをはせる。


 その時。取ってつけたような(もろ)い部屋の扉が壊され、(ほこり)の舞う中に何者かの影が見える。


『おんやぁ? 物音を辿(たど)ってみたら、こんなところに人間がいるぞぉ?』


 現れたのは、大人の男よりひと回り大きく、顔に格子(こうし)状の傷がある赤黒い竜だった。


 ——井守(いもり)爬竜ニュウト。徒竜。水場が好き——


 ニュウトは、舌舐めずりをしながら檻に近づく。


『美味そうだねぇ。生の人間食って見たかったんだよなぁ』


 顔を格子にくっ付け、ヨダレを(したた)らせながら獲物を値踏みする。


「ひっ」


 二人は隅へと行き、身を寄せ合う。


『カワイイねぇ。どうしてこうも恐怖に染まる顔ってのは食欲をそそるのか』


 我慢できなくなったニュウトは、大口を開けて格子を破壊しにかかる。


『おい! 何してるべ!』


 そこに丁度、コロとリンドウが帰ってきた。ニュウトは、二頭を一瞥(いちべつ)して舌打ちをする。


『お前達こそ人間なんて捕まえてどうする気だぁ? 許可取ってねぇだろぉ?』


『いや、取ってるべよ。人間繁殖のために(つがい)を一度隔離して、交尾の促進(そくしん)を図っているんだべ』


 当然、ハッタリである。リンドウは、意外と頭の回るコロに少しだけ感心した。


『ふぅん。それなら納得するしかねぇなぁ……なぁんてなぁ! 俺様に見つかったのが運の尽きだ! 喰ってやるぜ!』


 井守爬竜ニュウトは、檻を破壊しようと爪を振り上げる。瞬間、リンドウが飛び出した。素早く接近すると右足を軸に回転。尻尾を敵の腹に食い込ませた。


「グガァ!」


 ニュウトは、(つば)を撒き散らしながら部屋の外に吹き飛んだ。塵埃(じんあい)舞う中、敵は腹を押さえながら立ち上がる。


『て、てめぇ、俺様を殴ってただで済むと思うなよ』


『他に仲間は居るか?』


『言うかバァカ! ……って、な、なにを、やめ——』


 リンドウは、尻尾を敵の首に巻き付け、有無を言わさず頸椎(けいつい)をへし折った。死体が転がる。


 背後でコロが驚いた顔で見ていた。緊張が走る。


(やはり、殺しは不味かったか)


 とはいえ、他に選択肢はなかった。放っておけば仲間を呼ばれ、人間もろとも始末されていただろう。


 こうなった以上、コロも殺すしかない。平気で同族殺しをするものを信頼しないだろうから。


 覚悟を決めて殺意を向けようとした瞬間。


『オメェ強ぇなぁ! いやぁ助かったべよ! オメェがやらなかったらオイラが殺ってたとこだべ! ま、やられてただろうけどよ!』


 コロは、何事もなかったように笑い飛ばし、純粋に喜んでいるようだった。【蛇眼(じゃがん)】で嘘をついているか確認したので間違いない。


 リンドウは気が削がれ、薄く笑う。


『だが、殺したのは良くなかったか』


『一頭殺したぐらいなら多分大丈夫だべ。ここじゃ弱い竜が行方不明になるのは日常茶飯事だべから』


『……そうか』


 その考えではダメだ、とリンドウは思った。最悪の場合を想定し、行動しなければ足を(すく)われかねない。すぐにバレると踏んで動くべきだ。


 思考を切り替え、前々から考えていた王竜討伐計画を早めることにした。



 ファフニール帝国南西、ドラテオン神殿。


 豪華な装飾品に(いろど)られたとある一室に何名かの竜教信徒(しんと)が集まっていた。その中の竜教幹部にして聖女のドゥエは、死体の前にいた。


 人型のそれは、顔が焼かれて内臓は散乱しており、目を背けたくなるような状態だった。だが、彼女は物怖じせずしっかりと見据(みす)える。


「これは酷いですな。身元は割れているのですか?」


「信徒の所在を確認したところ音信不通のものが一頭。通訳の竜“マタマタ”殿です」


 葉亀(はがめ)爬竜マタマタは、変身魔法を使う竜で人間と竜の仲介役だ。


「なるほど。しかし、マタマタ殿にしては若く、体が小さい。通常の老紳士風の変身ではなく、他の人間に変身した状態で死んだということですかな?」


「かも知れませんし、別人かも知れません。今のところは何とも……」


 ドゥエは、長い白髪を揺らしながら(あご)に手を当てて考え込む。


 そこに茶髪で鳶色(とびいろ)の瞳をした若い男が顔を出した。


「うわぁ……ひっでぇな!」


 新入りのエスカーだ。白い宗教服の(そで)をまくり上げ、およそ神に(つか)える者とは思えぬだらしない格好をしている。


「下がりなさいエスカー」


「処理が雑だねぇ。俺なら死体ごと消すのに」


 死体の残骸を平然とつまみ上げ、顔をしかめる。


「エスカー、下がれと言っているのですぞ」


「へいへい。分かりましたよ聖女サマ」


 エスカーは鼻を鳴らし、立ち上がる。


「私はウーノ様に報告に参りますぞ。貴殿らは死体を霊安室に運び検分を」


「御意」


 信徒達は(おごそ)かに了承し、それぞれ役割を全うするため方々(ほうぼう)に散っていった。


 そんな中、エスカーは死体の前で怪しく笑みを浮かべていた。



 ファフニール帝国北側。ジメジメとした日陰で、人間の大人より一回り大きな一頭の茶色の竜が苛立(いらだ)ちで舌打ちをしていた。


 ——家守(やもり)爬竜ゲッコー。徒竜。壁や天井に張り付いて移動するのが得意——


 足を貧乏揺すりさせて歯ぎしりする。食事の待ち合わせに来ない井守(いもり)爬竜ニュウトに腹を立てているのだ。


『おい、ニュウト知らねぇか?』


 その辺を歩いていた徒竜に(たず)ねる。


『さぁ?』


 徒竜は興味なさげに去っていった。基本的に下位の竜は上位の竜から命令を受けたらその通りに動くだけの傀儡(くぐつ)だ。余程のことがないと、竜が一頭消えたくらいで気付くわけもなかった。


『チッ、使えねぇな』


 ゲッコーは、苛立ちを抑えながら考える。今までニュウトが待ち合わせに遅刻することはなかった。寝坊だろうか。それとも、竜に食われたか。


『ったく、世話かけやがって』


 悪態をつきながらもニュウトを探すことにした。

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