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【完結】竜殺しのリザードマン 〜竜に支配された世界で自分だけ“竜殺し”の力を手に入れて“劣等竜リザードマン”になった男の逆襲物語〜  作者: 一終一(にのまえしゅういち)
第3章 帝王竜ファフニール編

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第70話 コロと聖女ドゥエ

 円蛙(えんあ)爬竜アメフクラのコロの隠れ家。


 リンドウは、竜教ドーラの情報を、小岩みたいな見た目であるコロから聞き終わった。


(面倒だな)


 まさかこんな敵地のど真ん中に人間が平然と住んでいるなど考えもしなかった。


 犯罪迷宮都市ケイオスでは、運び屋が少なかったせいで外からの情報を得られなかったのもアダとなった。


 心臓を()でられたような気持ち悪さを覚える。わずかな失敗も許されない状況での新情報。(きも)を冷やさないものは居ないだろう。


 暗雲が(ただよ)い、内向きな思考に(とら)われそうになる一方で、情報を得るには人間からが手っ取り早いとも思っていた。何もしなくても竜に殺される。なら、危険を犯してでも希望をつかみ取るべきだ。


『よし、竜教の奴らに服を貰いに行くか』


『案内するべ!』


 コロに捕らえられた人間の服を貰うためファフニール帝国南西のドラテオン神殿に向かう。


 リンドウは、リザードマンの正体がバレるまで時間はあまりないと予想している。


 犯罪迷宮都市ケイオスで大胆に動き過ぎたせいで、少なくともリザードマンは認知されてしまっている。そのため、人伝(ひとづて)に竜教信者の耳に入り、竜の元にも届く可能性は高い。


 だからなるべく素早く、静かに王竜を倒すためのピースを集めねばならない。


『いやー今日もいい天気だべなぁ』


 コロはリンドウの気も知らず、呑気(のんき)に景色を楽しんでいた。いい天気というには曇天(どんてん)の空で辺りは薄暗かった。竜の価値観では好天(こうてん)なのだろう。深くは考えないようにした。


 周囲には様々な竜が徘徊(はいかい)している。地下の楽園の竜達とは違い、哨戒(しょうかい)する兵隊のような、どこか緊張感のある動きだ。


 そして、遠くで豆粒のように小さく見える帝王竜ファフニールは、中心にあるいつもの骨の塔の上で昼食を取ろうとしていた。


 前回と同じように眷属竜が塔の二段目に達すると毒味役の竜が出てきた。今度は、前回と逆側の向かって左から、巨大で(ぬめ)りのある四足歩行の衛竜が現れて、エサの左腕を毒味し始めた。


 ——山椒(さんしょう)爬竜ハジカミイヲ。衛竜。四枚の翼を持ち、茶褐色でのっぺりとした体をしている——


 コロ(いわ)く、衛竜四頭の内、二頭が交互に毒味をしているとのことで、その他の二頭は主に哨戒(しょうかい)行動をとっているらしい。リンドウは、しっかりと情報を頭に入れる。


 そうこうしているとドラテオン神殿に着いた。重そうな扉を押し開けて中に入ると、ちょうど竜教幹部である長い白髪を持つ聖女ドゥエがいた。白を基調とした宗教服をなびかせながら、こちらを見て目を丸くする。


「き、貴殿は……!?」


 見つめる先にいるのはリンドウ——ではなくコロだ。


円蛙爬(えんあは)竜アメフクラではないか! 雑魚、もとい、か弱いが(ゆえ)に個体数が激減、いやむしろ絶滅したとさえ言われていた珍竜! まさかこんな近くに居ようとは!」


 ドゥエは、丸いものに目がなく、見かけると竜教幹部であることを忘れたように子供らしさを見せてはしゃぐ。


 瞳を輝かせ、恐る恐る白く細い手を伸ばす。が、触れる直前でコロは一歩後ずさる。彼女は内心傷付いたが、(せき)払いをして平静を装った。


「それで、彼らは何用で?」


 視線の先には、燕尾服(えんびふく)を着た老紳士がいた。


(こいつは……)


 リンドウは一目で人間ではないと見抜く。人と竜の平熱は極端に違うため姿形を変えていても彼の【蛇眼(じゃがん)】は(あざむ)けないのだ。


 その老紳士型の竜が(うやうや)しくこうべを垂れる。


 ——葉亀(はがめ)爬竜マタマタ。徒竜。枯葉と亀を足したような姿をしている。変身魔法を使う——


 マタマタは人と竜の仲介役として神殿に住んでいるのだ。視線をコロに合わせ、信号を飛ばす。


『して、アメフクラ殿。何か用事ですかな?』


『大きめの布が欲しいんだべ』


 人間の服が欲しいと言えば怪しまれるので大雑把に布とした。


『布……ですか。用途は?』


『最近、寝る時に腰が痛いんだべ。寝床の骨を崩れないよう(まと)める物が欲しかったんだべよ。オメェら人間が使ってるのを見て、ついな』


 マタマタはそれを聖女ドゥエに翻訳した。聞き終わった彼女の口元が緩む。


「か、可愛すぎる……!」


 思わず笑みがこぼれるのを慌てて隠した。


 彼女の中では、コロが雑魚ゆえに体も弱いのでそういう提案をしたのだと勘違いしていた。笑いをこらえ切ったドゥエが視線を上げる。


「コホン、(よろ)しい許可します。良ければ私が設置のお手伝いを致しますが?」


『いんや、人の手は借りねぇべ。自分のことは自分でやるべよ』


「硬派……!」


 翻訳していないのになぜか意思疎通が出来ていた。好きは言語の壁を越えるのだ。



 リンドウ達がマヌケなやり取りを終えた頃、地下水道ではコロに捕まっている裸の男女二人が肌寒い(おり)の中でじっと座っていた。すると、男が立ち上がり、格子(こうし)の隙間から辺りをうかがい始めた。


「……今しかねぇな」


 落ちていた握り拳大の石を拾い、檻の鍵を必死に叩く。周囲に高音が響くがお構いなしに打ち付ける。


「くそっ、壊れねぇ!」


「や、やめなよ。竜を怒らせたら、どうするの……」


 側で身を縮こませて座っている気弱そうな女が(いさ)めた。


「バカ、ここにいても食われるだけだぞ!」


「で、でもまだ食べられてないし、もしかしたらその気はないのかも」


「そんなわけあるか! 化け物どもは俺達を、人間を食うことしか考えてねぇんだよ!」


 二人がコロに捕まったのは数日前だ。


 何人かの人間が生贄(いけにえ)として竜教に誘拐されていたが、隙を突き集団脱走した。他の者が捕まったり食われたりする中で、二人は旧貧民街を北に逃げた。そこをコロに見つかってしまったのだ。


「ちきしょう、壊れろ壊れろ……!」


 手の皮が()け、血が(にじ)んでも辞めない。女は耳を押さえて、隅でうずくまっていた。


 男はなおも懸命に叩き続ける。だが、(むな)しい高音が響き渡るだけだった。


「……グガ?」


 不運にもその音を偶然、地上にいた竜が拾っていた。


『何の音だ?』


 顔に格子状の傷があるその竜は、気になったら確認せずにはいられず、音の方向へ歩き出した。


 こうして、二人に危機が訪れようとしていた。

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