第66話 世界の中心へ
リザードマンのリンドウと、茶髪で左目に眼帯をした鍛冶師キュクロは、ケイオス北に位置する第一出入口にいた。
キュクロは、大急ぎで作った翼付きの“新・避役竜鎧”をリンドウに着せた。
装着した瞬間、体色と同じく漆黒に変化した。
「背中に力を入れてみな」
リンドウが、言われた通りにすると黒翼が大きく羽ばたく。
「よし、完璧だな。飛べない代わりに動かせるようにはできた。雑魚の魔法に耐えられるくらいの強度もある。これで竜を欺けるだろ」
リンドウは視線で感謝の意を伝えた。
「姉妹に挨拶しなくて良かったのか?」
肯定する。情が移り過ぎた。会えば目標達成の意志が揺らぐ気がした。だから会わない。それに竜を倒せばいつでも会えるようになる。
『お前はケイオスに残るのか』
「抜けても良かったが、てめぇが姉妹のお守りをしやがらねぇからオレが残るしかねぇだろ。それに天樹竜がいなくなった今、新たに迷宮病の薬は作れないんだよ。だからオレが代用品を研究開発しないとなんねぇ」
キュクロも大変なのだな、とリンドウは思った。
「で、こっちの出入口に来たってことは“帝王竜ファフニール”を狙うんだろ?」
肯定した。目指すは元ルーマ帝国。円形のムーランディア大陸の中心に位置し、世界を恐怖に陥れた破滅の六王の一頭、帝王竜ファフニールの巣がある場所だ。
王竜の中で唯一居場所が分かっていて、潜入して狩るには絶好の相手ということだ。
だが、そこは迷宮が一切ない。つまりリザードマンの正体が判明すれば、空飛ぶ竜になすすべなく虐殺されて終わりだ。今まで以上に気を引き締めなければならない。
「世話になったな。てめぇが居なかったらケイオスは消滅していただろう。ケイオス民を代表して感謝する」
キュクロは申し訳程度に頭を下げた。
「じゃあな。王竜をすべて倒したら英雄譚を聞かせてくれよ」
キュクロは手を上げて別れの挨拶をした後、踵を返す。
リンドウは彼を見送りながら、面白い男だったな、と思った。冷静でありながら、父親ドゥワフに似て熱いものを持っており、面倒見がいい。
(あの男に似ているな)
妻ダリアの父親と雰囲気が被る。彼も表情に出さないタイプで、内には野心家という燃えたぎるものを持っていた。
今どこで何をしているのかは知らない。そういえばダリアの母親や妹の行方も分からない。行く先で安否が分かるだろうか。
そんなことを考えていると、キュクロがケイオス出入口の中に見えなくなった。
彼と姉妹がいればケイオスは大丈夫だろう。きっと上手く再建するはずだ。
リンドウも踵を返そうとしたその時、コバコがひょっこりと顔を出す。
『なんだ、居たのか』
相棒はプンスカ怒って抗議する。
今回は全体的に空気であったものの、姉妹を守ったり、黒狼団を呼んだりと要所で活躍した影の立役者だ。
コバコが居なければ結末は変わっていただろう。褒めるべきなのだろうが、鼻が伸びるので言わない。
代わりにリンドウは頭を撫でてやった。
コバコは機嫌が治り、『すすめー』とでも言うように北を指差す。
(行くか)
結局、樹王竜と会わなかったのが気になるが、信号を解析した今、先に進めば自ずと答えが分かるだろう。
次が勝負の分かれ目だ。王竜との戦い。わずかな失敗でも命取り。
そして、王竜を倒せば一気に世界は動く。人も竜もリンドウを放っては置かないはずだ。あらゆる事態を想定し、柔軟に対応できなければ即座に死ぬだろう。
しかし、彼に気負いはない。すべての覚悟は出立前にして来たのだから。
リンドウは、黄金の双眸に闘志を宿し、世界の中心へ向けてゆっくりと歩きだした。
【第2章 懸賞首狩り編】 —終—




