第57話 作戦立案
ケイオスのすぐ南にて。姉妹は懸命にケイオスへ向かっていた。
「アガウェーもうすぐだ! 急げ!」
「うん!」
その時、目の前の木に数枚の鱗が刺さり、二人の動きが止まる。
「これは、神様の!?」
黒い通常形態に戻ったリンドウが姿を現した。
「良かった! 生きてた!」
『時間がない。情報が欲しい』
首でケイオスを指す。移動しながら説明しろということだ。
姉妹はその意図を汲み取り、移動を再開する。二人は今まで起きたことを余さず話した。
「——でね、リンクスさんとヴェステンさんはもう……」
ドライツェン、リンクス、ヴェステンが亡くなった話と、ここまでのあらましを聞いたリンドウはとある考えに至る。
手で二人を制止した。
「神様どうしたの! 急がないと!」
『衛竜を倒す策がある』
「でも早く行かないとお父さんが!」
焦る妹をアップルが宥める。
「アガウェー落ち着け、本当に倒せるなら聞いた方がいい。無策で戻っても焼け石に水の可能性が高い。なら神様を信じて聞こう」
「……そうだね……分かった! 神様お願い!」
リンドウは木の幹に文字を書いていく。
今までの骸樹竜の不可解な行動。姉妹の情報を聞いて違和感は確信に変わった。そして生まれた一筋の光明。
策を書き終わり、それを見た姉妹は驚愕する。
「そんな、嘘でしょ?」
アガウェーの顔は青ざめていた。
「私は信じるぞ。たしかに違和感はあった」
と、アップル。
「で、でも!」
「行けば分かる。……神様、言われたことはやってみるが、期待はしないでくれ」
それでもアガウェーの顔色は悪い。
見兼ねてリンドウが文字を書く。
『俺を信じろ。ケイオスも人類も必ず救ってやる』
「…………」
その言葉にアガウェーは覚悟を決めて深く頷いた。
「さぁ、時間がない。また後で会おう」
リンドウは肯定し、姉妹、コバコ、それぞれ別々の三方向へ消えていった。
◇
リンドウは森で一際高い木の先端で赤い布を纏い、体も赤く【体色変化】させて直立していた。
高いところは嫌いじゃない。自由を得た鳥になったような気分にさせてくれるからだ。その爽やかな気持ちを遮るように影がさす。
(来たか)
せっかく目立つよう、おめかししたのだ。来てくれなければ困るというもの。
太陽と重なるそいつは、禍々しい体躯と不揃いな二枚の翼が圧倒的存在感を醸し出していた。
(骸樹竜スナップドラゴン。しばらく遊んでもらおうか)
これは策が成就するまでの時間稼ぎだ。だが、あわよくば倒す。
そして、リンドウと姉妹、それぞれの負けの許されない戦いが始まる。




