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【完結】竜殺しのリザードマン 〜竜に支配された世界で自分だけ“竜殺し”の力を手に入れて“劣等竜リザードマン”になった男の逆襲物語〜  作者: 一終一(にのまえしゅういち)
第2章 懸賞首狩り編

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第48話 爆樹竜ダイナマイトツリー戦1・躍動

 (さび)色の全身鎧で武装したフラズグズル姉妹は爆樹竜の巣の全容が(うかが)える位置に陣取った。巣の周りを闊歩(かっぽ)、または飛翔する猪眷属竜を視認。


「よし、作戦開始だ。アガウェー、派手にぶっ放せ」


「はいはーい」


 妹アガウェーは“跳樹(ちょうじゅ)竜の弩弓(どきゅう)”を引き(しぼ)る。


 今まで使用していたものより一回り大きなそれは、威力が倍増しており、相手を貫くというより破砕する。射撃の得意な彼女は、この大型の武器さえ上手く扱う。


「くらえっ」


 充分に引き絞った矢を放つ。周囲の風を巻き込みながら飛翔。敵の首を弾けさせた。


「グガァ!?」


 周囲の眷属竜がざわめき出す。間髪を容れず、姉アップルが小型のクロスボウで射撃を開始。射撃が苦手な彼女は、眷属竜のみを狙うと決めている。


 何頭か始末すると、いよいよ大物が姿を現した。


「ギギ、ギギギギ」


 爆樹竜ダイナマイトツリーだ。


 全身樹皮のような茶色い肌に黒い(とげ)が密集して生えている。落ち(くぼ)んだ眼窩(がんか)が嫌悪感を覚えさせる。それらが雀蜂(すずめばち)のように巣からウジャウジャと飛び立った。


 アガウェーは待ってましたと言わんばかりに嬉々として矢を目標に射出。体の中心辺りにある魔臓(まぞう)を正確に破砕(はさい)していく。矢は周囲の臓器も破壊していくため命も刈り取れる。


「あっ外した」


 相手は自在に空を飛ぶ竜だ。いかに射撃の達人であろうとも外すことはある。


 だが、この場面は多少外しても問題ない。敵は巣の近くでは住処(すみか)に損害を与えてしまうのが嫌なのか自爆しないからだ。そのためここで出来るだけ数を減らす。


「ギギギギ!」


 数頭落とした後、ついにこちらの位置は掴まれ、団体が一直線に向かってくる。


「そろそろ限界か! アガウェー! 弩弓(どきゅう)を放棄して第二戦闘地点へ!」


「りょ!」


 アップルはギリギリまで残って敵意を自分に向けさせる。


「こっちだ竜ども!」


 数頭の突進を竜でも破壊できない迷宮樹を盾にして避ける。敵が鈍い音を立てて激突し、木々から無数の葉が落ちる。


 避けるタイミングが良かったので竜達は急に止まれず、玉突き事故が起こり、彼女の前に大渋滞ができていた。


「よし、完璧だ」


 アップルの持ち前の勝負勘が本領を発揮したのであった。


 敵がもたついている隙に木を飛び降り、罠のある方向へ移動する。道中、木の根のアーチが連なった隧道(ずいどう)へ。


 敵は思惑通りアップルの尻に付いてトンネルに入る。


「アガウェー!」


 妹の名を叫ぶと同時、アーチの隙間から上へ抜けた。


「いっくよー!」


 アガウェーは、トンネルの先、固定連射クロスボウで狙いを定めていた。


 連射型クロスボウは重い、壊れやすい、装填(そうてん)に時間がかかる、値段が高いの四重苦だが、固定して城や砦の守りなどに使うなら重宝される代物だ。もちろん直線的に撃つだけでいいこの場面でも使える。


 彼女が引き金を引くと同時、矢が次々と発射され的確に魔臓を潰していく。


「あはは! たーのしー! ほらほら、あたしは逃げも隠れもしないよー! ……あっ!」


 調子に乗っていると、クロスボウが目詰まりを起こして停止する。


「ギギギィ!」


 焦っていると、接近していた敵に固定砲台を破壊されてしまった。


「ひいぃ、おねぇちゃああああん!」


 その叫びに反応して、アップルが樹上から飛翔。


「はぁぁああああああ!」


 裂帛(れっぱく)の気合いと共に爆樹竜の背中の中心に(あお)い剣を突き立てる。彼女はヒサメの剣、旗魚(かじき)水竜の鼻細(びさい)剣“氷桜(ひおう)”を持っていた。


 爆樹竜は魔臓を潰さないと自爆されるため、腹の中心を破壊するのが常道。しかし、魔臓を潰しても絶命させないと反撃されてしまう。


 そこでこのヒサメの剣の出番というわけだ。刃に返しが付いているため魔臓を破壊するだけに留まらず、周りの器官を傷付け、時には臓器ごと引きずり出す。つまり、引き抜く時の殺傷力が高く、対爆樹竜向きの武器といえるのだ。


「死ねっ!」


 剣を思い切り引き抜き、臓腑(ぞうふ)を撒き散らせる。まるで桜の花が散るように鮮血が飛ぶ。


「ギギィ!」


 竜は絶命して落下。トンネルの出入口を塞ぎ、後続を止めた。


「よし、次だ! 罠地帯へ!」


「り、了解!」


 アガウェーは木に飛び移り、一旦身を潜める。


 アップルは傾斜(けいしゃ)を下り、窪地(くぼち)へ。途中、竜が横から突撃してきた。


「くっ!」


 それをアップルの鎧の隙間に潜んでいた“コバコ”が黒い触手で撃墜(げきつい)


 コバコは、最も危険な役割の彼女にくっ付いていたのだ。両者は準備期間中に顔合わせ済みだ。


「ありがとう神使(しんし)様!」


 コバコが親指を立てる。


 その後、砂煙を立てながら窪地に着いたアップルは反転して迎え撃つ体勢をとる。


「ギギギギィィ!」


 そこに大量に押し寄せる爆樹竜。


 追いついてきた妹アガウェーがタイミングを見計らって罠の作動用ロープをクロスボウで撃って切る。


 すると、坂の上の樹上からいくつもの“玉樹(たまじゅ)竜の亡骸(なきがら)”が転がる。まん丸としたそれが爆樹竜の背中に直撃して転倒させる。


 自爆魔法は命を()す魔法。死にかけなければ使用しない。ゆえに背中に“小石”が当たった程度では発動しないのだ。


 おかげで玉樹竜を避けた群れが分断された。転倒して遅れた個体はアガウェーが遠くから仕留める。


 一方、アップルは別れた群れと平行するように窪地を南へ移動する。敵と数歩の距離まで詰まった刹那(せつな)、後ろへ飛んでロープを切った。


 すると、敵の集団を挟むように無数の“棘樹(とげじゅ)竜の棘鱗(とげうろこ)付きの石壁”がトラバサミのごとく襲い掛かる。壁の止め具は、“跳樹(ちょうじゅ)竜の筋繊維(きんせんい)”で出来たバネであり、反動が大きくて硬質な竜の体を破壊するには十分な威力だ。


「ガ、ギッギィ……」


 数体の竜が果実を握りつぶしたような粘着質な音を立て、臓物(ぞうもつ)を撒き散らしながら絶命した。


 難を逃れた他の竜が壁の脇を通って接近してくる。


「まだまだ行くよ!」


 またアガウェーが次の作動用ロープを撃つ。


 (あみ)に乗った丸太がブランコのように敵目掛け急襲。だが、所詮は木材。竜の爪で簡単に破壊された。


 ところが、それは陽動で本命は丸太を支える“網”にあった。“葡萄樹(ぶどうじゅ)竜の竜皮(りゅうひ)”で作った網は粘着性で容易には切れない。


「ギッギギィ!?」


 爆樹竜達の爪に網が(から)む。もがけばもがくほどさらに状況を悪化させ、やがて身動きが取れなくなった。


「はい、おつかれさまー」


 そこを射撃ポイントを移動していたアガウェーが的確に射抜いていく。


 一方アップルは、窪地を北に移動しながら、妹に矛先が向かないよう小型のクロスボウで敵の注意を引く。


「ほーら、こっちだぞ!」


 少し樹冠(じゅかん)が高い場所に移動。


 アップルは隠してあった竜の胃袋を加工した外套(がいとう)竜胃外套(りゅういがいとう)”を全身覆うように着込み、ナイフで近くのロープを切る。すると、頭上から液体が雨のように降り出した。


「ギギギ!」


 敵はその液体を浴びて苦しみだした。


 竜の胃液である“竜酸(りゅうさん)”を使ったのだ。竜の胃酸は強力で生物の骨ぐらいなら簡単に溶かしてしまう。竜に対してはリンドウの血のように一瞬で溶けることはないが目潰しくらいには使えるのである。


 アップルは鎧兜(よろいかぶと)のダメージを極力避けるため、胃酸に耐性のある竜胃外套で防御したのだ。


 さらに頭上から、とある黒いものが降ってくる。食べ物大好きな突然変異体ゴブリン、別名ゴキブリンだ。それらが敵に張り付く。


「ギィィギィ!」


 嫌がる爆樹竜。竜酸に様々な樹竜の果汁を混ぜておいたので、ゴブリンは喜んで敵に付いた蜜を吸っている。


「くたばれ!」


 アップルが動きの止まった竜の腹を青の剣で裂いていく。


 彼女にくっ付いていたコバコも、姿の似ているゴブリンに混ざって撹乱(かくらん)する。三本の触手を三つ編みのように(たば)ね、魔臓の位置へ差し込んで(えぐ)る。


「グギィィィィ!」


 敵は次々と断末魔(だんまつま)の叫びを上げ(たお)れていく。


 その時、アップルの肩に黒い物体が張り付いた。


「うわ、ゴブリン!」


 と思ったらコバコだった。


 プンスカ怒るコバコ。


「あはは、ごめんごめん冗談だ」


 まだ余裕のあるアップル。相棒の触手を()でてやり、意識を切り替える。


「よし、移動だ!」


 爆樹竜を数頭倒して敵の波が途切れたところで次の場所へ移動した。



 ヒサメ達は姉妹の躍進を興奮しながら眺めていた。


「すげぇ! 本当に二人でやっちまうんじゃねぇか!?」

「やったれやったれ!」

「なんだあの黒い鞭(※コバコ)のような武器は! かっけぇ!」

「おい、勝つな! 俺の掛け金が!」


 (おおむ)ね姉妹の勝利を願う声援が飛んでいた。


 ヒサメも拳に汗を握らせながら見守っている。


「ヒサメさん、西から竜が接近してます!」


 周囲に配置していた見張りから連絡がくる。


「そっか。まだ見てたいけど、私が行くよん」


「おい勝手な行動を取るな」


 迷宮の王デァトートの取り巻きが恫喝(どうかつ)する。


「別に問題ないよね? 私はただ違う竜を狩りにいくだけだよん。竜狩りとして当然の行為だよ」


「そうだそうだ!」

「明日の飯代稼ぐだけだべらぼぅめ!」

「そうだ邪魔すんな死ね!」


 周りも騒ぎ立ててヒサメを援護する。


「ふん、勝手にしろ」


 取り巻き達は視線を姉妹に戻した。


 それを見てこっそり中指を立てるヒサメの仲間達。


「二人とも死なないで」


 ヒサメはぼそりと(つぶや)き、西へと向かった。

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