第47話 準備
爆樹竜の巣を破壊しなければいけなくなったフラズグズル姉妹は、薄暗い迷宮の廊下を走っていた。
「どうするお姉ちゃん?」
「神様に指示をあおぐ。また助けてもらうのは気が引けるが四の五の言ってられない」
「わかった!」
「ちょっと待て! オレも協力する! 武器がいるだろ?」
鍛冶師キュクロが走って追いかけてきた。
「ありがとう助かる。それとキュクロさんには父さんを守って欲しいんだ。一人にするとデァトート達に“事故死”させられるかもしれないから」
「そっちは任せとけ。……オレの作った最高級の武器を用意してやる。大したものはないかも知れないが、策の幅を広げられるはず」
「何から何までありがとうキュクロさん」
「なんてことはない。あと、これだけ言わせてくれ——死ぬな」
姉妹は大きく頷いた。
◇
アマゾ大森林。
「神様! いらっしゃいませんか!? 折り入ってお話が! あでっ!」
鱗がアップルの兜に当たる。
「居てくれてよかった! 実はですね——」
アップルは懸命に身振り手振りで事のあらましを話した。
(チッ……!)
全て聴き終わりリンドウは内心舌打ちしていた。どうしてこうも人は人の足を引っ張りたがるのか。竜との戦いに注力すべきなのに余計な手間を掛けさせる。
しかし、悪態をついても事態は好転しない。リンドウは気持ちを切り替えて、文字を書いた鱗を姉妹の足元へ。
『俺の言う通り動け』『時間はないぞ』
「はい! 仰せのままに! あでっ!」
大声に対してのいつものツッコミが入ったところで行動を開始した。
それから姉妹は、爆樹竜の巣の先端が見える場所に到着した。同行はしていないがリンドウも近くにいる。彼が立てた作戦を実行するため偵察に来たのだ。
作戦は、まず、期限である一週間の内、五日を調査と罠を仕掛けるのに費やす。そして六日目に攻撃を仕掛ける。七日目は予備日だ。
今回もリンドウが助けに入るつもりだが、大々的には動けない。なぜなら姉妹を逃亡させないよう周りに数十人のデァトートの取り巻きが見張っているからだ。
他にも客観的な証言が必要なためヴェステン、リンクス、キュクロの三大派閥の連中がいる。下手に動けば姿を見られてしまう。
何より姉妹が巣を潰したという事実が必要であり、リンドウが破壊してもデァトートは納得しないだろう。
(信じよう二人を)
ここ最近、姉妹の成長には驚かされた。少し教えただけできっちりと結果を残し、騎士の家系は伊達ではないと感じた。
遠征を乗り越えたことで自信もついたはず。今の二人なら爆樹竜に遅れを取らないだろう。もし、誰かが邪魔をしようものなら、人だろうが竜だろうが容赦はしない。
リンドウはいつも以上に感知を研ぎ澄ませて彼女達を見守っていた。
◇
姉妹は鷹獣竜の望遠鏡を使い、巣を確認していた。
「見えるか?」
「うん、結構大きい巣だね。貴族の屋敷くらいはありそう。最低二十頭は居ると見た方がいいね」
他の竜巣と同様に開けた湿地帯に作られている。違いは、材質が植物と生物の骨の他に爆樹竜の棘鱗が足されており、悪魔の根城のようになっていることだ。
「罠は西側の窪地で決まりだな」
「だね。迷宮樹の樹冠が蓋になるし誘い込めば上には逃げれない」
「あとは妨害が入らないといいんだが」
アップルは近くの枝にいる数人の男達に視線を移す。デァトートの取り巻きだ。
「大丈夫じゃないかな。みんな見たことある強者ばっかだし、小狡いことはしないはず。それに多分神様がそういうの見逃さないと思う」
「神様には頭が上がらないな。じゃあ時間もないし罠を張るぞ」
「りょーかい」
姉妹は重そうな荷物を抱え、西の窪地へ移動した。
◇
キュクロの手下であるヒサメは、青い目を鋭くさせながら歯噛みして姉妹を見守っていた。見ているしか出来ないのがもどかしい。
いざとなったら姉妹を連れてケイオスから逃げろとキュクロに言伝を授かっている。しかし、逃げるとなるとキュクロと彼女達の父親ポルスタを見捨てることになる。それを姉妹は間違いなく納得しないだろう。
瞬時に二人を説得し、追っ手を振り払い、安全かも分からない人里へ逃げる。成功率は砂粒ほどもないだろう。
(神様お願い。二人を助けて)
ヒサメが出来ることは姉妹の勝利を神に祈るだけだった。
◇
巨大樹の木の空洞で休憩に入った姉妹は、キュクロに借りた本で爆樹竜の勉強をしていた。
「爆樹竜は首を落としても魔臓が発動して爆発する。ただし、魔臓に僅かでも穴を空けた場合、不発になる。だって」
「そいつは朗報だな。自爆さえ防げば勝てない相手ではない」
「逆にいえば一度でも使われたら一気に仲間を呼ばれて終わりだね」
「そうだ。魔法を完封しなければ私達に明日はない」
本には文字だけでなく図解があり、細かい臓器の位置や魔法まで分かりやすく描かれている。
「この本、キュクロさんが書いたんだよね?」
「ああ、なんでも器用にこなして凄いよな。運動以外は」
二人は笑い合う。まったく気負っていない。これまでの経験が姉妹を強くしたのだ。
「絶対勝とうね、アップルお姉ちゃん」
「ああ、当然だ。勝つぞアガウェー」
そして運命の六日目を迎える。




