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【完結】竜殺しのリザードマン 〜竜に支配された世界で自分だけ“竜殺し”の力を手に入れて“劣等竜リザードマン”になった男の逆襲物語〜  作者: 一終一(にのまえしゅういち)
第2章 懸賞首狩り編

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第46話 迷宮の王デァトート

 犯罪迷宮都市ケイオス第三層最奥(さいおう)


 殺人容疑をかけられたアップルは妹アガウェーとともに迷宮(ケイオス)の王デァトートの前に(ひざまず)かされていた。


 白髪を全て後ろに()で付けた髪、心の奥底まで見通しそうな鋭い眼光。齢六十にしてケイオスの支配者。それがデァトートだ。


「アップル・フラズグズルというのは貴様か?」


「私はやっていない!」


 その叫びに男は(まゆ)一つ動かさない。


 あらゆる犯罪が行われるケイオスでも殺人はご法度(はっと)。やるとしてもバレずにやらなければならない。表沙汰になった時点で粛清(しゅくせい)されるのだ。


「今朝ケイオス一層で四人の死体が発見され、死体の切り傷がお前の柘榴(ざくろ)竜剣の形と一致した。数人で幾度も検査したため間違いない」


「そんなもの偶然だ! 私は部屋でずっと寝ていた!」


「それからもう一人、行方不明者がいる。部屋中が血塗(ちまみ)れであったが死体はなく、代わりにこちらにも貴様の剣の傷跡があった」


「私は知らない! 動機もない! 人を殺して私に何の得があるっ!!」


「大方貴様の父親を治療するのに必要な材料を収集しやすくするためだろう。貴重な素材を取られたくはないからな」


「そんなわけがあるか!」


「ここ数日の大躍進、目を見張るものがあったが少々派手に動きすぎたな。殺し方が荒過ぎた。所詮は子供か」


「違う……私はそんなことしない……!」


 何を言っても信じてもらえない。


 そこにアガウェーが割り込む。


「お姉ちゃんはやってないよ! ずっとあたしと一緒に居たんだから!」


「身内の証言ほど無意味なものはない」


「だけどっ……!」


「もういいだろう。最期に言い残す言葉はあるか?」


 デァトートは立ち上がり、クロスボウを構える。


「……っ!」


 アップルは目をつぶって眉を寄せ、歯軋(はぎし)りする。


「……妹と父には手を出さないでくれ」


「お姉ちゃん!」


 アップルが死の覚悟を決めた、その時だった。


「オレの女どもに手ぇ出してんじゃねぇよ」


 眼帯の男キュクロが扉を蹴破って入室してきた。


「この馬鹿どもに人を殺す度胸なんてねぇよ。仮に殺せても態度に出る。バカだからな。なぁ、オレの顔に(めん)じて(ほこ)を納めてくれねぇか?」


 幹部である彼ならば意見が通るかもしれない。姉妹は微かな希望にほんの少しだけ表情が明るくなった。


「私にも面子(めんつ)というものがある。誤解だったでは済まないのだよ」


生贄(いけにえ)のヤギが必要ってか」


 沈黙。キュクロは続ける。


「それじゃオレを殺しな」


「キュクロさん!?」


 姉妹が叫んだ。


「オレの首なら面子とやらは保てんだろ。一応ここじゃお偉いさんだしな。ただし、こいつらと父親には手を出すな」


「ほう、小娘一匹に(おの)が命を差し出すか」


 デァトートが矢尻をキュクロに向ける。


「オレにとっては家族も同然だ」


 両者にらみ合い、時が止まったかのように静止していた。


 フッ、と笑い、デァトートがクロスボウを引き上げる。


「ふむ、辞めておこう。貴様はまだ使えるからな——ただし、条件がある」


 彼は口角を少し上げ、続ける。


「最近南東にできた爆樹(ばくじゅ)竜の巣を潰してきてもらおう。そいつらを倒せるほどの実力者となれば殺すのは惜しい」


 ケイオスでは強者が正義、弱者が悪。暴力こそが絶対。生き残るには力を示すしかないのだ。


「爆樹竜だと!? ふざけるな!」


 爆樹竜ダイナマイトツリーは、旧果樹園地帯で姉妹が戦って負けた自爆魔法を使う竜だ。自爆すると首ごと吹き飛ぶ可能性が高いので、懸賞首狩人(かりゅうど)達からしたら労力の割に見返りがなく、最も嫌われている。


「期限は一週間。出来なければ小娘の父親を殺す」


「む、無茶苦茶だ! 一頭でも手を焼く奴らの巣なんて壊せるわけがない!!」


 デァトートに掴みかかろうとするキュクロを取り巻きが止める。


 小競り合いの中、背後のアップルが口を開く。


「私、やるよ」


「無理だアップル!」


 叫ぶキュクロ。


「神に誓って人は殺していない。だから汚名は自分で(すす)ぐ」


 決意に満ちた瞳をデァトートに向ける。


「あたしも手伝う!」


 妹もやる気満々だ。


「いやアガウェーは待っていてくれ」


「やだよー! 勝手についていくから! いいよねデァトートさん!」


「姉妹一緒に()くのもまた一興か。いいだろう、仲良く散れ」


 姉は眉をひそめるが、すぐにかぶりを振る。


「ありがとうアガウェー……時間が惜しい。私達はこれで失礼する」


 姉妹は立ち上がり、早足で部屋を後にした。


 残ったキュクロがデァトートに視線を戻す。


「あんな純粋な奴がやるわけないのは、あんただって分かるだろ!?」


「かもしれんな。だが無実の証拠はない。それに——」


 デァトートは椅子に深くもたれ、笑いながら続ける。


「年寄りは若い芽を()むのが好きなのだよ」


「……クズめ」


「褒め言葉かね?」


 キュクロは音が鳴るほど歯を噛み締め、出て行った。

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