第43話 遠征5・巨樹竜バオバブ戦
(こいつは助かるな)
リンドウは霧のお陰で人間に見つからずに巨樹竜バオバブの親指を叩き斬ることができた。姿を見られたくない彼にとって絶好の狩り場なのである。
(しかし予想以上に硬い。出し惜しみをする余裕はないな)
この大きさと硬さ、さらに魔法の範囲に強さ。モタモタしていたらヒサメの部隊は全滅だろう。
リンドウは目から竜殺しの血液、【血涙】を流して左手の鉤爪に塗布した。
急いで敵頭部へ向かう。一気に脳を破壊する作戦だ。だが、竜の羽ばたきにより周辺は天候の悪い雪山のごとく猛吹雪になっていて近づけない。
(初手を間違えたな)
ここに来る前に他の竜との戦闘で遅れ、さらにヒサメが危ないところを助けたため巨樹竜を攻撃出来なかった。
リンドウは一考する。
(仕方ない。尻尾から攻めるか)
そこが一番吹雪の影響が少ないだろうという判断だ。
巨大樹のツルや枝を伝って竜の後方へ。
途中、四人分の死体を発見した。ヒサメの部隊の一員だ。
リンドウは止まることなく進んでいく。
すべての人間を助けることは出来ない。それをするには彼の手はあまりにも弱く小さい。どこかで人命を天秤にかけて割り切るしかないのだ。
(すまないな)
わだかまりは残るが、いつかすべての竜の首をとって報いよう。と心に誓って気持ちを切り替える。
そうこうしている内に尻尾の先に着いた。左右に揺れている城壁のような太く長いそれにタイミングよく乗っかり駆け上がる。体にくっ付けばこちらのもの。
能力【吸着歩法】。
ヤモリのような吸着力のある手足で簡単には離さない。
(狙うは頭だ)
竜殺しの血があるとはいえ下手に破壊すれば暴れたり、霧になったりして倒すのがより難しくなるだろう。そのため、まだ本気を出していない今の内に急所を狙って一撃で仕留めなくてはならない。
チャンスは一度。なのでやはり狙うは頭。
崖を登るかのごとく、ほぼ垂直の背中をよじ登っていく。並みの人間なら死んでしまうであろう豪雪と寒さであったが、リンドウは体を小刻みに震わせることで防いでいた。
能力【鱗振動】。
——カーペットバイパーという蛇は、鱗を震わせて相手を威嚇する——
それを応用し、全身を振動させて雪が積もるのを防ぎつつ、体温を上げているのだ。
リンドウは、無事に肩まで登りきり、頭に狙いを定める。
が、その時だった。真後ろから巨樹竜のツルのようなヒゲが襲う。
(面倒な……!)
間一髪、爪で斬り裂いて防ぐが、体が浮いてしまい暴風により飛ばされる。
(チッ、仕方ない。もう一つの策だ)
リンドウは、カメレオンのような粘着性のある長い舌を伸ばして敵の体に再びくっ付くと、今度は肩から下に降りて巨大な翼を斬り落とした。
「グォォォォォ!」
巨樹竜は突然の激痛に叫び、視線を背中に送る。翼が取れたことにより風が弱まる。
「待ってたよ神様」
声を発したのはアガウェーだった。彼女はリンドウが上手く立ち回ることを信じて近くの大樹の虚に待機していたのだ。
まだ突風が吹き荒れる中、射撃の天才である彼女がクロスボウの矢で正確に敵の目玉を射抜く。
「グオオオオオオ!」
巨樹竜は、腹の底まで響く叫びを上げながら、霧に変化しかかっていた。
「おおっと、ヒゲだけはいただくっすよ!」
横取り大好きドライツェンがヒゲに向けて跳んでいた。遅れて来たヒサメとアップルも飛びかかる。ツルや鞭など小道具を使って移動し、顔やヒゲを竜器で切り裂いていく。
「グゥゥ!」
竜は業を煮やしたのか霧化を止めて顎を開きブレスの準備を開始した。
「くそっ、退避!」
ヒサメが叫ぶ。全員が距離を取る。だがしかし。
「……あれ?」
予想に反してブレスが来ることはなかった。
「ど、どうしたのん?」
徐々に霧が晴れていく。全体が明らかになった巨樹竜は、胸に穴が空いて立ったまま絶命していた。
「し、死んでる……?」
アガウェー達が暴れている隙にリンドウが竜殺しの血と能力【デスロール】でやったのだ。
——ワニは、獲物に噛み付いた後、デスロールと呼ばれる体ごと横軸回転する技で弱らせる——
その応用で風車のように高速回転して敵の体を掘削したのだ。
「さすが神様だね!」
アガウェーが木の幹の上でピョンピョン跳んで喜んでいる。
ヒサメは竜の胸に開いた大穴を覗く。
「こんな大穴を音もなく一瞬で? 神様って一体なんなのん……?」
「ふっふっふー、これが神の御業だよ」
アガウェーは、まるで自分がやったかのように胸を張って答えた。
それを咎めるように姉アップルが拳骨を落とした。
なにはともあれ、巨樹竜バオバブの討伐に成功したのであった。




