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【完結】竜殺しのリザードマン 〜竜に支配された世界で自分だけ“竜殺し”の力を手に入れて“劣等竜リザードマン”になった男の逆襲物語〜  作者: 一終一(にのまえしゅういち)
第2章 懸賞首狩り編

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第42話 遠征4・巨大樹地帯

 遠征三日目、巨大樹地帯。


 アマゾ大森林の東に位置し、人間を(はる)かに超える巨木が立ち並んでいて、それらに巻きつくツルは人が歩けるほど太い。


 葉や花も規格外に大きく、頭上に注意しなければ落下物に押し潰されてしまう。加えて樹間が広く、竜が動きやすい環境であるため非常に危険で、並みの人間では容易(ようい)に踏み込めない領域なのである。


 そして樹王竜ニーズヘッグの巣があると(うわさ)される場所でもある。強力な竜がいること、調査に向かった人間が消息不明になっていることなどが噂に真実味を帯びさせていた。


 太い幹の上、ヴェステン、リンクス、ヒサメの三人の隊長が集合していた。


 真っ赤な鎧のヴェステンが口を開く。


「ここまでは東に直進してきたが範囲を広げて探索するぞ。ヒサメは北、リンクスは南、俺はさらに東だ。目的の巨樹(きょじゅ)竜と酸樹(さんじゅ)竜を探せ」


「優先順位はどうします?」


 黄色の鎧を着た優男リンクスが(たず)ねた。


「俺とリンクスの隊は酸樹竜目当てだが、基本的に見つけた方から狩る。どっちが先でも必ず援護しろ」


「了解だよん」


 ヒサメが返事をした。


「撤退の指示は俺が出すからな。たとえ一頭も狩れなかろうが決定には従ってもらう」


「ここが正念場(しょうねんば)ですね。目当ての竜は今までの雑魚竜とは一線を画します。王竜の巣も近いかもしれないので充分注意しましょう」


 三人は(うなず)き合い、散開してそれぞれの部隊の元へ。


 戻ったヒサメは先ほどの説明をした。


「知ってると思うけど巨樹竜は(きり)魔法を使うよん。常時発動しているらしいから見つけるのは容易だと思う。ただ、それ以外の情報は(とぼ)しいからなにが起きても柔軟(じゅうなん)に対応できるようにしといてね」


 姉妹含むその場にいた全員が深く首肯(しゅこう)した。


 それから北側の探索を始めて数分。


「ヒサメ隊長! 霧に(おお)われた場所を発見しました!」


 部隊全員、霧が俯瞰(ふかん)できる大樹の上へ集まる。眼前には木々を隠すように濃い霧が広がっていた。


「……自然発生の可能性もあるね。全員風上へ」


 霧は風に逆らうように移動した部隊の足元へと広がる。


「うん、霧の動きに作為的(さくいてき)なものを感じる。巨樹竜の可能性が高いね。なるべく固まって行動しよう。本体を確認したら光で合図を——」


 その時だった。


「オオオオオオオッッ!」


 森中の大気を揺らすほど大きな獣の叫び声が響いてくる。


「ぐぁ! いてぇぇ!」


 ドライツェンが聴力が上がる“蝙蝠(こうもり)竜兜”を急いで脱ぐ。ミイラのように()けた(ほお)の顔を苦しそうに(ゆが)めていた。耳元で爆弾を爆破されたようなものなので無理もない。


 ヒサメも耳を押さえて顔をしかめる。


「これだけの規模の叫声(きょうせい)。相当大きいね。恐らく巨樹竜だよん」


 直後、彼女は霧の揺らぎを視認する。


「くっ、跳べ!」


 ヒサメの怒号に反応してほぼ全員上に跳躍した。直後、元いた場所に壁のような太い腕が霧を()きながら横薙(よこな)ぎに振るわれる。


「うあああああ!」

「た、たすけ」


 遅れた二人がミンチになった。


 霧の中を巨躯(きょく)の影が動く。林立(りんりつ)する巨木に匹敵する大きな薄橙(うすだいだい)色の竜。


 ——巨樹竜バオバブ。徒竜。二足歩行。(あご)にヒゲ根を持つ。体中に(あな)があり、そこから霧を放出する——


 竜は再び霧に(まぎ)れて見えなくなった。


 直後、霧の中から他の部隊の一員が飛び込んできた。


「ヴェステン部隊より伝令! 酸樹竜と接触した模様! 至急援護求む、だそうです!」


 ヒサメはその報告を聞き、考える。


「同時に接触か。援護に行こうにもこの霧じゃあこっちを振り切るのは難しいね。私達は巨樹竜を引きつけつつ後退するから、キミはその間に隠れて折りを見て帰還。ヴェステンの指示を仰いで」


「了解!」


 ヴェステンの使いは勢いよく返事をして、(うろ)に隠れた。


「さて、援護は期待できないからここにいる八人でやるよ。引きつけるには多少攻撃しないとダメだろうから、部隊を四人ずつ二班に分けて敵の頭部と足元を狙う。あわよくば目的のものであるヒゲを切り取ってやろう。でも無理はダメ。霧内部は視程(してい)が悪いから同士討ちに気をつけて」


 的確な指示に全員黙って頷く。


 ヒサメ、アップル、アガウェー、ドライツェンは上へ。他は下へ移動を開始した。


 上部組は、巻耳鉤鱗(おなもみかぎうろこ)を木に刺し、足場にして上へ登っていく。


 その時だった。何かの羽音が聞こえてくる。


「キキィ!」


 翼の生えた緑の猿竜が現れた。


 ——樹型猿眷属竜グリーンヒヒ。全身をツルに覆われた(わに)口の猿。木登りが得意——


「お猿さんに用はないよ」


 ヒサメが是非(ぜひ)もなく斬りかかる。しかし、飛び上がられて急所を外す。


「へぇ、眷属にしては早いね……!」


 その言葉を理解してか知らずか眷属竜は(ねば)つく笑みを浮かべる。が、猿の首がいきなり飛んだ。


 やったのは灰色系マダラの鎧“鬣犬(はいえな)竜鎧”を着込んだドライツェンだ。


「あっしは横取りが得意でしてね。酒、女、手柄、なんでも奪いたくなるんでさぁ」


「それはそれは助かるねぇ。じゃあ残りのお猿さんも横取りしてもらっていいかなん?」


 ヒサメがおちょくるように煽る。


 一行の周りを数十頭のヒヒが囲んでいた。それを見てじっとりと汗をかいたドライツェン。


「ふっ、ここは婦女子に譲るのが紳士というものでさぁ」


「はぁ、しっかりしてよ唯一(ゆいいつ)の男子くん。仕方ないからみんなでやるよん。巨樹竜の攻撃が来るかもしれないから霧の揺らぎには注意して」


「了解!」


 四人は一斉に散開した。



「んー同士討ちしちゃいそ」


 濃霧(のうむ)の中、狙撃手のアガウェーは近接主体の三人を撃たないよう慎重に動いていた。愛用の(こけ)色のクロスボウに矢を装填(そうてん)する。


 その時。


「キキィ!!」


「やば!」


 猿に背後を突かれ、とっさに防御体勢に入る。瞬間、鎧の隙間から黒い触手が伸びて敵を貫いた。


「えっえっ?」


 なにが起きたか理解できない。


 その触手——コバコは、ウネウネしながらピースサインを作った。


 その行動にアガウェーはピンとくる。


「もしかして神様の?」


 コバコが親指を立てる。実はまだ姉妹と正式に接触しておらず、今回が初対面だ。


「そうなんだ! じゃあ神様の使いの“神使(しんし)”様って感じだね! 助けてくれてありがと!」


 一人と一匹は、いえーいとハイタッチ。いかにも気が合いそうな両者だ。


 そうこうしている間に猿は全滅していた。


 三人の女達が集合する。


「ドライはどこかなん?」


「やられたのかもね」


 と思ったら少ししてドライツェンが合流してきた。


「げへへ、敵の居場所を見つけてきやしたぜ」


 彼は密かに巨大樹の天辺(てっぺん)付近まで行き、霧を俯瞰(ふかん)してみたという。そこで、霧に(かたよ)りを見つけて近づくと竜の頭を発見したのだ。


「よくここまで帰って来れたねん」


「この犬眷属竜の鼻を使いましてね。三人の匂いは隅々までしっかりと覚えていましたからね。ゲヘヘ」


「…………」


 兜を脱ぎ犬鼻をヒクヒクさせる彼を三人の女はゴミを見るような目で(にら)みつけた。


羨望(せんぼう)の眼差しは嬉しいっすが、早く動かないとまた攻撃が来ますぜ」


 竜には臭樹竜鱗(しゅうじゅりゅうりん)で匂い付けをしたので居場所は把握しているとのこと。


 ドライツェンを道案内に移動を再開する。雑魚竜を殺しつつ進んでいると大きな影が見えた。


「居たっす! 巨樹竜!」


 四人はついに敵の頭部を(とら)えた。


「私とドライは左、姉妹は右から攻めて!」


「了解!」


 素早く二手に分かれる。


 それを岩のように大きな瞳で視認した巨樹竜は胸部を膨らませて、首を横薙(よこな)ぎに振りながら“雪のブレス”を放つ。


「霧に雪とは厄介(やっかい)っすねぇ」


 と言いつつ、各々回避に成功した。当たっても即死の可能性は低いが、吹き飛ばされて壁や木にぶつかるなど二次的な被害はあるだろう。十分注意しなければならない。


「別れて同時に仕掛けるよん!」


 そのかけ声で四方に別れ、頭を狙う。さすがにブレスで全員一気に倒すのは難しいだろう。


 四人の凶刃(きょうじん)が敵に迫る。だが。


「ッ……攻撃が来るよ!」


 ヒサメが叫ぶ。


 敵は、大型船の()くらいある翼を羽ばたかせる。それにより突風が巻き起こり、なすすべなく全員吹き飛ばされた。


「ぐぁぁぁ!」


 全員散り散りになり、視界の悪さもあって上下左右が分からなくなる。ヒサメはなんとか空中で体勢を整えて巨大樹の側面に足を着くと、鉤鱗(かぎうろこ)を幹に刺して難を逃れた。


 しかし、安心したのも(つか)の間、霧が揺らぎ巨樹竜の巨大な左腕が迫る。上部に飛び回避——したと思ったが、敵は手のひらを広げ、丸太のような親指が彼女を追随(ついずい)する。


「クッ!」


 避けきれないと判断して剣を盾にする。が、予想に反して敵の攻撃は当たらなかった。


 見ると、敵の指が斬り落とされていた。


「な、なに!? 敵の指が飛んだのん!?」


 ヒサメは目を見開き喫驚(きっきょう)した。


 近くで受け身をとっていた姉妹は気付く。


「神様だよ!」

「神様だ!」


「は、はぁ? 何を言って……う、嘘でしょ?」


 こんな時に素っ頓狂な発言をする姉妹に混乱するヒサメ。分かるのは敵と戦う何かがいるということだけだった。

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