第41話 遠征3・混合竜
姉妹が棘地帯で戦っていた時より、少し時間が遡る。
棘地帯北側の樹上にリンドウは居た。
(あれは……混合竜か?)
眷属竜には“混合竜”と呼ばれる二種以上の竜の血が混ざった個体がいる。通常、二つ以上の違う種の竜血が混ざれば血液同士が拒否反応を起こして死に至る場合がほとんどだ。
だが、稀に体が順応して生き残る場合がある。そうなれば竜の特性を混ざった数だけ引き継ぐ。例えば樹竜と鉱石竜の血なら蔓と固い鉱石の鱗が生えたりする。
リンドウの視線の先には、その混合竜らしき竜がいた。
——爬樹型猪混合竜キメラオーク。爬虫類の鱗、樹竜のツル、両生類のヌメヌメが特徴のブタ風の竜。樹型猪眷属竜グリーンオークそっくりで、見分けるのは学者でさえ困難を極める——
リンドウの観察眼を持ってしても両爬竜の血を引く混合竜かどうかを見分けるのは難しい。そもそも竜全般が爬虫類そっくりなわけで両爬の存在は、軟水と硬水を目視で識別するのと同じくらい困難で、とてもめんどくさいのである。
リンドウが疑問に思い、足を止めたのはグリーンオークを一度見ていたためで、そうでなければ何の疑念も持たず瞬殺していただろう。
(……どうでもいいか)
「ブビィ!」
結局、瞬殺した。
それからすぐに棘樹竜の群れと接触。数分後、彼の周りには竜の死体の山が築かれていた。
(雑魚は粗方片付いたな。あとは……)
視線の先、苔色の竜がこちらを睨みつけていた。
——防樹竜ギンピギンピ。徒竜。二足歩行。盾を付けたような幅広の両腕で防御する。起毛のような小さな棘を体中に有しており、人間が素手で触ると三日三晩のたうち回って死ぬ——
リンドウの所見では、あの太い腕で攻撃を防御して、ツルで絡めとって捕縛や殺傷を行うと踏んでいる。
この敵はリンドウにとって相性が良い。なぜなら一撃確殺の“竜殺しの血液”があるので、いかに硬い防御をしようとも苦もなく破壊できるからだ。
(久々に使っておくか)
目に力を込めると一瞬で【血涙】が流れた。それを漆黒に染まる爪で拭い取る。
「ギピピピ!」
敵が尻尾を地面に叩きつけて威嚇したと同時、リンドウは砂煙を置き去りに一瞬で間合いを詰めた。
その圧倒的速度に竜は驚嘆するが、すぐに両腕を交差させて防御の体勢に入り、さらに魔法で硬度を上げた。
だが、血を使うリンドウにとってそれは布切れと同じ。
「ギニィィ!!」
研ぎたてのナイフで紙を切るかのごとく容易に敵を両断した。飛び散る内臓と血の雨を浴びながらリンドウは振り返る。
そこには死んだ防樹竜の他に数多の竜の死骸と血の池。姉妹や他の人間の知らない神のみぞ知る世界が広がっていた。
◇
二日目の行軍が終わり、紅一点ならぬ紅三点の三人は木の虚で談笑していた。
兜を脱いだアガウェーが内巻きの赤毛を揺らしながらヒサメの剣を物珍しそうに観察し始める。
「ヒサメさんの剣って独特な形してるよね」
「ふふん、かっこいいでしょ? 大陸北西にある水棲竜の生息地に寄った時に旗魚竜を倒して、キュクロに作らせたのよん。名付けて氷桜! 世界にたった一つの私の専用武器だよん!」
「きゃーかっこいー!」
その適当な合いの手に、ヒサメはポニーテールを解いた青黒いロングヘアーを背中に流しながら得意げな顔をした。
「氷桜は腹にぶっ刺して内臓を引きずり出すのが快感なんだよん。花が散るように血がブシャーって出るの!」
「あはは、楽しそー!」
物騒な話をしている隣で姉アップルは遠征道具を整理していた。
保存食、竜皮水筒、素材保存用琥珀竜鱗、鷹竜望遠鏡、巻耳竜鉤鱗、薇竜鞭、竜皮外套、光茸竜鱗、ナイフ、薬、妖精印の地図、磁鉄鉱竜方位磁針。などなど。
基本的に誤爆しやすい武具は携帯していない。火や煙、音が発生すればたちまち竜を集めてしまうからだ。
「あ、その妖精印の地図、私も持ってるよん」
ヒサメが横から荷物を覗き込む。
「これ良いですよね。最近見つけて気に入ってます」
アップルが真面目な口調で答えた。
「それ、知り合いの“テイル”という男が描いたんだよん。国御用達の職人の地図より細かくて分かりやすいから重宝してるんだ」
「へぇ、どんな方なんですか?」
「ただの無愛想なお兄さんだよん。運び屋しながらお宝を探してるんだって。まぁ、しばらく会ってないから死んでるかもだけど」
反応しづらい言葉にアップルが恐る恐る相槌を打とうとすると、じっと黙っていられない妹アガウェーが無理矢理割り込む。
「そういえばヒサメさんの遠征参加の目的ってなーに?」
「みんなのお守りだよん。過保護なお兄さんに頼まれてね」
「キュクロさんかー。口は悪いけどホント甘いよね。そこがいいとこなんだけどね」
「あはは、そんなこと言ってると殴られるよん」
「大丈夫! いつも殴られてるから!」
そりゃダメだろ、と姉は呆れた目をしながらアガウェーの頭をチョップした。
それからも話は盛り上がったが明日に響くので終わることにした。
「そろそろ休もっか。明日はいよいよ目標の巨樹竜が居る“巨大樹地帯”だよん。気を引き締めていこ」
「おー!」
明日に備え、一行は床に就いた。




