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【完結】竜殺しのリザードマン 〜竜に支配された世界で自分だけ“竜殺し”の力を手に入れて“劣等竜リザードマン”になった男の逆襲物語〜  作者: 一終一(にのまえしゅういち)
第2章 懸賞首狩り編

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第40話 遠征2・棘地帯

 遠征二日目。ここまで死傷者ゼロという順調な部隊は、新たな危険区域に突入しようとしていた。


 (とげ)地帯。アマゾ大森林の中心付近に広がり、棘の生えた植物が群生している。中級者の壁ともいわれ、動作しにくく、竜も強いここが上級狩人(かりゅうど)との境界線なのである。


 右翼を(にな)う金髪で黄鎧の優男(やさおとこ)リンクスは棘を切り払いながら疾走していた。


「リンクス隊長! 部隊の一人が南東で棘樹(とげじゅ)竜に見つかり交戦に入りました! いかがなさいますか!?」


「少々厄介(やっかい)な相手ですね……ふむ」


 この急造の部隊は猛者(もさ)が揃っているとはいえ個人差が大きい。遠征の条件がチームで十頭なので、当然末端(まったん)には荷物持ちに毛が生えた程度の雑魚も混ざっている。さらに軍隊と違って練度も低い。


 リンクスは内心肩を落とし、重い口を開く。


「仕方ありません。私が直接対処に当たります。貴方は他の部隊に合図をお願いします」


「了解!」


 移動したリンクスは、部隊員三人が交戦しているところに割って入った。


「リンクスさん!」


「私がやります。皆さんは援護と周囲の警戒を」


 半身になり、黄色の槍“蜂竜針槍(はちりゅうしんそう)”を構える。


「ボルルルル!」


 低く(うな)威嚇(いかく)するのは全身棘に(おお)われた暗緑(あんりょく)色の四足歩行の竜。


 ——棘樹(とげじゅ)竜カクタス。徒竜。頭から尻尾の先まで鋭い棘に覆われていて視線やブレスなどの動きが読みにくい——


「敵は棘を飛ばすので油断なさらないように。それと厄介なのはカウンター魔法です」


 棘樹竜は攻撃をくらうと同時に体の針を伸ばして串刺しにしようとする。骨を切らせて肉を断つタイプだ。


「おや、よく見ると翼が一枚折れていますね」


「あ、それは俺がやりましたぁ!」


 横にいた一人が元気よく手を挙げる。


「よくやってくれました。これなら楽にやれます」


「でへへ」


 リンクスは敵対派閥のヴェステン以外には優しくて人気が高い。ヒヨコのような繊細な髪に宝石のような琥珀(こはく)色の瞳など、見た目の良さもそれに拍車をかけている。


 そんな絵になる男、リンクスが動く。素早く腰から数本ナイフを取り出して投擲(とうてき)


「ボルゥ!」


 敵は当たる瞬間に棘を伸ばして落とす。


 その間に彼は飛んでいた。太陽と重なり、敵から見えにくくなる。


 竜は首を持ち上げ視認しようと試みる。


 だが、リンクスは(とら)えられる前に瞬時に槍を真下に投げて敵の脳天を貫いた。追い討ちをかけるように槍の()の先に着地。


 竜は痙攣(けいれん)し、動かなくなった。


 ナイフで反応速度と棘の伸びる長さを把握、敵は棘の射出と伸縮を同時にできないことは知っていたので、上空からの一撃で仕留められたのだ。


「ふむ、体感では分からない疲れが出ていないか心配でしたが、まだまだ大丈夫のようですね」


「さすがリンクスさん!」


「いい前哨(ぜんしょう)戦になりました。この調子で酸樹(さんじゅ)竜を狩りましょう」


 リンクスは平然と槍を抜き、血を払って先へ進んだ。



 リンクスが竜と戦っている一方で、フラズグズル姉妹も棘樹竜カクタスと交戦していた。


「ボルルルル!」


「させないよっ!」


 竜が飛び上がろうとした刹那(せつな)、アガウェーが放ったクロスボウの矢が両翼を貫く。矢羽に(くく)り付けられていた樹竜のツルが(から)まり飛行を(さまた)げる。


 その隙にアップルはナイフを相手の体に投げ、棘を伸長(しんちょう)させる。そして裏に回り込み、(あか)き大剣“ガーネット”で首を()ね飛ばした。


 敵は複数箇所を攻撃された場合、伸ばす棘が短くなる癖をアップルは見抜いていたのだ。


「うーん、悪くはなかったけどもう少し早く倒せたよね。射角(しゃかく)が気に食わなくて狙撃地点変えちゃってごめん」


「だな。私の方も悪かったよ。お前が撃ちやすい地点に誘導できたはず。もっと敵の心理を読まなくてはな。それよりそのクロスボウ良かったな」


「うん、ツルで重心が後ろになるから威力と射程は落ちるけど翼を貫くには十分だったよ。樹竜のツルは現地調達出来るし汎用(はんよう)性が高くていいよね」


「何だこいつら」


 何も出来ず、側で見ていただけの汚い男ドライツェンは、ベテラン狩人のような二人のやり取りに若干引いていた。


 そんな中、同じく竜と戦っていた部隊長ヒサメが合流した。


「二人ともよくやったねん。君達が遠征についてこれるか心配していたけど杞憂(きゆう)だったようだね」


 青い瞳を光らせて(すず)しい顔をしたヒサメの背後には、竜の死体がいくつか転がっていた。血が(したた)る彼女の剣にはノコギリ歯のような刃が付いている。


 旗魚(かじき)水竜の鼻細(びさい)剣“氷桜(ひおう)”。旗魚水竜の(とが)った鼻から作られたヒサメ専用の細剣。斬るというより(えぐ)る。腹にぶっ刺して内臓を引きずり出したりできるのだ。


 ちなみに氷桜の名はヒサメが付けた名前である。腹から氷のような薄青(うすあお)色の剣を引き抜いた時、血飛沫(ちしぶき)が桜の花に見えるところから。


「ふ、ふん女にしてはやるねぇ。女にしては」


 一人だけ何も出来なかったドライツェンが強がる。


「じゃあ次はドライさんの戦いぶりを見せてもらおうかなぁー?」


「ふっ、やめておきな。血を見ることになるぜ。あっしの」


 ドヤ顔。三人の白い目も彼には暖簾(のれん)に腕押し。


 その時、光茸竜鱗(ひかりたけりゅうりん)の発光による合図が視界の端をかすめる。


「リンクスの方も倒したようだねん。にしても北側にいた竜の群れの気配がごっそり消えたみたいだけど何だったんだろ?」


 ヒサメの言葉を聞き、姉妹は顔を見合わせて微笑(ほほえ)む。


「それはね、神の御業(みわざ)だよっ!」


「……え?」


 自信満々の二人の表情にヒサメとドライツェンは頬を引きつらせた。

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