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【完結】竜殺しのリザードマン 〜竜に支配された世界で自分だけ“竜殺し”の力を手に入れて“劣等竜リザードマン”になった男の逆襲物語〜  作者: 一終一(にのまえしゅういち)
第2章 懸賞首狩り編

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第37話 ケイオスの心臓キュクロ3・アップルの剣

 ポルスタとアップル、アガウェー姉妹の親子喧嘩の後。


 キュクロは通路の壁に寄り掛かり、早鐘(はやがね)を打つ心臓を静めるように胸を撫でる。(がら)にもなく説教してしまった。今みたいにたまに熱くなってしまうのはドゥワフ(親父)譲りだなと鼻で笑う。


「まったく、気が休まらねぇな。こりゃ劣等竜の言う通り早死にしそうだな」


 そういえば名前を聞いていなかったと思い出す。聞いても恐らく教えてくれないだろうが。ふと、キュクロは“爬王(はおう)物語”の主人公を思い出した。


「……リザードマン、ってか」


 もうそれでいいか、と適当に決め、アクビをしながら作業場へ戻る。工房の前に来ると、アップルが気まずそうに立っていた。


「あ、キュクロさん……その、剣が折れてしまって……」


 申し訳なさそうな顔をしながら剣の抜け殻((さや))を差し出す。爆樹(ばくじゅ)竜との戦いで折れてしまったのだ。


「なんだそんなことか。新しいのやるから工房に来い」


「良かった! 断られるかと思って」


「そんなわけないだろ。さっきてめぇの覚悟を見た。人を救う武器なら嬉々(きき)として作るさ」


「……ありがとう!」


「言っとくが、出世払いだぞ」


「う……善処(ぜんしょ)する」


 若干、縮こまったアップルと工房へ。竜骨で出来たくすんだ扉を開くと熱気が噴き出してきた。


 竜器を着込んだ者達が一心不乱に武具を作っている。()から吹き出す火と鍛冶師達の奏でる金槌を振り下ろす音が耳に心地よい。


「ほら」


 キュクロは奥に立て掛けてあった剣を放り投げた。


 アップルはそれを掴み、(さや)から抜く。抜き身のそれは半透明で、紅い刃が(きら)めいていた。


「これは、柘榴(ざくろ)鉱竜の?」


「そうだ。鉱石竜の鱗のほとんどは半透明で目を保護するレンズに使われるが、硬度の高いものは剣や盾に使われる。その中でもこいつは一枚の鱗を丸々加工して鍛えた一振り。ムラがなく、強度も完璧だ」


 柘榴(ざくろ)竜剣ガーネット。その美しさから宝石の名を与えられ、竜器使いから人気が高い。とある名剣士がこれを使っていたため逸材が使うものという印象が付き、いつしか剣自体が一流の使い手の証となった。


「てめぇの使ってた蚊竜(かりゅう)の剣は軽くて筋力のない奴でも扱いやすいが、デカい竜を斬るには向いてない。そもそも対竜用に渡したわけじゃないんだがな」


 元々護身用に渡されたのを思い出し、アップルは目をそらす。


「その点、この剣は幅広で竜の一撃にも耐える。少々重いが今のてめぇならすぐ使いこなせるだろ」


「そんな貴重なもの、良いのか?」


「先行投資だ。てめぇらには期待してんだよ。すでに実績も十分あるしな。いつかその剣がてめぇの象徴と呼ばれるような一流の剣士になれよ」


「ありがとう。善処する」


「おう。強い竜を倒したらキュクロ様の武器は世界一と宣伝するんだぞ」


「ぼったくりと言えばいいんだな」


 拳骨(げんこつ)が落ちた。


 直後、背後の扉が開いて涼しい風が舞い込む。


「あ、お姉ちゃんいたいた!」


「アガウェーか。どうした?」


「ヴェステンさんが修練場使っていいって! って、あれ? その剣は?」


「あぁ、この前折れた武器の代わりにくれたんだ」


「えぇ!? お姉ちゃんだけズルい! ……ハッ、さては贈り物的なやつでお姉ちゃんの気を()こうとしてる!?」


 アップルの拳骨(げんこつ)が落ちた。



 犯罪迷宮都市ケイオス内、第三出入口前にある修練場。


 ヴェステンの管理するこの場所は、迷宮内にも関わらず木々が生い(しげ)り森のようになっている。真ん中には遺跡のような古い石造りの建物があり(つた)が巻き付いている。太古の先住民の住居らしいが真相は分からない。


 ここを修行場にするのは、森での戦闘の模擬訓練ができることと、出入口付近なので戦闘員が頻繁に出入りすれば、見張りの役割も果たしてくれるからだ。


 せっかくヴェステンの許可が降りたので姉妹とキュクロは竜器を着込んで新武器を試用することにした。


「じゃ、いっくよー!」


 アガウェーは腕を振りかぶり、剣を構えるアップル目掛けて石をぶん投げた。


 まっすぐ目標に飛来。妹は、射撃の腕もさることながら投石技術も才能が光る。

 

「あいたっ!」


 空振り。アップルの兜に直撃した。


「もーお姉ちゃん、全然ダメじゃーん!」


「クソッ……!」


 何度やっても石を斬れない。爆樹竜の敗北が尾を引き、己の剣技に響いているのだと気付く。


「……アガウェーは凄いな。もう立ち直って」


「何言ってんの。あたしは元気だけが取り柄なんだからいつまでもクヨクヨしてられないよ!」


 ニヒッと笑う妹の元気が羨ましい。と、アップルは思った。


 見かねたキュクロが口を挟む。


「迷った時は自分の夢を思い出せ。叶えるために必要なことを考えれば(おの)ずと道が見えるもんだ」


 自分の夢、それは父ポルスタを助けること。


 成し遂げるためには強くならなければ。


 あの時、爆樹竜に殺されかけた。だが死んではいない。


 これはピンチか、否、チャンスだ。


 ——そう、神様に好機を与えてもらった。


「喰らえ! 連続投げ!」


 ——ならばそれを生かすのみ。


 アップルは、飛来する数個の石すべてを真芯(ましん)(とら)えて斬り落とした。


「やっるぅ!」


 アガウェーは自分のことのように喜んだ。


 ——そうだ、妹やキュクロさんの助けもある。


 ——自分は一人ではない。この剣で皆と戦い守ってみせる。


 そして、アップルの迷いはなくなった。


「さぁて、オレもやるか」


 キュクロも竜衣と竜鎧を着込んでやる気満々だ。


「えっと、キュクロさんって戦えるの?」


 アガウェーは疑惑の目で見つめる。


「オレは竜器作りの第一人者だぞ? 癖から弱点まで把握してんだ。ガキに負けるわけがねぇ」


 その後、彼がボコボコにされたのは言うまでもない。

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