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【完結】竜殺しのリザードマン 〜竜に支配された世界で自分だけ“竜殺し”の力を手に入れて“劣等竜リザードマン”になった男の逆襲物語〜  作者: 一終一(にのまえしゅういち)
第2章 懸賞首狩り編

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第33話 血樹竜ドラセナドラコ戦

 多種多様な果実が()る旧果樹園地帯にてリンドウと血樹(ちじゅ)竜ドラセナドラコが対峙(たいじ)する。敵は爆樹(ばくじゅ)竜の自爆によっておびき寄せられてきたのだ。


 リンドウは、妹アガウェーに姉アップルと隠れるよう、首を振って指示する。姉妹には荷が重いと歴戦の勘が伝えていたため、自ら戦うことにした。目の前の赤眼の竜と(にら)み合う。


 ——血樹竜ドラセナドラコ。徒竜。角張った漆黒の鱗と尻尾を持ち、黒くて長い触手のヒゲがある。血を操る魔法を使う——


「ガルルル!」


 (うな)り声を上げ、尻尾を地面に叩きつけて憤怒(ふんど)している。爆樹竜の自爆音のせいで興奮しているのだ。


 リンドウは、冷静に観察する。


(周囲は葡萄(ぶどう)色に染まる水たまりと果実だらけ。血液使いとしては絶好の狩場か)


 よく見なければ血と果汁を見分けるのは難しい。が、それは人間の場合であり、感知と観察眼に優れているリンドウは容易(ようい)に見分けられる。その他にも色んな種類の果実が実っており、これもまた撹乱(かくらん)されそうであった。


 地形を把握していると、痺れを切らした血樹竜が動き出した。


「ガルァ!」


 叫ぶと同時、体の周囲を渦巻いていた血が(とが)り、無数の針を形成する。それらがリンドウ目掛けて飛来する。


 ワンステップで横に回避。しかし、飛針(とばり)は魔法の力で直角に曲がって追尾を続ける。鉤爪(かぎづめ)ではたき落とそうと試みるが、切ったと同時に液状化した。それが一瞬で針に戻り、再びリンドウに迫る。


(チッ!)


 紙一重でバックステップでかわし、迷宮樹の裏側に回り込んで難を逃れた。


(血は液体固体気体に変化できると見るべきだな)


 自由自在に変化する血液を避けながら接近するのは至難の業だろう。


 リンドウは、倒す算段を立てる。まず、敵の弾切れまで戦うのは分が悪い。弾が切れると飛行して逃げるだろうし、さっきの爆発音で他の敵が寄ってきている可能性が高く、あまり時間は掛けられないからだ。


 自身の血を使うべきだろうが、姉妹に目撃されるのは不味(まず)い。コバコに目隠しをさせ、その間に倒す手もあるが、血の使用跡を処理する時間がない。


 それならば、もう一つ浮かんでいる策を優先する。


(上手く行くか……いや、俺ならできる)


 不安は失敗を(まね)く。自信こそが成功を導く。経験で知っているこの男は、自分を信じて突き進む。


 思考が終わり、木々を縫うように走り出して竜との距離を詰めていく。


「ガルッ!」


 再び血の針が横殴りの雨のように襲い掛かる。その瞬間、リンドウは大口を開け“毒”を噴射した。


 能力【毒射(どくしゃ)】。


 ——ドクハキコブラは口から毒を噴射して天敵を撃退する——


 毒と血の針が衝突する。それらが混ざり合い、一瞬で凝固した。地面に落下し、ボトボトと粘着質な音が響く。


(よし!)


 リンドウの飛ばした毒はただのヘビ毒ではない。“自身の血液を混ぜた毒”だ。


 彼は密かにどれくらい血の濃度を減らせば竜を溶かせなくなるのかという実験をしていた。その過程で血と他の液体を一対一の割合で混ぜれば魔法を“かき消す”のではなく、“(はじ)く”ようになるということを知った。


 それをこの土壇場で思い出し、体内で血と毒をぶっつけ本番で混ぜた。そして、衝突したこちらと敵の血が弾き合い、混ざって落下という完璧な結果をもたらしたのだ。


 敵から見たら魔法のブレスを使っているように見えるし、姉妹達から見ても何らかの技を使っているように見えるだろう。さらに落下した血の効果もすぐに消えるので処理をしなくても良い。この場では打って付けの技というわけだ。


「ガルァ!!」


 無効化された魔法に(いら)立ちを見せる血樹竜。


 両者の毒血(どくち)と血の撃ち合いが続く。敵は、毒が足元を(かす)めるたび、それを嫌がるように横へ横へと移動していく。

 

 そして、竜の周囲に浮遊する血が減少したと感じ始めた時だった。近くに転がっていた葡萄(ぶどう)樹竜の死骸(しがい)の血が浮遊し、血樹竜は弾を補充した。


(当然、死体の血も操れるか)


 ガーラ大迷宮で戦った赤眼との戦いで死体に魔法が効くことは既知(きち)の事実。当然、リンドウの頭にも入っていた。ゆえに焦燥(しょうそう)はない。さらにそのお陰で一つのヒントを得た。


(こいつ、一切自分の血を使っていないな)


 初めから体の周囲を渦巻く血も恐らく他の生物から奪ったものだろうと推測した。つまり、まだ“本気ではない”ということ。


 勝ち筋の見えたリンドウは、一気に動く。


 (むし)り取った自らの黒い鱗を、血樹竜と、その上部に投擲(とうてき)


 敵本体に向かった鱗は血で難なく弾き落とされたが、本命は上。頭上に実っていた複数の巨大なヤシの実が切断され、中の液体が(あふ)れ出る。


 リンドウは、闇雲に毒血を射出していたわけではなく、毒を足元へ撃つことで敵がヤシの真下に来るように誘導していたのだ。


 そうとは知らず、油断していた竜の全身に甘い液が滝のように降り注ぐ。


「ガァ!?」


 それが血と混ざり、血液操作が上手く作動しなくなった。


 血樹竜は、血を操れるが“液体を操れるわけではない”のだ。リンドウは毒血の他に何も混ぜていない毒を撃ったことでそれに気づいた。


 そして果実内の液体と混ざり、薄くなり過ぎた血の操作がおかしくなるのは自明の理。さらに視界を塞ぐ効果もあり、数瞬(すうしゅん)、敵の視線が切れる。その隙をリンドウの鋭い一撃が埋める。


 一閃。


「グガガ、グギィ……!」


 血樹竜の切断された首がゆっくりと地面に落ち、続いて血を吹き出しながら体が横転。そして絶命した。


慢心(まんしん)したな。奥の手は使えなければ意味がない)


 血液は生命を維持する上で重要なものだ。ゆえに自身のそれを武器として使うにはリスクがあり、使用を躊躇(ためら)うのも無理はない。だからといって温存しても死んでしまったら意味がないのだ。


 リンドウは自身が血を使うからこそ弱点を知っていた。その考察の差が結果に出たのである。


(ふぅ、苦もなく勝てた……が)


 竜が飛行する前に倒す。これが一番良い倒し方なのだろう。と、今回の戦いでよく分かった。だが、これではリンドウを敗北に追い込んだあの衛竜には勝てない。警戒心が強く、森への誘いにも乗ってこない奴を倒す何かが必要。しかしそれが何なのかは(いま)だ分からない。


(俺もまだまだ未熟だな)


 それでもリンドウは諦めない。負けたまま満足するほどできた男ではないのだから。

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