第30話 ポンコツ姉妹の戦い1・二人の才能
「じゃあハーンさん行ってきます!」
懸賞首狩人集会所、通称ギフトに来ていたフラズグズル姉妹は、時間を見計らい、受付係に挨拶をして席を立つ。これからリンドウと共に竜を狩りに行く予定だ。
「待ってくれ、二人にいい情報がある。“遠征”についてだ」
その言葉に姉アップルが反応する。
「遠征……確かいくつかのチームと組んで遠方へ調査兼竜を討伐するっていう?」
「その通り。それで今回の討伐対象に“巨樹竜バオバブ”が含まれているんだ」
巨樹竜は姉妹の求める父親の病を治すための素材の一つを持っている竜だ。
「ほ、本当か!? それは絶対に同行したい!」
「ただ参加条件があって徒竜以上を十頭倒しているチームじゃないとダメなんだ」
顔をしかめるアップル。
「くっ、あと九頭か……期限は?」
「三日後だ」
「う、急だな」
「メンバーが十分揃ったからね。出発まで余分な人員も募集しているからそこにどうにか食い込めって感じだ」
「むぅ、難しいな」
「大丈夫だよお姉ちゃん! 九頭くらいサクッとボコろう!」
妹のアガウェーが力こぶを見せつける。簡単に言ってくれるな、と姉アップルは眉をひそめるが、カミサマが居ればできそうという気持ちもあった。
「それと“血樹竜”の目撃情報があったから掲示板に貼っといたよ。旧果樹園の方らしい。討伐数稼ぎのついでに探してみるといいよ」
「血樹竜も!?」
その竜も姉妹が探している薬の材料の一つを持つ希少な一頭だ。
「ああ、血を自在に操るらしいから気を付けるんだよ」
「分かった! お姉ちゃん、急いで神様に報告に行こう!」
◇
リンドウが竜巣潰し中に、衛竜である骸樹竜スナップドラゴンに敗北した後。朝方に犯罪迷宮都市ケイオスの前に戻り、仮眠をとって姉妹が来るのを待っていた。
昨日は敗北の後に姉妹の探している“血樹竜の樹脂、巨樹竜のヒゲ、爆樹竜の黄金の種、天樹竜の羽”を持つ竜を探したが見つからなかった。どれも希少な竜らしく滅多に会えないので仕方ない。
ちなみにねじ切られた右腕は八割ほど再生している。
相棒コバコは、自身の触手を木にくくり付けてセルフ縄跳びをしていた。修行のつもりらしい。
それを横目にアクビをしながら二人を待っていると、ちょうどケイオス第四出入口より姿を現した。
「うぅ、頭打っちゃった。この出入口ってちょっと狭いよねぇお姉ちゃん」
「我慢しろ。狭い方が竜が入って来れないからいいんだよ」
錆色の全身鎧を着込んだ姉妹は一度背伸びをした後、きょろきょろと辺りを見回す。妹アガウェーは両手の指を絡ませて祈るような仕草で明後日の方向にペコリと頭を下げた。
「神様、どうか今日もあたし達をお護りください」
姉アップルの方は腕を組み、流し目で森の奥を見ている。いかにも自分は神の居場所を分かってますよ、という雰囲気を漂わせていた。
が、残念ながら神は真逆にいた。リンドウは鱗を投げて姉の兜に当てる。
「あでっ!」
アップルが兜をさすりながら鱗を拾う。そこには『北東に向かえ』と書かれていた。
「わーい! 神の啓示だぁ! かみさまー今度お祈りにいきますねー! あいたっ!」
二枚目の鱗には『大声を出すな』と書かれていた。
「意外に字下手だな、あでっ!」
無言の三枚目が姉アップルに直撃した。
その喜劇みたいなやり取りにコバコがヤレヤレと肩を竦める。
そんなこんなで愉快な仲間達の冒険が始まった。
姉妹は北東方向に道なき道を進みながら遠征についてリンドウに話した。
(あと徒竜を九頭か。俺がやるなら問題ないが)
なるべく姉妹に戦わせたい。なので、期間ギリギリまで二人にやらせて、間に合わないならリンドウが足すことに決めた。
道の先、一頭の眷属竜を発見。
——樹型猪眷属竜グリーンオーク。元は猪。樹竜の眷属。四本のツルを持ち、苔色で植物っぽい豚ワニ——
「な、なんか強そうなの出てきたよお姉ちゃん」
「うろたえるな愚妹。ここは戦略的撤退——あでっ!」
『戦え』との啓示。
「神様の言うとおり戦おうよ。少しずつ慣らしていかないと」
「う、うむ、冗談だったのだが神には通じぬよう——ひぎぃ!」
鱗が直撃して舌を噛んだアップル。バチが当たるとはまさにこのことだ。
気を取り直し、リンドウは文字を書いた鱗を何枚か投げて指示を出す。二人はそれを読み、覚悟を決めて動き出した。
眷属竜は基本的に獲物を見つけたら襲うようになっている。今回は見つかった場合を想定して戦う。
さっそくアップルは草場から飛び出し、わざとグリーンオークに見つかった。
「グガガ!」
敵は獲物を見つけて喜んでいるのかヨダレを滴らせながらアップルを値踏みする。
その間にクロスボウを担いだアガウェーは素早く狙撃ポイントへ移動。狙撃手は地形を瞬時に把握して最適な場所に陣取らなければならない。
彼女は頑丈そうな木を見つけると、竜衣で身体強化して軽々と登り、素早くクロスボウを構える。
頭は狙わない。マトが小さく、外す可能性が高いからだ。狙うは腹。外れてもどこかには当たるという目論み。
「グガガァ!」
オークがアップルに向けて突進する。
彼女は両眼を見開き、それをしっかりと見極めてかわし、同時に相手の腱を切り裂く。
オークは息を詰まらせ、片膝を着いた。
「今なら!」
木の上に陣取ったアガウェーはその大きな隙を見逃さず、しっかりと敵を捉えて引き金を引いた。矢は軌跡を描きながら敵の中心へ。刹那、オークの腹の肉を穿つ。
「グガアッ!」
敵は傷を押さえるため、前かがみになり首を晒した。その隙を見てアップルが動く。
「死ねっ!」
足に力を込めると竜衣が呼応し、驚異的な力を生んで加速した。すれ違いざまにオークの首を刎ね飛ばす。着地と同時、首を失った肉塊から血が吹き出し、ゆっくりと倒れて土煙を上げた。
「やったね!」
アガウェーが急いで姉の元へ駆け寄る。
「愚妹のおかげだ」
二人は拳を突き合わせた。
(妹は狙撃の才能があるな。樹上の不安定な足場で正確に腹の中心を射抜いている。姉は剣の腕もさることながら、何より胆力がある。竜と対峙したら普通は腰が引けるがそれがない)
かみ砕いて言えば本番に強い。練習と同じ動きを本番で完璧に再現できる者はそういない。まして命を賭けた場面では尚更だ。竜戦、引いては人生において大事なものの一つだ。
「お姉ちゃん、オークの首、あたしが切ろうか?」
討伐証明に首を持って帰らないといけないのだ。
「眷属竜の首は要らない。ギフトの規定で金にならないようになってるんだ」
「そうなんだ? なんで?」
「うーん、雑魚だからじゃないか? まぁ、なんにせよ遠征には徒竜以上を狩らないといけないから余計な首を持ち帰る余裕はないぞ」
「そっかぁ、ざんねーん」
死体を放置して、一行は北東へさらに進んだ。道中、様々な眷属竜と戦い、姉妹は順調に経験値を貯めていった。少し敵の数が多い時は神様と神使がこっそり減らしていった。
そして姉妹達は、太陽が南に昇りきる直前、新たな地へたどり着いた。




