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【完結】竜殺しのリザードマン 〜竜に支配された世界で自分だけ“竜殺し”の力を手に入れて“劣等竜リザードマン”になった男の逆襲物語〜  作者: 一終一(にのまえしゅういち)
第2章 懸賞首狩り編

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第27話 犯罪迷宮都市ケイオス2・キュクロとポルスタ

 ケイオスは縦に広がる迷宮都市だ。ギフト本部のある一層を含む下に三層まである。一層は荒くれ者が多く、二層はもっと荒くれ者が、三層はもっともっと荒くれ者が住んでいる。下に行くほど無駄に権力を持った毒の塊みたいな奴が多くいるのだ。


 商業区は一層の西の奥に位置している。


 アップル、アガウェー姉妹が通路を移動していると香ばしい匂いが漂ってきた。立ち並ぶ露店の店主は皆ガタイが良く、竜器を着込んでいる。ケイオスは、常日頃から軽犯罪や“事故”が多発しているので自衛のため武装していなければならないのだ。


 姉妹が空腹に耐えながら道を進んでいると、奥の壁際に(いか)ついとり巻きと共に座っている深い茶髪の男を見つけた。


「キュクロさん!」


「……おう」


 気怠(けだる)げに手を挙げて挨拶するキュクロ。耳が隠れるほどの長さの髪で、左目に黒い眼帯をしている。冷徹な瞳を持ち、雰囲気的には狼を彷彿(ほうふつ)とさせる。


 天才鍛冶師である彼はケイオス三大派閥の一つの筆頭であり、竜器鍛冶師達のまとめ役としてそれなりの権力を有していた。姉妹とその父親は彼の庇護下(ひごか)にあり、クズ達の吹き溜まりでも安全を保障されているのだ。


「さて」


 キュクロはおもむろに立ち上がり姉妹の前に立つ。そして両手を振り上げると二人の頭に拳骨(げんこつ)を落とした。


「ひぎゃ!」

「いたっ!」


 二人が勝手に外出したことは既にキュクロの耳に入っていた。


「だぁれが外に出ていいっつった?」


「だってぇ……竜器があるから大丈夫だと思って」


「てめぇらに渡した竜器は自衛用で狩りのためじゃねぇんだよ」


「うぅ、ごめんなさい! 許して!」

「私も心配を掛けてしまった申し訳ない」


 二人は縮こまり、頭を下げて反省した。


 キュクロは大きく息を吐く。


「ま、生きて帰れて良かったな。どうせ竜にビビって直帰(ちょっき)したんだろ。これに懲りたら大人しくしてろ」


「ううん、倒してきたよっ!」


「はぁ? 嘘つくなよ」


 姉アップルが口を開く。


「本当だ。受付のハーンさんに聞けば分かる。それにほら報酬もある」


 キュクロは袋の中身を確認し、またため息を吐く。


「こいつは驚いたな。……まさかこれに味をしめてまた討伐に行く気じゃないだろうな?」


「もちろん! 心配しなくても大丈夫だよ! 神様が付いてるからね!」


「んあ? 神様?」


 キュクロは、いきなりの素っ頓狂な言葉に虚を突かれる。


「どっかから、この鱗をシュバーンって投げて助けてくれたの!」


 キュクロは漆黒の鱗を渡された。表裏を交互に眺める。


「見たことない鱗だな。そいつ信用できるのか?」


「多分大丈夫! ピンチの時に助けてくれたもん! あ、それと神様からおつかいを頼まれてたんだった! キュクロさんに竜の翼を作って欲しいんだって!」


「断る」


「はやっ!」


「ガキにおつかいを頼み、自分は高みの見物、(あまつさ)えカミサマと名乗る胡散臭い(やから)に振るう腕はない」


「たはは、ですよねー……」


 アガウェーは頬をぽりぽり掻いて困った表情を浮かべる。


「そいつに伝えとけ、直接来いってな。それとあんまり深入りするなよ。そいつは多分詐欺師だ」


 リンドウのあずかり知らぬところで散々な言われようだった。


「さてと、どうせ止めても竜退治に行くんだろうし今度から外に行く時はオレに声掛けろよ」


「あー束縛だー? ……ぎゃあっ!」


 拳骨がアガウェーの上に落ちた。


「じゃあオレは工房に帰るがこの金は貰うぞ」


「えっ、うっ、竜器代?」


「ご名答。出世払いのつもりだったが早々に成果を出すとはなぁー。助かるねぇ」


 キュクロは手を軽く挙げて大袈裟に喜ぶと、お釣りに数枚の貨幣をアガウェーに渡す。


「こ、これだけぇ!? お慈悲をぉ!」


「神様とやらに頼め」


「うわーん!」


 彼女は大袈裟に頭を抱えて肩を落とした。


「……と言いたいが初討伐だからな祝いにオマケしといてやるよ」


 姉妹に追加で数枚の貨幣を握らせた。


「ありがたく使えよ。『キュクロさんにお恵みいただきました大切なお金で食べるご飯は美味しいなぁ』と飯屋の前で喧伝してオレの(ふところ)の深さを広めるようにな」


「何か恩着せがましいなー」


 その言葉に姉がアガウェーを小突き、二人揃って頭を下げる。彼は気にすることもなく、頭をかきながらアクビをした。


「薬の材料は……まぁ無理か。焦らず気長にいけよ」


「うん……頑張る」


 眉を下げるアガウェー。


焦燥(しょうそう)感があるのは分かる。だが、気のはやりは動作を狂わせ視野も狭くする。ゆっくりと一歩ずつ、大地を踏みしめるように確実に進め。大丈夫、間に合うさ」


「なるほど……そうだね、分かった! 助言ありがと! それと狩りのことはお父さんに秘密にしてね!」


「分かってる。あのおっさんが許すはずないからな。じゃあ、オレはそのジジイに飯を届けるからお別れだ」


 キュクロは何となくアガウェーにデコピンをかまして二層にある姉妹の父親の元へ食事を届けに歩き出した。



 キュクロは気怠(けだる)げな足取りで姉妹の父親の元へ向かっていた。二層の端の小部屋で立ち止まり、竜骨でできたドアを開ける。


「よう。食事だぞ。生きてるか?」


 姉妹の父親“ポルスタ・フラズグズル”がベッドに上半身を起こして横たわっていた。その壮年の男は白髪(しらが)混じりの黒髪で、頬は痩せこけており死神に取り憑かれたような顔をしていた。


 父ポルスタは、迷宮固有の二大大病の一つ迷斑(めいはん)病に(かか)り、ベッドからほとんど動けなくなっていた。


 迷斑病は、迷宮に居続けると罹る病で体にマダラ模様が浮かび、症状が進むと皮膚は腐り、やがて死に至る。


 父ポルスタの袖口から黒い斑点が覗いていた。


「娘達はどうした?」


「上の鍛冶場で仕事を手伝わせてる。すぐには帰れないぞ」


 姉妹が竜狩りに出たことは約束通り伏せている。


「いかがわしいことをさせていないだろうな?」


「その発想はなかったな。年頃の娘だし、それもいいかもな」


「貴様……!」


 みるみる鬼のような形相になるポルスタ。


「冗談だ。まだ元気がありそうでよかったよ」


「……ふん、冗談はすかん。慎め。それで薬の材料は手に入ったのか?」


「ねぇよ、あんなレアもの。うちの派閥は戦闘に関して専門外の奴ばかりだしな」


「使えん奴らだ」


「あんたと一緒でな」


 お互い、ふん、と鼻を鳴らした。


 ポルスタは脇に立て掛けられた豪奢(ごうしゃ)な意匠の剣を見やる。


「我が由緒正しきフラズグズル家当主とあろうものがこんなゴミクズ共と暮らさねばならんとは……青熊騎士団と合流できればお前達など全員打ち首にしてやるものを……病さえ病さえどうにかなれば……!」


 血が出るほど唇を噛み締める。


「またそれか。年寄りは過去の栄光に縋るのが好きだな」


「過去の栄光だと!? 貴様に何が分かる! 私は必ず騎士団を復権させ竜を滅ぼしてみせる!」


「そうかい、楽しみにしてるよ」


 キュクロは膝を打って立ち上がる。


「さて、楽しいお喋りは終わりだ。しっかり食って養生(ようじょう)しろよ」


 そう言い残して出口の扉を開ける。瞬間、足元を黒い影が通り過ぎた。


「ん? ゴキブリか?」



 しばらくしてケイオスに侵入していた不定形生物コバコがリンドウの元へ戻ってきた。身振り手振りで中で起きたことを説明する。


(なるほど、分からん)


 いろいろあったので動きだけでは解読が難しい。両方喋れないことの不便さを改めて実感した。それでも文字を書くなどで時間を掛けておおよその事態は理解した。


(懸賞首か。くだらんな)


 人民にはパンとサーカスを与えておけば大方操れる。そのサーカス部分が懸賞首狩りというわけだ。何も頼るもののない暗闇でたった一筋の光明が差していればそこに向かっていくしかないのだ。それが罠だとしても。


 コバコが疑問符の形に変形してこれからどうするかを尋ねる。リンドウは爪で木に文字を刻む。


『二人の御守(おも)りだ』


 父親の病気を治すための材料探しを手伝うと約束を交わし、事情を知って関わった以上は仕方ない。それが英雄なのだから。


 ただし、しばらくは陰ながら“神様”として支援するのみ。盲目的に竜を狩り、首と素材を姉妹の元に並べて、はい終わり。ではリンドウが居なくなれば姉妹は(またた)く間に竜の餌だろう。


 ある程度鍛えて竜と渡り合えるようにする。竜との戦いを見ていて二人には光るものがあった。並の人間なら竜を前にしたら怖気付くだろう。初めこそ及び腰だったが、最後は覚悟を決めて戦っていた。


 強靭(きょうじん)な精神力を持っていれば自然と肉体が付いてくるのは必定(ひつじょう)。剣の腕も騎士の家系だけあってか才能はある。


 さらに懸賞首制度のせいで最悪の事態を想定しなければならない。この制度は長期的に見れば危険なことが起こるとリンドウは考えていた。そのため、火急の事態に備えて姉妹をある程度戦えるようにしたい。


 キュクロに関しては、やはり簡単に翼を作ってくれそうもない。信頼を得るという面でも姉妹の御守(おも)りをするのが近道なのだろう。


 と、いろいろと考えたが、結局は“姉妹を助ける”という気恥ずかしさを隠す不器用な男の言い訳なのだ。


(さて、少し巣を間引いておくか)


 目的は決まったが、姉妹が休んでいる間じっとしているのは性に合わない。


 リンドウは怪しく笑い、竜を狩るべく森へ消えていった。

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