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【完結】竜殺しのリザードマン 〜竜に支配された世界で自分だけ“竜殺し”の力を手に入れて“劣等竜リザードマン”になった男の逆襲物語〜  作者: 一終一(にのまえしゅういち)
第2章 懸賞首狩り編

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第26話 犯罪迷宮都市ケイオス1・竜討伐組織ギフト

 リンドウと出会った次の日の朝。アップル、アガウェー姉妹は竜の首を持って住処である迷宮都市に戻った。


 犯罪迷宮都市ケイオス。アマゾ大森林の北西にあり、元死刑囚“デァトート”が統括しているそこは暴力こそが正義の小さな世界。


 強い者が奪い、弱い者が奪われる。あらゆる犯罪が行われ、奪われた者は自業自得と唾を吐かれる。そんな無法地帯に姉妹は住んでいた。


「どいてどいてー!」


 迷宮第四出入口より帰った二人は、人がひしめく狭い路地を抜ける。途中、見張りのお兄さんや襤褸(ぼろ)をまとったおじさん、娼婦のお姉さんなどの知り合いと挨拶しながらいくつか角を曲がると開けた場所に出た。


 広場奥に建てられた懸賞首狩人(かりゅうど)集会所、通称“ギフト”の本部が見える。


 ギフトとは、犯罪迷宮都市ケイオスだけにある組織だ。竜の出現によって大陸の国々は陸路を使った大規模な輸送ができなくなった。それにより人材、物資、情報などが手に入りにくくなり、前時代的な閉鎖された村社会が形成され、迷宮都市ごとに独自のルールが発生するようになった。


 ここケイオスも例に漏れず、デァトートが統治する際、他とは違うルールができた。まず彼は竜の攻撃から都市を守る防衛組織が必要と判断し一考を案じた。


 ケイオス市民は彼が他の罪人を引き連れて来たため荒くれ者が多い。(ゆえ)に正義感という(おぼろ)げなものでは動かなかった。そこで竜の首に懸賞をかけたのだ。それは通貨だけでなく物品、土地、権限、役職など多岐(たき)に渡る。


 褒賞(ほうしょう)という確たる目標を与えることで賊どもを動かそうと考えたのである。結果的に策は(はま)り、防衛だけでなく積極的に外へ狩りに行く狩人も現れ、独自の竜討伐組織“ギフト”が完成したのだ。


 姉妹がギフトの扉を勢いよく開け放つ。


「たっだいまー!」


「やぁ、おかえり」


 ギフトの受付係の男“ハーン”が笑顔で迎える。黒い短髪で愛らしさの中に妖艶(ようえん)さも兼ね備えた美男だ。


「ハーンさん! みてみて! 竜を倒してきたんだよ!」


 背嚢(はいのう)から急いで首を取り出そうとするアガウェーをハーンが止める。


「うんうん、ここで開くと血が出て汚れちゃうかもね。僕を殺す気かい?」


「あわわ、ご、ごめんなさい!」


「相変わらずアガウェーは食べちゃいたいくらい可愛いね」


 アガウェーは頭を撫でられた。柑橘類の香りが鼻腔(びこう)をくすぐる。


 やれやれといった感じで姉アップルが前に出た。


愚妹(ぐまい)がすまない。鑑定してもらえるか?」


「任せて。首を斬った時に使った武器も渡してくれるかい?」


「ああ、そうか」


 討伐証明のために竜の首と切るときに使用した武器が必要なのだ。“鷹獣(たかじゅう)竜の鑑定鏡”を使えば容易に鑑定できるので偽造は難しい。


「鑑定している間に奥で身体検査受けてきてくれるかな?」


「はーい!」


 迷宮の外からきた者は、竜の血が体内に入っていないか傷の有無を検査される。二次被害を防ぐためだ。


 奥に進み、竜骨の扉を開くと茶髪で二十代くらいの左手薬指に指輪をした若い女性がいた。


「あら、かわいいお嬢さん達。私はレフティ。見たことはあるけど話すのは初めてね」


「こんにちは! アガウェーです!」

「姉のアップルです。検査よろしくお願いします」


 二人は礼儀正しく頭を下げる。レフティは優しく微笑み、作業を始めた。


 二人の竜器の鎧“竜鎧(りゅうがい)”を慣れた手つきで脱がしていく。


「竜を倒したんだってね。凄いじゃない」


「神様が助けてくれたんだー!」


「へぇ、ご加護があったのねぇ」


 若干意味合いが違うが、話はそのまま進む。


「レフティさんは結婚してるんだよね?」


「うーん? ああ指輪ね。婚約はしてるけど今は結婚する時期じゃないってさ」


「えー? 甲斐性(かいしょう)なしさんだねぇ」


「まぁね。でもしっかりしてる人だから心配してないよ」


 レフティは、二人の身体を強化する肌着“竜衣”を脱がして傷がないか入念に確認する。


「おやおや、お熱い感じですなぁ……ひぎゃ!」


 にやにや笑っていたアガウェーは背中を強めに叩かれた。


「はい、終わり。異常なしよ。とはいえ粘膜摂取している可能性もあるし、一日行動が制限されるから注意してね」


「はーい! ありがとうございました!」


 一度迷宮外へ出たものは移動区域が制限される。竜の血が体内に入ってから竜化までの時間は個人差があり、半日近く変化しないものもいる。そのため、帰還した者の移動を制限しているのだ。


 検査の終わった二人は竜器を着直し、行動制限を示す札を首に下げて受付に戻った。


「まだ終わってないから座って待っててよ」


 鑑定中の受付係ハーンが言った。


 姉妹は、彼が指差す先、小脇に据え付けられた椅子に座る。


 アガウェーは足をブラブラさせながら周囲を見回す。受付以外に酒場があり、丸テーブルとスツールが並べられ、武装した荒くれ者達が談笑している。壁には竜の目撃された位置情報、懸賞首の名前、雑務依頼書などが張り出されていた。


 アガウェーが目で文字を追っていると、突如として影が差し、ガタイの良い赤みがかった髪の男が話しかけてきた。


「ようガキども。竜の頭どこで拾ってきたんだ?」


「はぁ? 拾ってないよ! ちゃんと倒したもん!」


「あーん? 初の狩りでズブの素人二人が討伐できるわけねぇだろ」


「本当だよ! 神様が助けてくれたんだよ!」


 男はその発言に目を丸くし、直後吹き出した。


「ブハハハハハ!! かかかかかか神様ぁ? そんなもんがいるならガキなんか助けてねぇでさっさと竜を滅ぼせってんだよ! ブハハハハハ!!」


「いるよ! 神様は良い子しか助けないんだよ! あんたみたいな嫌な奴は助けないの!」


「ハッ! 俺ほど良い奴はここじゃいねぇぜ? 俺が神ならお前みたいなタヌキは助けねぇよ。畜生は泥水でも(すす)ってろ」


「なにをーー!」


 両者が子供みたいにいがみ合っていると受付のハーンが戻ってきた。


「はいはい、喧嘩しないでね。二人ともお待たせ。結果は……おめでとう記念すべき一頭目だよ」


「ほんとに!? やったぁ!」


 それを聞いた赤毛の男は面白くなさそうな顔をした。


「ふん、どうせ死体から切り取ったんだろう。次はないだろうな」


 男はバカにしながら自分の仲間の元へ戻っていった。


「……お姉ちゃん、アイツムカつく!」


「今は我慢しよう。大人ってのは子供をバカにしたい生き物なんだよ。認めさせるには結果を残すしかない。大丈夫、私達には神様がついてる、だろ?」


「むー、そうだよね……うん、頑張ってあんな奴見返してやろう!」


 アガウェーは体の前で拳を作り、『頑張るぞー』と何度も正拳突きをしていた。前向きなのが彼女のいいところだ。


 受付係ハーンはその様子を微笑ましく眺めていた。


「報酬はどうする? ケイオス通貨でいいかい?」


 二人は討伐報酬が書かれた紙を眺める。


血樹(ちじゅ)竜の樹脂(じゅし)巨樹(きょじゅ)竜のヒゲ、爆樹(ばくじゅ)竜の黄金の種、天樹(てんじゅ)竜の羽のどれかってないよね?」


「ああ、父親の病を治す薬の材料か……残念ながらないよ。どれも貴重だからね」


「……そっか」


 アガウェーはがっくりと肩を落とした。その姿に姉アップルが肩に手を置く。


「こればかりは仕方ない。私達自身で手に入れたらいいさ」


 二人は暗い顔をしつつも微笑み合った。


「じゃあハーンさん、ケイオス通貨ちょうだい!」


「了解」


 ハーンは通貨を姉妹に見せて袋に詰めた。


 二人は嬉しそうにそれを受け取る。するとアガウェーは姉の違和感に気づく。


「あれ、お姉ちゃん泣いてる?」


「えっ、いや違っ」


「うんうん、分かるよ。初討伐、嬉しかったんだねぇ。このアガウェーちゃんの胸で思い切り泣いていいんだよ?」


「だから違う! なんか分からないけど涙が出るんだよ」


「果汁でも出たの? ……アイタッ!」


 アップルは妹をぶん殴り、兜を被って足早に外へ向かった。


 外に出て彼女は咳を一つして気を取り直す。


「さぁ、お父さんの元へ行こう、と言いたいが行動が制限されるんだったな」


 父親の寝所は二層にあり、行動制限中は降りることができない。


「じゃあ、キュクロさんのとこに行こうよ! 今なら商業区でご飯食べてると思うし! ついでにあたし達も何か食べよっ!」


「そうだな。カミサマのおつかいもあるし……ただ、覚悟しとけよ。黙って出てきたから怒られるのは間違いない」


「だよね、うぅ、じゃあ歯を食いしばっておくよ!」


 そう言うと歯をむき出しにカチカチ合わせ始める。


「今からだと疲れるだけだぞ」


 アップルが頭を小突いた。


 それから二人は、若干重い足取りで商業区域に向かった。

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