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【完結】竜殺しのリザードマン 〜竜に支配された世界で自分だけ“竜殺し”の力を手に入れて“劣等竜リザードマン”になった男の逆襲物語〜  作者: 一終一(にのまえしゅういち)
第2章 懸賞首狩り編

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第25話 神降臨?2・交渉

 リザードマンのリンドウは、偶然出会ったポンコツ姉妹の姉アップルと妹アガウェーと共に、星のきらめく夜空の下、大樹の(うろ)で暖をとっていた。


 姿を見られた以上、竜や迷宮外の情報を直接聞いた方が良いと踏んで同行することにしたのである。


 光る竜の鱗を囲むように座る二人と一頭。火だと煙が出て竜に気付かれる可能性が高まるので“光茸(ひかりたけ)樹竜の鱗茸(うろこたけ)”を使ってほんのり明るくするだけに留めている。


 竜器の内、主な用途が戦闘以外のものを“竜具”といい、竜の素材を加工せずそのまま使ったものを“竜材”という。


 光茸樹竜の鱗茸は、キノコ型の鱗の竜材で、暗い夜道を歩いたり、目くらましに使ったりできる便利な品だ。無加工で使えるので買うにしても安価で、旅路には欠かせないものとなっている。


 それを真ん中に重ねて置いて、端に姉妹が並んで座り、リンドウは向かいに座っている。鱗茸は火ほど暖かくはないが、二人は着ている竜器のお陰で寒くない。


 姉妹は兜を脱ぎ、容姿が露わになる。


 姉アップルは暗めの赤毛が肩口で外に跳ねていて、前髪の一部が青緑に染められており、葉のついたリンゴの果実のようだ。顔つきは、切れ長の目に潤んだ瞳、長い睫毛、顎のラインが細い美人だ。動物でいうなら猫っぽい。


 妹アガウェーは明るめの赤毛が肩口で内側に巻いている。丸みを帯びた顔つきで犬を彷彿(ほうふつ)とさせる。美人というより可愛らしいという表現が合う。


「改めまして妹のアガウェー・フラズグズルですっ! こっちはお姉ちゃんのアップル・フラズグズルだよー!」


 姉のアップルは警戒しながらもぺこりと頭を下げる。


「それにしても、まさか神様がいるなんて思わなかったなー」


「いや、どう考えても中に人が入ってるだろ。多分竜に変装して潜入任務的なやつだ」


 どちらも違うが、勘違いしてもらっていた方が都合がいいので黙っていることにした。


 会話のためリンドウは木の壁に文字を掘り始めた。


『お前達あんなところで何をしていた?』


「もちろん竜退治だよ。お父さんの病気を治すために必要な材料を集めてるんだ」


 病気が治る竜の材料なんて聞いたことがない。


『そいつで病気が治るのは本当なのか』


「うん! 迷斑(めいはん)病っていうの!」


 迷斑病は二大迷宮病の一つで、迷宮で過ごし続けると(かか)るといわれており、不治の病とされているものだ。


『胡散臭いな』


「本当だよ! 昔、といっても三年くらい前だけど、突然槍を持った知らないお医者さんが訪ねてきて目の前で薬を調合して病気の人を治したんだよ!」


 槍を持った医者。ますます胡散臭いとリンドウは思った。姉アップルの方に視線を向ける。


「……間違いない。私も見た。治療されたのは私達の住む都市の古株(ふるかぶ)だったからイカサマではないだろう」


 嘘はついていないようだが、疑惑は晴れない。


『医者の名は?』


「分かんない! あたしの頭を撫でた後、すぐ居なくなっちゃったから」


 少女趣味か。胡散臭さ倍増だ。と、リンドウは目を(すが)めた。


「それより神様について教えてよ! 名前は何ていうの?」


『秘密だ。神は真名を明かしてはならない規律があるからな』


 自分で書いていて恥ずかしくなるが、これくらいの方が逆に信憑性(しんぴょうせい)が増すと開き直る。


「ふぅん、神様も大変なんだねー。目的は? どうして人間界に?」


『調子に乗ってる竜に裁きを与えに降臨した』


「へぇスゴイ! 救世主だ! これで世界が救われるかも!」


 皮肉を言っているわけではないようで、呆れるほど純粋なアガウェー。この(すさ)んだ世界でよく生きてこられたものだとある意味感心する。


 姉の方はリンドウを警戒しているようで値踏みするように見ていた。自分は騙されないぞと言わんばかりだ。竜の目の前で兜を脱ぎ、生身を晒している時点でマヌケなのだが。


「あれ、でも何で竜の姿なの?」


『この方が警戒されず裁きを与えられるからな』


「随分とせこい戦い方だね!」


 天然毒舌アガウェー。(あお)りが効かないリンドウは特に気にしない。


「あれ、でも翼はー?」


『体作りに失敗してな。翼を作れそうな奴を知らないか?』


「うーん……あ、キュクロさんなら作れるかも!」


「!」


 リンドウは、目をわずかに見開く。探していた人物と同じ名前だ。


「キュクロさんは、優秀な竜器鍛冶師で、あたし達に強力な竜器を作ってくれたんだー。これも余った材料で作ってくれたんだよ」


 アガウェーは、クロスボウを取り出し、ナデナデした。


(余った材料というのは、キュクロの嘘だな。竜器は貴重なものだし、雑魚二人に渡すには体裁(ていさい)が必要だったのだろう)


 リンドウは、キュクロを信頼できるかも知れないとほんの少しだけ思った。


『すまないが、そいつに翼の作成を頼めるか?』


「うん! あたしに任せ――」


 話しの腰を折るように姉アップルが手をかざし、妹アガウェーを制止する。


「条件がある。病を治す薬の材料探しを手伝って欲しい」


『神に交渉か?』


「私はまだ信心(しんじん)深くないからな」


 リンドウは口角を上げる。バカにしては頭が回るようだ。


 そして(おもむろ)に頷き了承した。


 その後、リンドウの正体を公言しないと誓わせ、他の細かい部分も擦り合わせて各々(おのおの)行動を開始した。

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