第23話 アマゾ大森林
五年前、ムーランディア大陸を襲った六頭の竜に対して人類はなすすべなく蹂躙された。
まず無能な働き者が死んだ。
次に有能な働き者が死んだ。
残った有能な臆病者は言い訳を取り繕い、竜でも破壊できない迷宮に引きこもった。その者は王族、貴族と呼ばれる者だった。
さらにそこから溢れた無能な臆病者とずる賢い人間も迷宮に逃げ込んだが、限られた資源を奪い合い殺し合った。その者は平民、貧民、罪人と呼ばれる者だった。
その中のとある詐欺師は北の山にある迷宮に竜教という宗教迷宮都市を作って私欲の限りを尽くした。
また、とある元死刑囚は南西の森林にある迷宮に法のない無秩序な犯罪迷宮都市を作り破壊の限りを尽くした。
そして現在——翼のない竜リザードマンになった男リンドウは、ガーラ大迷宮を抜けた後、その犯罪迷宮都市の入口があるアマゾ大森林にいた。森は円形の大陸の南西部をほぼ埋め尽くすように広がっていて、上空から俯瞰すると扇形に見える。
別名“虚実の森”と呼ばれ、竜でも破壊できない迷宮の植物と破壊できる地上の植物で構成されており、偽物と本物が入り混じることからそう呼ばれている。こういった地上と混ざり合って形成された迷宮を総称して“半迷宮”という。
リンドウは、森の北西で木に擬態していた。目の前でジッとしている迷宮トカゲと跳梁跋扈する竜の様子を静観中だ。
(さて、どうするか)
目下の目的は二つ。樹王竜ニーズヘッグの巣を探す事と、自分用の偽の翼を作ることだ。
樹王竜は、破滅の六王と呼ばれる世界を恐怖に落とした始まりの竜の一頭であり、リンドウが唯一目撃した王竜だ。噂ではアマゾ大森林に樹王竜の巣があるらしく、最終的に竜の駆逐が目的のリンドウは探す必要があるというわけだ。こちらは竜を殺し回っていればいずれ発見できるだろう。
問題は翼をどうするかだ。翼は頑丈であれば飾り羽でもいい。必要な理由は、見た目を完全に竜にすることで竜の巣に潜入するためだ。飛べない分、搦め手が必要なのである。
自称天才鍛冶屋ドゥワフでも作れなかったそれをどうにか手に入れたいと思っていた。彼の息子“キュクロ”なら作れるらしいが、訪ねるにしてもこの姿では簡単に会えるか分からない。
リンドウは、とりあえず彼のいるらしい森の北にある迷宮付近に来ていた。
(もう一つやることがあったな)
空飛ぶ竜の倒し方を模索することだ。迷宮では道が狭く天井も低かった。だから翼のないリンドウでも対等に渡り合えたが、地上ではそう上手くはいかない。
高さという三次元的動きが加わることで遠距離からの一方的な攻撃、仲間を呼ぶ、逃げる、など敵に有利な選択肢が大幅に増える。
(実戦を重ねながら手探りだな。コバコを竜にぶん投げるのも面白いか)
物騒なことを思われているとは露知らず、同行者の黒い不定形の謎生物“コバコ”は、片手に乗るくらいの小さな箱から触手を出し、ウネウネとイソギンチャクのように踊っていた。
マイペースな相棒を呆れた目で見ていると、感知能力に竜の反応が引っかかる。
(来たか)
見張っていた池に竜が舞い降りた。
竜を狩る方法の一つが食事、または水分補給中に倒すこと。飢餓は視野を狭くさせ、判断能力を鈍らせる。倒すには絶好の機会だろう。
狙われているとは知らず、竜は呑気に水を飲んでいた。
——玉樹竜タンブルウィード。二枚の翼と、藁のような体毛を持つ。球体になって突進する。荒野を転がってそうな竜。その愛らしい姿から隠れファンがいたりする。とある宗教の幹部もその一人——
樹竜は樹王竜ニーズヘッグの血を引いている。
特徴は複数のツルを持っていることだ。攻撃、防御、捕縛など中近距離で役立つ。厄介な特性だ。
もう一つ特徴を挙げるとするならほとんどが竜血以外にも自然由来の人体に有害な毒を持つ。リンドウは、他の竜と同じく魔法で作ったもの以外の毒が効かないので、その点は問題ないだろう。
「ガブゥガブゥ」
玉樹竜は頭をもたげ、水をガブガブ飲んでいる。この場面だけ切り取ると家畜のようで可愛らしいとさえ思うだろう。
(人間と同じだな。大人しいと可愛げがある)
だが、害獣は害獣。容赦はしない。
リンドウは木の幹を蹴り、一瞬で竜との距離を詰めた。左手に装着した琥珀色の鉤爪ヘルタロンで首を刈り取る。竜は声すら出す間もなく絶命した。
(周囲に敵影なし)
眷属竜はいなかった。地上の竜は単独行動も多い。自由に飛べるため守りを固める必要がないからだ。
(食事中に狙うのはやはり定石か。後は、睡眠中だな)
習性的にはこれらを狙うのが有効だろう。しかし、二枚の翼を持つ眷属竜や徒竜などの雑魚はいいが、四枚の翼を持つ衛竜以上の敵となれば厳しいのは間違いない。何か他の付加要素が必要だ。
思案していると突如として異変が起こる。
「どりゃああああああああ!!」
唐突に気合いを入れたような少女の甲高い声が聞こえた。リンドウは木を飛び移り、声のする方へ向かう。
そこには竜の素材でできた武装“竜器”に包まれた二人の十代後半であろう少女がいた。




