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【完結】竜殺しのリザードマン 〜竜に支配された世界で自分だけ“竜殺し”の力を手に入れて“劣等竜リザードマン”になった男の逆襲物語〜  作者: 一終一(にのまえしゅういち)
第1章 ガーラ大迷宮編

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第22話 違和感

 一区アマゾ大森林方面第三出入口付近。リンドウとコバコは竜の残党狩りをしながら出口へ向かっていた。


 多数ある出入口の中でここを選んだのは、森なら竜と戦いやすいと考えたからだ。三次元的戦闘となれば飛べないリンドウは、平地ではいい(まと)だろう。だが、森なら高い木があり、対等とはいかないがそれなりにやれるであろう、という判断だ。


 森なんて竜に破壊されて終わりと思うかもしれない。ただの木ならそうだが、アマゾ大森林は“迷宮樹”と呼ばれる竜でも破壊できない植物が生えており、倒木させることも、燃やすこともできない。リザードマンにとって、打って付けの狩り場というわけだ。


(さて、もう少しか)


 出口まで数回ほど曲がれば着くというところで通路の先に人影が現れる。


「よう」


 茶色の髪とヒゲを持ち、土色の鎧を着た中年男、鍛冶屋ドゥワフだった。


「本当にやっちまうとはな。白獅子達は大騒ぎだったぜ。リザードマンが出たってな」


 自分のことのように機嫌よく話すドゥワフ。


「ほらよ鎧だ。着てみな」


 背負っていた鎧を降ろす。


 “避役竜鎧(ひえきりゅうがい)”。リンドウ用に上半身のみの鎧で、袖を削っており、見る角度によって色が変わる構造色をしている。


 腕を通すと違和感なくぴったりだった。さすが職人の業といったところだ。


 試しに【体色変化】で黒色になる。すると、体と鎧、寸分のズレもなく漆黒へと変化する。さらに鉤爪も呼応するように変色していく。


 完璧。それがリンドウの抱いた感想だ。色ムラもなく、擦れて音が出ることもない。まるで体の一部のようだった。


 さらにコバコ用に鎧の前脇と後ろ脇に二つずつ隙間があった。当人は嬉しそうにポケットからポケットへ移動して遊んでいる。


「気に入ってもらえたようだな。【脱皮】もできるように前面と背面を開くようにしといたぞ。後で試してくれ。ただ、悪いんだが翼は付けられなかった」


 翼は繊細で加工が難しいらしく、ドゥワフの工房では道具が足りない。また、技術も足りないらしかった。


 正直、翼がないのは痛い。今後、竜の住処に潜入するかも知れないことを考えると無翼は目立ち過ぎる。飛べなくとも飾り羽で良いので欲しかったが、下手に作ればすぐに壊れたり、取れたりして無意味だろう。


 ドゥワフの発言はそれを含めて“作れない”ということだ。


 コバコに変身してもらいたいが、触手か球体、あとは剣っぽいもの、槍っぽいもの、杖っぽいものにしかなれない。翼なんて複雑なもの不可能だ。


 こちらの気も知らずコバコはタコのように機嫌良くウネウネと踊っていた。このやろう。


「俺様の息子“キュクロ”ならできるかもしれない。お前の行くアマゾ大森林内にある“犯罪迷宮都市ケイオス”にいるはずだ。俺様の名前を出せば協力してくれるかもしれねぇ」


 まず、息子がいることが初耳で驚きだが、余計なことは言わないようリンドウは口を真一文字に結んだ。


「ガーラは俺様と白獅子が守る。お前は必ず王竜を倒して戻ってこい」


 静かに頷いた。


「俺様はずっとお前達二匹の味方だ。たとえ誰が否定し、罵倒しようともずっと仲間だ。それと——」


 一度溜めを作り意を決して続きを話し始めた。


「一度しか言わないからよく聞けよ。お前達は俺様にとって“英雄”だ。ガーラを救ってくれてありがとな。旅の無事を祈っている」


 心からの言葉だった。


 一人と二匹は力強く拳を付き合わせた。


 これからが本当の戦いだ。空飛ぶ竜に、衛竜、王竜。怪物どもの有利な状況での戦い。想像を絶するだろう。


 だが、リンドウが臆することはない。彼にはコバコがついているし、妻ダリアも側で見守ってくれているはずだからだ。


 ドゥワフに手を挙げて別れの挨拶をし、踵を返して歩き出した。遥か先を見据えるようにしっかりと前を向き、リンドウがドゥワフを振り返ることはなかった。


 見えてるから。



(ここを曲がれば出口だ)


 最後の角が見え、光が溢れていた。久しぶりに見る日の光が目に染みる。コバコも眩しさに触手で目を覆う仕草をした。目はないが。


 そして、ついに出口から一歩を踏み出した。


 (すが)めた目を開け、辺りを見ると鬱蒼(うっそう)(しげ)る木々が林立していた。後ろを振り返ると悪魔が大口を開けるかの如く(たたず)むガーラ大迷宮の入口。


(入口……出入口……)


 リンドウの頭を違和感が襲う。


 ——世界中の上り坂と下り坂の数は一緒。


 ふと、ワッパの話が思い浮かぶ。入口は出口でもある。


 ——赤眼の目撃情報はいくつかあったな。……緑の方は俺様も見たぜ。


 ドゥワフは青眼のことは言っていなかった。緑眼を見たなら似ている青眼のことを言及してもいいはずだ。竜が一区から来ているとしたら誰も青眼を見ていないのはおかしくないだろうか。


 そして、十区の眷属竜になったダリア達の死体は“ちょうど”村人の人数分しかなかった。


 ぴったりとなれば、元々の眷属竜はいなかったということだ。竜に不利な地形である迷宮で眷属を全く連れずに一区から十区まで来るだろうか。はたまた地図外から来るだろうか。もし、竜は一区から順に侵攻していたのではなく、“十区から始まった”のだとしたら。


 今思えば眷属を作って離脱する戦法を取る竜ばかりなのに一人だけ眷属にされることもなく死んだ奴がいた。


 その名は——エスカー。リンドウの住んでいた集落の狩り仲間だ。


 そこまで考えて、落ち着くために一旦息を吐く。


(……考え過ぎか? ……だがもし正解だとしたら狙いは——)


 自分の手を見る。鱗の生えたリザードマンの手。狙いは間違いなくこの体、ひいては血液だろう。竜を殺すためか。もしくは他に何か理由があるのだろうか。


(いや、やめよう。エスカーは大切な仲間だ)


 彼を疑いたくない。だが、もし、もしも。リンドウを利用するためにダリア達を殺したのだとしたら。


(俺が取るべき選択は……)


 リンドウは疑念をかき消すように頭を振り、今は目の前の竜退治に集中しようと前を見据える。


 そして、大地を踏みしめるようにゆっくりと森の奥へ消えていった。



 リンドウも気付かないほど遠い崖の上、一頭の緑の竜が(たたず)んでいた。


(当初の計画は狂ったが最終的にラグナロクに奴が生きていれば問題ない。私が取るべき行動は——)


 顎に手を当て、刹那の思考の後、“六枚の翼”を大きく広げる。


「リンドウよ、地獄とは天国の形をしているものだ。簡単に死んでくれるでないぞ」


 そう呟き、リンドウの遥か上空を飛行していった。


 こうしてそれぞれの思惑を乗せて舞台はアマゾ大森林へ。



【第1章 ガーラ大迷宮編】 —終—

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