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第203話 終焉へと続く道1・蛇屍竜ヨルムンガンド戦

 世界樹九十層。雷槌(らいつち)屍竜トールを倒したリンドウ一行であったが、休む間もなく次の層が咲いた。


 そこは天井が見えないほど高い吹き抜けの空間で、壁沿いに上へ登る螺旋(らせん)階段がついている。九十層とつなぎ目がなく直通のせいで早くも新たな屍竜と対峙(たいじ)することになった。


 ——(へび)屍竜ヨルムンガンド。六枚の翼を持つ黒い蛇型の巨大な竜。加速、遅延(ちえん)、停止など物体の時を操る“時魔法”を使う——


 敵は、空中で螺旋を描きながらリンドウ達を視認した。


「オオオオオ!」


 矢庭(やにわ)に口を開くと光のブレスを放った。それが途中で分散して光線の雨が降る。


「ぬおおお! 死ぬぅ!」


 鍛冶屋ドゥワフがてんやわんやしていた。


「クソッ、雑魚は下へ!」


 リンドウがドゥワフとキュクロを雑に鷲掴(わしづか)みにして、下層に通じる通路へぶん投げた。


「あぎゃあ!」


 ドゥワフは素っ頓狂な声を出して通路へ転がり落ちて行った。


 一方、残ったリンドウは、とんがり頭状態を解除して光の雨を避けた。


「オオオ!」


 続いて敵が体を震わせると、人間の大きさくらいある巨大な鱗の刃が降り始めた。木の葉が舞うように落ちてくる。しかし、そんな生易(なまやさ)しいものではなく、速度は様々で緩急(かんきゅう)がついており危険だ。


「ふむ、舐めるなよ」


 カドモスの合図により一瞬で組み上がった帝王竜ファフニールの骨。口から漆黒の重力砲を上空へ向けて放った。


 敵鱗の平たい部分に直撃。が、鱗はびくともしなかった。


「むぅ、固い……!」


 重力砲が効かない。時を止めた物体はリンドウの血か琥珀(こはく)武具でしか壊せないのだ。


 さらに鱗が巨大になっていく。時を進めて鱗を成長させたのである。


「血を当てるしかないか」


 リンドウが螺旋階段を避けながら壁を垂直に駆け上がっていく。カドモスも飛翔して続く。


「オオオオオ!」


 だが、敵の広範囲ブレスにより空間に(ふた)をされた。さらに魔法でブレスの時を止めて破壊できない(かたまり)が降る。リンドウが血で破壊を試みるが連続で降る塊の勢いに負けて落下する。


「チッ! 下に行け!」


 全員、慌てて下層に繋がる出入口へ。


 最後尾のリンドウが遅れる。


「リンドウくん!」


 ヒサメが叫ぶが間に合わない。彼女が手を引っ込め細道に入ったと同時、轟音(ごうおん)。ブレス塊により穴が(ふさ)がれた。リンドウだったものはグチャグチャに潰れて跡形も無くなった。


「危なかった」


 リンドウは生きていた。【体質変化】で硬質化させた脱皮殻(だっぴがら)をつっかえ棒代わりにして潰されるのを防いだのである。


 ということで、どうにか全員無事だった。


「ふむ、厄介(やっかい)じゃのう。とりあえず下層で休憩じゃな。あのデカさ、下までは追って来れんじゃろ」


 リンドウ達は一時的に下の層へと戻った。



 世界樹八十九層。木目調の空間。


「んで、どうすんだぁ? あんな縦長の空間で馬鹿でかい竜に上を陣取られちゃ先に行けねぇ。オマケによくわかんねー硬くする魔法使うし無理だろ」


 中年親父ドゥワフがお手上げのポーズ。


「次の層が出来上がるまで待つのはどうじゃ? 横をすり抜けられれば図体のでかい奴は上がって来れぬはずじゃ。来たとしても隘路(あいろ)で返り討ちにすれば良いしの。もう人間も上がって来んじゃろうから無理に屍竜を倒していく必要もあるまい」


 と、カドモスが提案した。


「…………」


 リンドウは無言。何やら考え込んでいる。


「ったく、なんだよその消極的な策は」


 鍛冶師キュクロが頭を掻きながら茶々を入れる。


「だが他にどうするのじゃ?」


「“琥珀武具”を使うんだよ。現状、魔法を破れるのはリンドウの血か、それだけだからな」


「なるほどの。偶然か因果(いんが)か、琥珀武具が全て揃っておるしの」


 と言ってカドモスが背後に目配せすると、骨兵ペローロスが琥珀の杖を持ってきた。


 他はリンドウの鉤爪(かぎづめ)、ジャンヌの長剣と短剣、ハルバドの斧、ヒサメの盾、テイルの弓矢、槍、鎧だ。


「テイルが持ってきた鎧と槍を持て余してるよな」


 お手上げのポーズを取るテイル。運び屋に無茶を言うなよ、といった感じだ。


「鎧を調整して戦闘の達人である黒狼(こくろう)団の誰かに着せようと思う」


「ふむ、リンドウ以外に全身で魔法を受けられるものが居れば楽になると言うわけじゃの。しかし、道具はあるんかの?」


「さっき屍竜から手に入れた雷槌があるし、最低限のもんは持って来てる。親父もだろ?」


「あたぼうよ! 鍛冶屋たるもの、いつでもどこでも武器を作れるよう得物(えもの)を持っとくもんだ!」


 流石にどこでもは無理だろうが誰も言及しなかった。


「カドモスの骨もあるしな。道具に不足はないだろ」


「ぐすん、ワシ都合のいいお爺さんになってしまったのう」


 泣き真似をするカドモス。全員が白けた目で見ていた。骨兵ペローロスも。


 そんな微妙な空気の中、ジャンヌが前に出た。


「私が適任だろうな」


 黒兜を脱ぎ、金髪碧眼(へきがん)が露わになる。すると、ドゥワフが目を丸くした。


「な!? 美人なねーちゃんが出てきた!?」


 彼は、この中でただ一人彼女の正体を知らなかったのだ。


「私に()れるなよ?」


 自信家であるジャンヌの妖艶(ようえん)な笑みがドゥワフに向けられた。


「俺様には妻がいるからそれはない!」


「別れただろ」


 と、キュクロ。


「おい、バカ息子! 別れてない! 別居だ!」


 ともかく、ジャンヌが着られるように鎧を手直しすることになった。

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