第19話 白獅子団5・噂
白獅子団副団長一行は、慎重に広場へ移動していた。道中の異様な光景に息を呑む。そこら中に転がる竜の死体。そのどれもが一撃で首を落とされていた。中央広場へ入ると屍山血河の中心に翼のない漆黒の竜が悠然と立っていた。
「ひっ」
団員達は、狂人が描いた絵画のような光景に絶句する。
無翼竜の手には団長の白銀竜剣。こちらを視認し、それを地面に突き立てると対角の出入口に消えていった。
団員達が恐る恐る剣の元へ近づくと、そこには外套に包まれた団長の亡骸があった。
「そんな団長が……まさかあの竜に」
その団員の一言に副団長デプティーは頭を横に振る。
「いや、それはない。俺達を殺していないからな。恐らく剣と死体を渡すために運んできただけだろう」
「なぜそのようなことを……中身は人間なのでしょうか?」
「あり得るかもな。それを可能にさせうるのはオレが知る限り二人だけ。伝説の剣闘士ドレイクと、黒狼団団長ジャガだ」
どちらも会ったことはないが、誰もが知るほどの豪傑。特に後者は人類で唯一、四枚の翼を持つ“衛竜”を狩っている猛者だ。
もし、人間だとしたらこちらと交流しないのはなぜなのか。やはり間違っていて人間ではなく、気まぐれで助けただけなのか。
答えは出ない。知るのは無翼の竜だけなのだから。
「だ、団長!」
残りの団員が駆け寄り、団長の亡骸を見て焦燥する。
「そんな嘘だ……」
「俺達これからどうすれば……」
「せっかく生き残ってもこれじゃあ意味がない……」
意気消沈する面々。
「狼狽えるな!!」
副団長デプティーが一喝した。空気が張り詰める。
いつだって団長リダの後ろを歩いてきた。二人で作った白獅子団は実のところリダが作ったのを付いていっただけだった。
アイツが何とかしてくれる。頭にはいつもその考えがあった。だがもう彼はいない。
もう後ろを歩くのは終わりだ。今度は自分が先頭で皆を導く存在になる。
「今からオレが団長だ! 勝ち鬨を上げよ! 我ら白獅子は悪竜に勝利し、ガーラ大迷宮を奪還したと!」
白獅子は誰が団長になっても良いように訓練しようと二人で話し合った。それはデプティー自身も含んでいる。だから自分が団長になり未来に繋げるのだ。
「そうだ! 我々は悪を滅ぼしたのだ! 新団長を祝え! 勝利に歓喜しろ!」
察した参謀メガネのサンボが団員を煽る。
それに呼応するように次々と声を上げる。
「そ、そうだ、俺達は勝ったんだ!」
「前を向け、豪儀に吼えろ!」
「うおおおおおおお!」
その場の全員が手を掲げ、声を荒げる。
「白獅子ッ!」
「白獅子ッ!」
「白獅子ッ!」
そこかしこで歓喜の雄叫びが響く。ようやくの勝利。
(悪いな、無翼竜)
眉を下げる新団長デプティー。
ほとんど翼のない竜のおかげであるが、箔をつけるため手柄を奪ったことに若干の罪悪感を覚えたのだった。
喧騒が辺りを包む中、サンボが新団長に話しかける。
「あの竜は何なのでしょうか? 爬王物語のリザードマンを思い出しましたが」
「ああ、オレも同じことを思った。だとしたら奴は“救世主”かもな」
過信はできない。しかし、どのような意図であれ人を救ったことに変わりはない。
(リザードマン……お前が何なのかはどうでもいい。今は感謝する)
デプティーは、竜の消えた通路へ向けて視線を送った。これから市民への勝利報告、残党狩り、破壊された街の立て直しなど、やることは山積みだ。
新団長デプティーは、勝利の喧騒を名残惜しみながらマントを翻し、本部のある二区へと戻っていった。
——ガーラ大迷宮に現れた竜で最も脅威だった赤眼が死んだことで竜の連携は瓦解。
狩る側だった竜は狩られる側へと変わった。
こうしてガーラ大迷宮の大乱は終息し、人々は復興へ向けて歩みだしたのだった。
一方、その日を境に噂が広がる。
竜殺しのリザードマンが現れた、と。




