第14話 鍛冶屋ドゥワフ5・おせっかい
緑眼の竜ディノとの戦いが佳境に入っていた。
リンドウは一足飛びに天井に移り、駆ける。尖った足場を渡り、コウモリを払いのけながら、飛行している緑眼竜と距離を詰めていく。
「ガァガァ!!」
叫ぶディノ。近くに来るまで敵が悠長に待ってくれるはずもなく、またしてもブレスを放射する。
リンドウは鍾乳石を引っつかみ回避。鱗を敵の足下へ投げる。その時、下のサボテン群から眷属竜がリンドウ目掛けて襲いかかってきた。
伏兵だ。サボテン群に隠れ潜んでいたのだ。
が、リンドウの感知能力が気付かないはずもなく特に焦りはなかった。あえて敵の元に落下していく。敵と接触直前に口を膨らませ、胃に仕込んでおいた鶏眷属竜の紫卵を勢いよく吐き出した。
——一部のカエルは胃を出し入れできる——
卵が敵の目に直撃して視界を失って焦る二体を踏み台にディノへ再び飛びかかる。ディノがブレスを吐く間もなく、距離が詰まる。
敵が距離を取るべく横に動きだした瞬刻、リンドウがカメレオンのような長い舌を伸ばし水平になぎ払う。何もしなければ体の中心を絡めとれる軌道。
ディノは下に逃げれば翼が絡めとられると判断したのか、とっさに上昇した。しかし、上は天井が近く、わずかしか上がれない。また、体が横に流れていたため躱しきれず足の先に舌が触れる。
「グガッ!?」
ただ掠っただけにも関わらず舌が粘着し、手綱を無理矢理引っ張られたかのごとくリンドウ側へ引き寄せられていく。
——カメレオンの舌は長く伸びる上、先から分泌される粘液は脅威の粘着力を持っており、舌を巻きつけなくても当てるだけで獲物をくっつけて引き寄せることができる——
引きずり下ろせないなら逆に上げてしまえば回避できなくなる。すべてはリンドウの掌の上だった。リンドウは縦軸回転し、尻尾でディノをなぎ払いにかかる。
「グルガァ!」
ディノは応戦すべく魔法を纏い、かかと落としをする要領で右の足爪を振り下ろす。
そして、尻尾と足爪が接触する瞬間、リンドウは【自切】した。
——ヤモリは敵に襲われると尻尾を切り離して逃げる——
「ギッ——!?」
空を切る爪撃。勢い余り傾ぐ体。
リンドウがその間隙を見逃すはずもなく、回転の勢いそのままに鋭い斬撃でディノの右腕を刎ね飛ばす。
「グォォォォォォ!」
右腕を失ったディノは動揺するが、すぐに左脚で反撃へと移る。だが、焦燥は心の乱れ、心の乱れは魔法の乱れ。安定しない魔力の蹴りはいとも容易くリンドウの牙で止められ、食い千切られた。
「ガアアアアア!!」
リンドウはすぐに足を吐き出し、舌で翼を掴んで引き寄せると紙を千切るかのごとくたやすく食い破った。おまけに腹部に蹴りをお見舞いする。
「グガァッ!」
ディノは血を吐きながら勢いよくサボテン群へと叩きつけられた。
リンドウはサボテンの青臭いにおいと砂埃の漂う地上へ着地すると、血だまりの中にディノが倒れているのを確認した。ディノは緑眼だけ動かしリンドウを睨む。
(中々楽しかったぞ。外なら負けていたかもな)
リンドウがゆっくりと近づき、首を刎ねようとした瞬間。
「グォォォォォォ!」
横から飛んできた眷属竜が決死の覚悟でリンドウへ襲いかかる。リンドウは焦ることもなく粘液を纏い、敵の体を滑るように移動して懐に入ると無慈悲に喉を食い破った。
その隙にディノは失った左脚がわりに魔法で無理矢理固めたサボテンをくっつけていた。満身創痍の緑眼は奥の通路へ逃げていく。
リンドウはあえて追わなかった。なぜならその方向には——。
◇
ディノは足を引きずりながらも懸命に逃げていく。逃げる先に影が一つ。
「チッ、くだらねぇことしやがる」
土色の全身鎧を着たドゥワフは悪態をつく。
リンドウがなぜ逃したか。答えは簡単。ドゥワフに殺させるため。
クロスボウを構える。
「グルル!」
ディノは唸り声を上げ威嚇する。
「本当にムカつく顔してやがるぜ。こんな奴から逃げてたなんてバカみてぇだ。……俺様と仲間の借り、返させてもらうぜ」
刹那、充分に引き絞られた矢が放たれる。意外な速さにディノは反応できない。しかし、ただの矢ごときで鱗を貫けはしない。その鏃が“リンドウの牙”でできていなければ。
矢は竜の頭を容易に貫通した。
「グ……ギッ」
ディノはなにが起きたのか理解していない。
「じゃあな、クソ野郎」
もう一本放たれた矢が胸の中心を貫く。
「ガゥゥ……」
ついにディノはその場に崩れ落ちる。宝石のような緑眼に二度と光が宿ることはなかった。
ドゥワフは兜を脱ぎ、髪を搔き上げ、大きく息を吐きだした。
少しして脱皮殻からネックレスとその他の荷物を回収したリンドウが姿を現した。
『悪いな。逃した』
「ケッ、白々しいな! ……だがよ、感謝するぜ」
二人は勝利を祝うように拳を突き合わせた。




