第137話 分断2・金鉱竜ゴルド戦
リンドウは、シトラテペト火山の南東で黄金の体を持つ金鉱竜ゴルドと対峙していた。
地対空の状況。周囲に高地はほぼない。下手に傷を負わせれば逃亡するだろう。故に一撃で仕留めるか、少なくとも翼の半分をもぎ取らなければならない。
(容易じゃないな)
だが、それはいつものこと。今までも不利な状況から勝利してきたのだ。今更、焦ることもない。
『来ぬのなら、こちらから行くぞ』
ゴルドの両手が発光すると同時、液体になった魔法金が溢れ出した。波打つ鞭となってリンドウを狙う。
『つまらない攻撃だな』
リンドウは、足に力を込めて難なく避ける。さらに間髪を容れずブーメラン状の鱗を投げた。
『それが面白い攻撃か?』
首を軽く横にずらし回避された。だが、伊達にブーメラン状な訳がなく、孤を描きながらゴルドの背中に迫る。そのまま首を切断する、と思いきや、空中で破裂。中に仕込んでいた竜殺しの血液の雨が降る。
『ふん、雑魚ほど奇策に頼る』
冷笑するゴルドは一瞥もせず、羽ばたいて回避した。
『ゴルル! 竜殺しの血とは厄介よな。が、手品はタネが分かればどうということはない』
『さすがだな。カラスよりは頭がいいようだ』
『ガハハ! そうだろうそうだろう……ん? 褒めているのか?』
一拍考えるゴルド。あまり頭は良くない。
『まぁいい、さっさと死ねぃ!』
再び両手が発光して黄金の波が顕現した。それがリンドウごと大地を飲み込む。下には、金の湖が出来ていた。
『ゴルルル! この程度で死ぬ貴様ではなかろう! さっさと出てくるがよい!』
反応はない。
『……ま、まさか、居ない!? また逃げおったか!?』
ゴルドが地上を隈なく探していたその時、背後に気配。見ると、金色の物体。
『なっ! いつの間に!? だが!』
一瞬の隙もなんのその、背中から黄金の槍を飛ばし、それを貫いた。しかし、それはリンドウの【脱皮】した皮だった。本体はその裏にいた。
(掛かったな)
まず、リンドウは黄金の波が襲いかかってきた時に、死角が多いのを利用して一瞬で穴を掘り、身を隠して移動。その後、大跳躍で敵の上を取ったのだ。
【体色変化】で金色にしたのは敵に見つけやすくさせるため。ゴルドは死角を補うため自身の体に反射したものを捉えていた。なので背後の攻撃を知ることが出来たのだ。
リンドウは、それをブーメラン型鱗を投げた時に見抜き、体を金色にして光を反射することでワザと見つけやすくした。そうすることで敵に一手使わせることに成功。
(まずは一撃……!)
リンドウは、脱皮殻を足場にゴルドへ接敵、翼を一枚噛みちぎった。
『グゥ、やりおる!』
敵は一度、距離を取るべく羽ばたく、が。
リンドウは体に付いている尖った鱗をクロスボウのごとく射出した。筋肉を急激に収縮させることで発射したのだ。これで投擲動作を省略して相手の虚を付ける。
『ぬぅ! 芸が細かい……!』
ゴルドは若干の焦りを覚えるが、体を液体にしてどうにか躱す。
しかし、間を置かずリンドウは残しておいた足の皮を“部位脱皮”した。それを泡のように弾けさせ、足場にして強襲。
『まだまだ!』
ゴルドは体を器用に畳んで避ける。バカとはいえ衛竜。簡単には倒せない。
このままでは、落下して形勢逆転だろう。だが、リンドウには最終兵器——コバコがいる。
その相棒が急激に膨張、岩のような球体となった。リンドウは、それを足場にまたしても跳躍。体勢を崩している敵へ一直線に向かう。
『ぬ! やらせぬっ!』
ゴルドが翼を引っ込める。が、リンドウの狙いは。
『翼を守っている場合か?』
直後、鉤爪一閃。
『なぬっ……!?』
敵の首を切断した。一撃目で翼を狙っていると思考誘導し、翼を庇ったところを本命の首を狙ったのだ。全ては布石。リンドウに接近を許した時点で勝負は決まっていた。
『ぬうぅ! ……見事っ!』
落ちる首。その顔には悔いのない清々しい表情が浮かんでいた。
(よし、次だ)
ここまでは順調。リンドウは周囲の戦況を瞬時に把握し、次の衛竜へ向けて大跳躍した。




