第136話 分断1・コモドゥ、黄豹団、海狩団
ついに地王竜トラルテクトリとの決戦の日を迎え、連合軍が敵のいるシトラテペト火山の周囲に陣取っていた。
南に構えるはコモドゥ率いるルーマ軍。かつて剣闘士ドレイクにより鍛えられた彼らは世界最強の軍隊といわれていた。しかし、突如現れた帝王竜によりあっけなく壊滅させられてしまう。だが、コモドゥが再び作り上げ、以前と遜色ないほどの強軍隊へと相成った。
「陛下自ら戦場に出るなど前代未聞です。どうか前に出過ぎぬようお願いいたします」
「王が道を切り開かずに民が付いてくるかよ。安心しな。各国の精鋭どもがいるんだし、俺が死んだところで士気は下がらないぜ。むしろ死んでマヌケと唾を吐いて士気を上げるような奴らさ」
「そういう問題では……」
頭を抱える付き人。そこに兵が駆け寄ってくる。
「陛下、全軍準備が整ったようです」
「そうか。いよいよだな」
作戦の第一段階は、山の周囲の竜巣を破壊すること。それにより、衛竜を火口からおびき出すのである。
「見せてやろうぜ。人類の強さってやつを」
コモドゥは大きく息を吸った。
「全軍、突撃! 地王竜を討ち滅ぼせっ!!」
「うおおおおおお!!」
山の裾野のあちこちで角笛や鏑矢の音が響く。地中に隠れていたもの達が一斉に飛び出した。
コモドゥは、いの一番に馬で駆け出していた。完全に虚を突かれた竜達の首を刎ねていく。
「オラオラどうした! てめぇらの餌がワザワザ来てやったんだぜ!? 盛大にもてなしやがれ!!」
剣を蛇のようにくねらせ、馬上から器用に天敵を殺していく。
混乱していた竜達だが、徐々に冷静さを取り戻して反撃に移る。
先陣を切るコモドゥの元に竜の凶刃が迫る。その時、銀閃。竜の首が落ちた。
「やれやれ、世話の焼ける人だ。せめて私より先に死なないでくださいよ」
付き人兼近衛兵が助けたのだ。
「さすが俺の右腕だ。俺を死なせたくなけりゃしっかり付いて来いよ!」
「はぁ、仕方ありませんね」
近衛兵は、ため息を漏らしながらも破茶滅茶な皇帝に追随するのだった。
◇
少し時間が遡り、山の東側。ジャガー柄の民族衣装に包まれた“黄豹団ルナジャガー”が戦いの合図を待っていた。
ネコ科のようなヒゲ模様を顔に描いている団員の一人が血よけの仮面の隙間から空を望む。
「日に違和感がある気がする。少し傾き過ぎているような」
「はぁ? 大方、緊張して時間が思ったより経ってたんだろ。気にするな」
「だといいが」
思考を塗りつぶすように甲高い笛の音が山の周囲に響く。
「いざ行こう! 我らが母なる大地を取り戻すのだ!」
走り出す獣達。
黄豹団の戦い方は独特で、貴族のようなお上品な戦い方でも、軍隊のように統率の取れた動きでもない。
「いやっはぁ!」
獣のように飛び回り、時には四足歩行をしたり変則的な動きで敵を翻弄する。個の強さが、全体の強さを引き上げるのだ。
爆ぜて舞う火の粉のごとく縦横無尽に飛び回り竜を屠っていく。
が、そこに流れを変える竜が降臨する。
「ルルルルゥ!」
歌うような叫声を上げるルビー色の衛竜が現れた。
◇
山の南東。こちらではホクオ国軍、海狩団ヴァイキングが竜を殺し回っていた。
大陸北西湖群地帯に住んでいた彼らは、日光で日焼けした肌に水場で鍛えられた体躯を携えて戦場を駆ける。
「おら、死ねぇぇぇぇぇぇ!」
魚を獲るための投網技術の応用で竜を捕縛、地面に引きずり落とすと、船を漕ぐための道具である櫂のような形をした竜器で撲殺していく。
刹那、金塊の雨が降る。一瞬、兵達は夢のような光景に心を奪われるが、それは敵の魔法攻撃であるとすぐに気付く。
「よ、よけろ!」
「無理だ! があああ!」
質量爆弾が人間を肉塊へと変えていく。
その地獄の一場面を上空で愉悦の笑みを浮かべながら眺める竜がいた。黄金の体躯に四枚の翼、黄金魔法を使う衛竜。悪夢を降らせたのは他でもない、かつてリンドウがファフニール帝国から逃げる際に戦った衛竜、“金鉱竜ゴルド”だ。
「ゴオオオオ!」
咆哮を上げて、周辺の人間を震え上がらせる。怯んで動きの止まった人間達に容赦なく金の槍を浴びせる。次々と命が刈り取られて行く。
とある一人の男にも凶刃が迫っていた。
「う、うわああああ!」
顔が恐怖に染まり、死相が浮かぶ。が、死んだと思われた男は首根っこを持ち上げられ間一髪当たらなかった。
助けたのは漆黒の鱗と黄金の瞳を持つ翼のない竜——リンドウだ。【鱗変化・竜速型】で速度を上げてここまで来たのだ。
「リンドウ殿! 助かった!」
『北側にルビー色の衛竜が出た。援護に回れ。ここは俺がやる』
「任せる!」
去りゆく兵を見送り、金鉱竜ゴルドに向き直る。敵は予想通りリンドウに釘付けだ。
『誰かと思えばこのゴルドから尻尾を巻いて逃げたリザードマンではないか』
『あの時は尻尾を置いていったはずだが』
『ふん、くだらん言葉遊びを。先刻は、よくぞ逃げ切ったな。だが、奇跡は二度起きないぞ』
『同意だな。お前はここで死ぬ』
両者再び相見える。




