表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】竜殺しのリザードマン 〜竜に支配された世界で自分だけ“竜殺し”の力を手に入れて“劣等竜リザードマン”になった男の逆襲物語〜  作者: 一終一(にのまえしゅういち)
第5章 地王竜トラルテクトリ編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

133/216

第133話 黄鉄鉱竜パイライト&氷州鉱竜アイススパー戦

 地王竜討伐用武器の材料を集め始めて二十日が過ぎた。


「はい、献血終わりまちたよー。よく我慢できまちたねー」


 リンドウはすっかり看護師の言葉遣いに慣れて、何も感じなくなっていた。


 ヤレヤレと立ち上がると、よろめく。そこをジャンヌが腕を掴んで支えた。


「ふん、軟弱者め」


『支えがいがあるだろう?』


 戯言(たわごと)を、と腕を放して背中を叩く。師弟の仲でもある両者は、(はた)から見れば恋仲にも見えるだろう。ただ、片方は竜なのでペットを手懐(てなず)ける飼い主、という構図が正しいのかもしれない。


 そこに虹色髪の変人パスコが入室してきた。


「やぁ、みんな。ジャンヌ君の武器が完成したよ」


 袋から剣を取り出してジャンヌに渡す。前々から頼んでいたものだ。衛竜との戦いで黒狼(こくろう)竜剣が折れてしまったのでちょうど良かった。


「ほう」


 真っ白な剣を見つめるジャンヌ。


 (さや)は白を基調としながら所々に金の意匠(いしょう)(ほどこ)されており、高貴な印象を受ける。ゆっくりと剣を引き抜くと、新雪のごとき白い剣身が現れた。雪解け水のような半透明の刃が光を反射して見るものを魅了する。


「どうだい? 君の愛剣、その名も“帝王竜剣フィエルボワ”は?」


 ジャンヌは剣を振り、空を斬る。


「悪くない。が、黒がよかったな」


「そうかい? 君の黒の鎧と合わさってシマウマみたいでカワイイよ」


「ふん、褒め言葉と受け取っておこう。おい、犬。行くぞ」


 今日の材料集めは、リンドウ、ジャンヌ、コバコだけだ。他の黒狼団員は用事があって居ない。


『剣に使われないようにな。シマウマ娘』


「私はじゃじゃ馬だからな。蹴られないように離れていろよワニ男」


 そのやり取りにパスコが納得したように(うなず)く。


「うんうん、仲良しだねぇ。二人きりの逢瀬(おうせ)、楽しんでくるんだよ」


 のけ者にされたコバコがプンスカ怒ったのは言うまでもない。



 西に行った先、リンドウ達は“火氷(かひょう)地帯”に着いた。炎と氷が同居する不思議な場所で平原に無数に開いた穴から火や細氷(さいひょう)が噴き出している。


 平和な世界であったなら、見るものを魅了する幻想的な光景であっただろう。しかし、竜が蔓延(はびこ)る今、大地が怒り悲しむ終末の世界にしか見えない。


 リンドウ達が大口を開けた怪物のような洞穴(ほらあな)へ入っていく。内部も赤と青の空間が広がっていた。左側が炎色で熱く、右側が薄青(うすあお)色で寒い。


「左に行きすぎるなよ。イモリの黒焼きになるぞ」


『お前は右側を歩くといいぞ。その減らず口が()てついてちょうど良くなる』


 コバコは、やれやれと肩を(すく)める。


 そうして親睦(しんぼく)を深めながら進んだ先、いつもの奴らが姿を現わした。


 ——鉱石型獅子(しし)眷属竜ロックスフィンクス。ライオンが竜血で変化したもの。四足歩行で黄土色の体表を持つ——


 呑気(のんき)にアクビをしていた竜達だが、ジャンヌ達を見ると威嚇(いかく)を始めた。


「作戦は虐殺(ぎゃくさつ)だ。足を引っ張るなよ」


 言い終わるやいなや、走る。白と琥珀(こはく)の剣を抜き、敵とすれ違いざまに振り下ろして二頭の首を落とした。


 立ち止まることなく奥へ奥へと進む。黒い狼に横切られた眷属竜達は恐怖も知らずに死んでいく。


 そして開けた場所に出る。中心に二頭の目的の竜がいた。


 ——黄鉄鉱(おうてっこう)竜パイライト。徒竜。赤い体表を持つ。様々なものを剥がす“剥離(はくり)魔法”を使う——


 ——氷州(ひょうしゅう)鉱竜アイススパー。徒竜。青い体表を持つ。様々なものを貼り付ける“貼付(ちょうふ)魔法”を使う——


 その素材は、竜殺しの血液を冷凍と解凍するのに使うのだ。


「遊びに来たぞ。大人しく首を差し出せ」


「グルル……!」


 竜達は突然の侵入者に顔面にしわを寄せて低く(うな)る。


「いいのか? そんな顔のまま死んで後悔するぞ」


 直後、ジャンヌは砂煙だけ残してその場から消える。竜は怒り顔のまま首が吹き飛ぶ。


「ほう」


 白い剣に炎が張り付いていた。青い竜の貼付(ちょうふ)魔法だ。


「冷やしておけ」


 と言って、炎を(まと)った剣を敵に投げる。竜の顔面から首の中腹を真っ二つにし、勢いそのままに氷の壁に突き刺さった。天井に貼り付いていた新手の青い竜が氷のブレスを放つ。


「ふん」


 汗一つかかず、軽く(かわ)す。近くの赤い竜が土を直道(ちょくどう)のような形に()がして波打たせる。そのまま道を持ち上げ鞭のようにしてなぎ払った。


「洗濯物でも(たた)むのか?」


 ジャンヌは焦ることもなく、琥珀(こはく)色の剣でベルトでも切るように両断した。他の竜が炎のブレスを吐く。かわした後、それが氷を溶かして水が滴る。


「こいつはいい」


 それを見て思い付いたように竜と竜の間に立つ。次の瞬間、両方の竜から同時にブレスが放たれる。炎と氷が接触。水蒸気が発生。ジャンヌはその内部に隠れる。


『飛べ!』


 そのリンドウの“信号”に竜達が反射的に飛ぶ。浮いたところをカメレオンのような長い舌をなぎ払う。舌の中腹に竜の首が当たった。それを支点に舌先に付けた“ジャンヌの剣”をなぎ払い、竜の首を切断。


 そのすぐ後に剣を離す。遠心力で回転しながら水蒸気の中に飛来。潜んでいたジャンヌが受け取り、残りの竜を(ほふ)る。そして、視界が晴れた頃には生存している竜は残り一頭となっていた。一度振り返るジャンヌ。


「また小細工したな?」


『忘れたな』


 リンドウは、竜のみ通じる信号を飛ばすことで敵の行動を操ったのだ。敵は水蒸気により視界が遮断されているため信号に頼らざるを得ず、『飛べ!』と指示されたことで竜は反射的に飛んでしまったのだ。


 ジャンヌは、剣の柄に付いたリンドウのヨダレを拭き取る。


「後で剣の手入れ代むしり取ってやるからな」


 そう吐き捨て、最後の竜に向き直った——その時だった。


 甲高い遠吠えが聞こえてくる。直後、近くの氷の壁にヒビが入り、崩壊した。その先から何かが飛び出して、青い竜の首を噛み切る。竜肉を咀嚼(そしゃく)しながらジャンヌを()め付ける銀眼の竜。


「ふん、ようやく会えたな」


 その竜は、ジャンヌの因縁の相手、銀狼獣竜フェンリルだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ