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【完結】竜殺しのリザードマン 〜竜に支配された世界で自分だけ“竜殺し”の力を手に入れて“劣等竜リザードマン”になった男の逆襲物語〜  作者: 一終一(にのまえしゅういち)
第5章 地王竜トラルテクトリ編

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第127話 辰砂鉱竜シンナバー&煙鉱竜サラモニアック戦

 材料集め四日目。本日は、リンドウ、斧好きハルバド、女好きヨクスの三者だ。もちろんコバコもいる。


「はぁ、ヒサメちゃん居ないのかぁ」


 ヨクスは、サラサラの赤毛を(おさ)えながら、大仰(おおぎょう)に肩を(すく)める。


「おまけに石像のように愛想(あいそ)がない二人。息が詰まるねぇ」


『そのまま窒息(ちっそく)してもいいぞ』


 ヨクスは、リンドウの皮肉を涼しい顔で流して話し続ける。


「さらに殺風景な風景。もっと華やかな場所で舞いたいね」


 目の前に広がるのは、墨色(すみいろ)の岩石で埋められた火山地帯。視界に入るすべての山の火口から噴煙(ふんえん)が上がっており、周囲には火山灰が降り注いでいた。


 今回の獲物は、辰砂(しんしゃ)鉱竜と(えん)鉱竜。サイコの父パスコに渡された紙に書いてあったその他の獲物だ。


 ヨクスが指差す先、山の中腹(ちゅうふく)辺りの斜面に不自然に(そび)える岩山があった。周りには眷属竜がいるので間違いなく竜巣(りゅうそう)だ。


「うーん、火口が近いねぇ。大噴火しないことを祈ろう」


 嫌な予感がするものの、撤退の選択肢はないのでそのまま進む。大きな岩が少なく隠れにくいが、(さいわ)い全員黒いので自然と擬態できている。


 そして、眷属竜がくっきりと判別できる距離まで近付く。炎のように赤く、鳥のような容姿の敵が優雅(ゆうが)に竜巣周りを飛んでいた。


 ——鉱石型紅鶴(べにづる)眷属竜ロックフェニックス。フラミンゴが竜血で変異したもの。赤い宝石のような鱗を持つ。火に強い——


「飛んでいるのが厄介(やっかい)だね。三頭いるから一人一頭ずつ行けるかい?」


 黙って(うなず)く男達。


 はじめに動いたのはハルバド。糸付き手投げ斧をぶん投げる。三の一命中で仕留めた。間髪(かんはつ)()れずリンドウが【鱗手裏剣】を投擲(とうてき)。三の二命中。


 最後にヨクスが黒狼(こくろう)曲剣(きょくけん)を投げた。見事に首を切断。ブーメランのように戻ってきた剣を無駄に華麗に(つか)むと、(あご)に手を当てて決め顔。


投擲(とうてき)技術は俺が一番だね。ま、女性を()止めるテクニックの差が出たってとこだね」


 黒兜の下に妙に白い歯を浮かべていた。残りの二人はもちろん無視。


 そんなヨクスの行動に怒ったかのように近くの山が噴火。


「案の定か。この中に疫病神(やくびょうがみ)がいるのかもねぇ」


 と言ってリンドウ(神様)をじっと()め付ける。


『遊び人が山の怒りを買ったんだろ』


「それなら毎日噴火しているはずさ」


 軽口を叩き合っていると、音を聞いてか、あるいは眷属を狩られたからかは分からないが、獲物が二頭、竜巣から現れた。


 ——辰砂(しんしゃ)鉱竜シンナバー。徒竜。赤褐色(せきかっしょく)の体を持つ。色を赤に変える赤染(あかぞめ)魔法を使う。その鱗は、物を赤く染めるのに使える——


 ——(えん)鉱竜サラモニアック。徒竜。灰褐色(はいかっしょく)の体を持つ。煙魔法を使う。その鱗は、煙幕を張るのに使える——


 敵を視認したヨクスは白い歯を覗かせながら指示を出す。


「ハルバドは赤いの、俺は灰色を。リンドウは援護」


 肯定もそこそこに素早く散る三者。ハルバドが一呼吸で辰砂鉱竜に斬りかかる。


「シバァァ!」


 竜は、叫びとともに回避。横から流れてきた噴煙の中に隠れた。そしてすぐに自身の魔法で煙を赤に染め上げる。


 辰砂鉱竜の赤染(あかぞめ)魔法は、補助特化の魔法。ゆえに単体では雑魚であり、無理はしない。そして、敵が煙の中から隙をうかがっていた時。


「ゲコッ!」


 リンドウが【鳴嚢(めいのう)】を使ってカエルのように鳴いた。ハルバドがその声がする方向に手投げ斧をぶん投げる。


「シバゥア!!」


 敵は()頓狂(とんきょう)な声をあげ、煙の中から姿を現した。頭には斧が刺さっており、脳が割れた竜はその場にくずおれた。


 リンドウは【蛇眼(じゃがん)】で敵の位置を把握できるので、竜を挟んでハルバドの対角線に移動し、敵の居場所を音で教えたのだ。敵が煙使いと知っていたので事前に打ち合わせておいた策だ。


 その後も上手く連携して竜を狩っていく。一方、その頃ヨクスは、噴石(ふんせき)を上手くかわしながら、鼠色(ねずみいろ)の敵、(えん)鉱竜に迫っていた。


「まったく、こんなとこに家を建てるなんて物好きだねぇ。物価が安いのかい?」


 井戸端会議でもするように敵に話しかけながら斬りかかる。竜は、下がりながら飛び上がって回避した。すぐに煙を吐いて目隠し。そして自身を魔法で煙に変えて(まぎ)れる。


「魔法ってのは本当に厄介(やっかい)だね。だけど、対策を練っていれば余裕さ」


 突如、ヨクスの鎧の左前腕部が高速回転する。そして、上に(かか)げると小規模な竜巻が起こった。“紅葉(もみじ)樹竜の翼果鱗(よっかりん)”を(つな)げて作った竜器“穿孔転腕(せんこうてんわん)”だ。


「煙ってのは、風に弱い」


 強風により煙が分散する。


「そして、この手の魔法は呼吸のために実体化しないといけない」


 ヨクスが腰のクロスボウを抜いて構える。その矢は、通常のものとは違う“横這蛇矢(よこばいじゃや)”だ。“横這蛇爬(よこばいじゃは)竜の鱗”で作られたもので熱を持ったものを追尾する。


 ヨクスは敵が実体化する瞬間をじっと待つ。バラバラになった煙が一か所に集まり、竜型になった瞬間、引き金を引いた。


 一直線に獲物へ向かう。が、竜は首を引いて辛うじて回避。ヨクスは、それを見ても余裕の笑みを崩さない。


「天罰に気を付けなよ」


 直後、噴石(ふんせき)が竜の頭に直撃。外れたと思われた矢が熱を持った噴石を追尾して軌道を変えたのだった。


 大きく隙ができた敵にヨクスはすでに接近していた。


「美女に生まれ変わったらまた会おう」


 色男の笑みを浮かべながら首を()ねた。着地。曲剣を振って血を(ぬぐ)う。(さや)沿()うように剣を()わせて(おさ)める。そして舞い終わった踊り子のようにカッコつけて反転した瞬間。


 頭に噴石が直撃した。


「いってぇ!」


 黒狼獣竜の兜を被っているので無傷だが、締まらない男であった。



 休憩。二人と二匹は、車座(くるまざ)になって火を囲んでいた。ヨクスが揺らめく炎を眺めながら語りかける。


「なぁ、リンドウ。キミとジャンヌの関係ってどんな感じだい?」


『はっきりしない問いだな……ただの親類だ。まぁ、師弟関係でもあるがな』


「そうか……(うらや)ましいね。……彼女が銀の狼のネックレスを持っているのは知ってるよね?」


 (うなず)くリンドウ。


黒狼(こくろう)獣竜を倒した記念と言っていた』


「それは実は違う。昔、俺達が黒狼獣竜を倒した時なんだけど、ある一頭の徒竜に逃げられたんだ。それが今ジャンヌが追っている銀狼(ぎんろう)獣竜フェンリル。もちろん、逃がすつもりはなかったけど、竜に空を飛ばれたらどうしようもなくてね。で、銀狼は最後にこちらをひと(にら)みして去っていった。その時ジャンヌは(つぶや)いたんだ『私の目と同じだな』ってね」


 そこで一度区切り、(まゆ)を下げながら話を再開する。


「……復讐者が最も恐れるのは、さらなる報復ではなく、時間が経つことで復讐心が薄れていくことなんだよ。だから、彼女は同じ目を持つ銀狼のように復讐の火を絶やさぬよう、(いまし)めとしてネックレスを作り、肌身離さず持ち歩いているんだ。キミには弱みを握られたくないから話さなかったんだろうね」


『なぜ俺に話した』


「俺の言葉じゃ彼女に届かないからさ。俺は黒狼団の中だとピエロだけど外では色男で通ってる。町ごとに女を作れるくらいはモテるのさ。だけど、世の中にはどうしても落とせない女性ってのがいて、彼女もその一人。俺のどんな甘い言葉も厳しい言葉も届かない。それは心の内に明確な壁とでもいうべき人物がいるからだ」


 リンドウをまっすぐ見据(みす)える。


「……人は必ず誰かに影響を受けている。それは親であったり、偉人であったり。そしてジャンヌはリンドウに似ている。所作(しょさ)も言葉遣いも。それにキミに向ける笑顔はどこか柔らかい。誰よりも信頼して、尊敬している(あかし)だ」


 一度、目を()らして火に(まき)をくべる。


「ガーラ大迷宮に行ったのも気まぐれなんかじゃなくて、リンドウを探すためだったんだよ。竜が現れた今、彼女にとって最も頼れるのはキミだからね」


 照れを隠すように(ほお)をかく。


「何が言いたかっていうと、あれだよ……もし、彼女が辛い目にあってもキミの言葉なら必ず届く。だから、彼女を守って欲しい」


 リンドウは息を吐く。サイコといい、こいつといい、本当に——。


『黒狼団ってのは、お節介(せっかい)な奴が多いな』


「だから強いのさ」


 人間性というのは周囲の者でも判断できる。ジャンヌは、口は悪いが人望は厚く、有能な人間が自然と周囲に集まるのだ。


(少しは成長したんだな)


 直情的で、負けず嫌いで、ただの生意気な小娘だった彼女。それが地獄を知り、たった数年で大人になってしまった。それが良いことなのか悪いことなのかは分からない。


 ただ、死なせたくない。リンドウは純粋にそう思った。

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